NASA、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の画像5枚を全公開。天文学の新時代の幕開け告げる

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のイメージ。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のイメージ。

NASA/Adriana Manrique Gutierrez

7月12日日本時間深夜、NASAは2021年12月25日に打ち上げたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が初めて撮影した5枚の画像を公開した。

11日には、米バイデン大統領のもと、先んじて約46億光年先にある銀河団「SMACS0723」の画像が公開され、天文学の新たなる時代の幕開けに、世界の天文学ファンが歓喜していた。

12日に公開された残りの4枚の画像とともに、改めて画像を見ていこう。

1. 驚きの鮮明さ、重力レンズ効果で130億光年先の天体も

JWSTが撮影したSMACS0723の画像

JWSTが撮影したSMACS0723の画像

NASA, ESA, CSA, and STScI

まず1枚目の画像は、7月11日に先んじて公開された、約46億光年先にある銀河団「SMACS0723」だ。

JWST初の画像と身構えていた筆者からすると、これまでにハッブル宇宙望遠鏡などによって撮影されてきた天体画像とあまり変わらないようにも思えてしまった。しかし、同じ銀河団をハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像と見比べると、その凄さは一目瞭然だった。

ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された画像(左)と、JWSTで撮影された画像(右)。どちらもほぼ同じ領域を捉えたもの。

ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された画像(左)と、JWSTで撮影された画像(右)。どちらもほぼ同じ領域を捉えたもの。

NASA/ESA/STScI、NASA, ESA, CSA, and STScI

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像ではほとんど見えなかったような星々まで、はっきりと写り込んでいる。

NASAによると、SMACS0723の画像は、JWSTで合計12時間半かけて複数の波長の光を観察した結果だ。この画像は、これほどの数の星々がありながら「手でつまんだ砂粒程度」の視界の範囲を撮影したものにしか過ぎないというのだから驚きである。

こういった撮影の積み重ねによって、これから先、これまでとは桁違いの数の星々を観測できることが期待される。

また、この画像には、46億光年先にある銀河団SMACS0723よりもさらに遠くにある銀河や星団などの星々も写り込んでいる。これは、銀河団SMACS0723の巨大な重力によって「時空が歪んだ」ことで、SMACS0723よりも遠くに存在する星々の光がJWSTにまで届いた結果だ。このように重力の影響で、さらに遠くにある天体を観測できるようになることを「重力レンズ効果」という(下図参考)。

重力レンズ効果のイメージ。画像中心にある銀河の重力の影響を受けて、その後ろにある天体からの光が地球にまで届くことがある。

重力レンズ効果のイメージ。画像中心にある銀河の重力の影響を受けて、その後ろにある天体からの光が地球にまで届くことがある。

NASA, ESA & L. Calcada

遠くに存在する天体の光は、地球に届くまでに長い年月がかかる。逆に言えば、私たちが目にする天体の光は、その天体の「過去の姿」を捉えたものだ。NASAによると、今回撮影された画像の中には、130億年以上前の宇宙に存在する天体も写りこんでいるという。

宇宙が誕生したのは、今から約138億年前。誕生したばかりの宇宙の姿を解明するためにも、JWSTには期待がかかる。

2. 系外惑星に存在する「水」や「雲」の証拠を捉えた

スペクトル

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した、系外惑星WASP-96 bのスペクトル。所々に水(H2O)のスペクトルが見られる。

NASA, ESA, CSA, and STScI

2枚目の画像は、WASP-96 bという「系外惑星」のスペクトル画像だ。

系外惑星とは、地球が存在する太陽系の「外側」に存在する恒星(みずから光り輝く天体)の周囲を公転する惑星のことを指す。JWSTの観測では、この系外惑星の大気中に含まれる成分から放たれる特徴的な光の波長(スペクトル)を観測し、その成分をこれまでにないほど詳細に分析したという。

その結果、この系外惑星に「水」が存在する強い証拠が得られたほか、もともとこの系外惑星には存在しないと考えられていた「雲」や「水蒸気」などが存在する証拠も得られたという。

初期観測の期間でこれほど詳細なスペクトル分析が出来たことで、NASAはこれから先、生物が居住可能な惑星を探索する上で、JWSTが非常に大きな役割を果たすことになるだろうと期待を示している。

なお、WASP-96 bは、2014年に発見された、地球から約1150光年離れた場所に存在する系外惑星だ。

木星のようにガスでできた巨大な惑星であり、中心にある恒星の周囲をわずか3.4日というとてつもない速度で公転している。こういった惑星は「ホット・ジュピター」と呼ばれており、太陽系には存在していない。

3. 星雲の中心に存在する「2つ目」の天体が明らかに

JWSTが捉えた南のリング星雲の画像。左側の画像が近赤外線で捉えた画像で、右側の画像が中間赤外線で捉えたもの。

JWSTが捉えた南のリング星雲の画像。左側の画像が近赤外線で捉えた画像で、右側の画像が中間赤外線で捉えたもの。

NASA, ESA, CSA, and STScI

3枚目の画像は、地球から約2500光年離れた場所にある惑星状星雲のNGC3132だ。別名「南のリング星雲」とも呼ばれている、美しい天体だ。

惑星状星雲とは、寿命を終えそうな恒星から放出されたガスやダストが、中心部に存在する天体によって照らされているような天体である。

JWSTの観測結果として、2枚の画像が公開された。一つは近赤外線という赤外線の中でも比較的波長が短い光を観測したもの(上図左)。もう一つが、それよりも波長が長い中間赤外線を観測した画像(上図右)だ。2つの画像を見比べると、中間赤外線を観測した画像では中心部に存在する「2つ目の天体」の姿がはっきりと捉えられている

また、どちらの画像を見ても、この惑星状星雲にはまるで殻のように複数の層が重なっていることがよく分かる。これは、中心の天体によって照らされたダストの層だ。近赤外線を観測した画像では、より遠くの層まで見通すことができている。こういった層を作っているダストも、かつては中心にあった天体から放出されたものだ。このダストの層を詳細に分析することで、この天体が辿った歴史を垣間見ることができるという。

なお、かつてハッブル宇宙望遠鏡で捉えられた南のリング星雲と見比べると、その鮮明さの違いが際立つ。

南のリング星雲

ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された、南のリング星雲。

NASA/The Hubble Heritage Team (STScI/AURA/NASA)

4. 鮮明な「五つ子」の姿

JWSTが撮影した、ステファンの5つ子。

JWSTが撮影した、ステファンの5つ子。

NASA, ESA, CSA, and STScI

4つ目の画像は、「ステファンの五つ子」との異名が付けられた、5つの銀河が密集した「コンパクト銀河」というタイプの天体だ。この天体は、1877年というかなり昔に発見された、史上初のコンパクト銀河だという。

ペガスス座の方向にあり、画像の左側に映っている銀河以外は、地球から約2億9000万光年離れた場所に位置している。NASAによると、今回捉えられた画像では、この5つの銀河の中心に存在するブラックホールの影響で生じたダストやガスの流出の様子が、これまでにないほど詳細に捉えられているという。

近い距離にある銀河同士は、互いに近づいたり離れたりすることで影響を及ぼし合っている。今回撮影されたJWSTの画像から、銀河同士の間で生じるガスのやりとりの詳細が更に解明されるかもしれない。

5. 宇宙の断崖に芽吹く生まれたての星々の姿

カリーナ星雲

JWSTによって撮影されたカリーナ星雲。

NASA, ESA, CSA, and STScI

最後の画像は、「カリーナ星雲」と呼ばれる天体NGC3324だ。まるで山脈が連なっているかのように見えることから、“Cosmic Cliffs”とも呼ばれている。山脈から立ち上っているように見える蒸気のようなものは、この星雲から流れ出る高温のイオン化したガスやダストだという。

この領域は、もともと星が活発に生み出される「星形成領域」として知られていた。ハッブル宇宙望遠鏡でも過去に撮影されていたが、今回撮影されたJWSTの画像では、さらに詳細なようすを捉えられていることがよく分かる(下図)。

NASAによると、今回のJWSTの観測によって、これまで見つかってこなかったような誕生したばかりの若い星々の姿を捉えることができたという。

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したカリーナ星雲。

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したカリーナ星雲。

NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)


JWSTは、ハッブル宇宙望遠鏡や、すでに運用を終えたスピッツァー宇宙望遠鏡の後継機として期待されている次世代望遠鏡だ。当初は2010年の打ち上げを目標としていたが、計画段階から何度もスケジュールが遅延。2021年やっと打ち上げられた頃には、総開発費は100億ドルを超えていた。

長きにわたる時間と多額の資金を投じられた生み出された人類最高峰の「眼」が、ついにその能力の一端を披露したわけだが、その画像の鮮明さ、美しさには例え天文学者でなくとも驚くばかりだ。

これから先、JWSTは果たして宇宙のどんな謎を解明していくことになるのか。これまでにない宇宙の姿を見せつけてくれることに期待したい。

(文・三ツ村崇志

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