ザッカーバーグに試練。果たしてメタは乗り越えられるのか。
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デジタル広告の代理店にとって、2022年は厳しい年となっている。しかし、Facebookの親会社であるメタ(Meta)にとって問題はさらに深刻だ。場合によっては回復できないかもしれない。
アナリストたちはすでに、この巨大SNS企業が第2四半期に同社として初めてゼロ成長を記録するだろうと予測している。ロイターの報道によると、マーク・ザッカーバーグ自身も今の状況を「近年で最悪の不況の1つ」と呼んだという。Google、Twitter、Snapなどデジタル広告業界のその他の企業も、成長の鈍化に直面している。
しかし他社と違うのは、メタは完全に嵐に見舞われていることだ。その結果、メタから離れて出稿先を積極的に多角化させる広告主が増えているだけでなく、今回初めてメタから離れようとしている広告主もいる。
これまで相次ぐスキャンダルに見舞われても、広告事業さえ好調であれば常に収入を当てにできた同社にとっては大きな変化だ。
ある大手持株会社の代理店の上級幹部は、景気後退の影響は下半期には各社に及ぶだろうが、その中でもメタは顧客支出のシェアも失うだろうと述べ、「こんなことは初めてだ」と語る。
主要な広告予測会社は、2022年の広告支出全体の見通しを引き下げている。また、他の広告代理店幹部らも、メタは長い間「絶対に買うべき」広告枠だと考えられてきたが、今では顧客が削減すべき広告先リストのトップに上がっていると話す。
アナリストらも、メタはこれまで何年も爆発的な成長を続けてきたが、ここへきて失速しつつあると語っている。投資銀行ニーダム(Needham)のアナリスト、ローラ・マーティン(Laura Martin)は2022年7月11日、収益成長率の鈍化とメタバースのビジョンへの巨額投資を理由に、メタ株を「ホールド」から「アンダーパフォーム」に格下げした。
調査会社オムディア(Omdia)の主席アナリスト、マシュー・ベイリー(Matthew Bailey)は、メタの成長率は2021年の37%から、2022年通期で16%まで鈍化すると予想している。
「世界のデジタル広告の純収益に占めるメタの割合は、2022年に初めて減少すると我々は予測しています」(ベイリー)
これに対し、メタの広報担当者は「私たちのプラットフォームは企業が人々とつながる最良の方法を提供すると考えており、長期計画を着実に実行していくことに注力しています」との声明を発表している。
「評判の悪いプラットフォームに広告は出せない」
メタはビジネスモデルにも課題を抱えている。Facebookは、2021年にアップルが行ったプライバシーポリシー変更により、広告主が広告のターゲットを絞り、広告効果を測定する能力が低下したことで、他のアプリより大きな打撃を受けている。
一方、検索エンジン事業をコアとしているグーグルは、アップルのプライバシーポリシー変更による影響は比較的小さい。グーグルも今後数年のうちに、Androidアプリに同様のプライバシーポリシーの変更を導入する方針だと述べている。
Facebook上での誤情報やヘイトスピーチへの対応をめぐる、2020年の広告主ボイコットによる評判悪化はまだ解消されていない。Facebookの主な広告主である投資家や取締役会は、ESG(環境、社会、ガバナンス)基準への準拠も念頭に置き、企業の広告費をどこに投入すべきかを精査している。
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の元メディア責任者で、現在はメタも会員となっているマーケティングおよびテクノロジーの業界団体、MMAの会長であるルー・パスカリス(Lou Paskalis)は、Twitter、Pinterest、Snapといった他のソーシャルメディア企業の方が「ブランドスータビリティ(適合性)」についてうまく説明できており、ザッカーバーグは自社の広告担当者が以前持っていたほどの関心をブランドスータビリティに寄せていないようだ、と見ている。
パスカリスは、マーケティング担当者や投資責任者らについて次のように話す。
「評判リスクは今やエコシステムの一環ですから、投資時期については彼らも慎重になるでしょう。
今の消費者は、以前にも増して自分の価値観に従った購買行動をとるようになっています。BLM(Black Lives Matter:アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけにアメリカで始まった人種差別抗議運動のこと)のように、よく知られている社会問題を解決しようとしないプラットフォームに広告なんて出せませんよ」
FacebookよりTikTok
一方、メタの広告担当の役員人事は大きな転換期を迎えている。最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)の退任を間近に控え、デビッド・フィッシャー(David Fisher)やキャロリン・エバーソン(Carolyn Everson)など複数の広告担当上級役員が退社するなかで、広告業界以外でのキャリアが長いマーネ・レビン(Marne Levine)や、主にFacebookの海外広告部門で経験を積んできたニコラ・メンデルゾーン(Nicola Mendelsohn)らによる新体制に広告主が慣れつつあるようだ。
また同社は、広告の役割が決まっていないメタバースについて、コアアイデンティティを見直す複数年計画も発表した。
こうしたことから、メタに代わるプラットフォームを強く求める広告主にとって、他のプラットフォームも探しやすい状況となった。
ある広告バイヤーは「利用者の高齢化、TikTokの人気上昇、iOSのプライバシーポリシー変更問題による広告効果証明能力の低下など、メタには他にも多くの逆風が吹いています」と指摘する。
グーグル、メタ、アマゾンはこれまで何年も広告費の増加分を丸ごと懐に入れてきたが、TikTokやアップルも今年、Snapやグーグル傘下のYouTubeとともにFacebookを抑えてシェアを伸ばす勢いだと、イギリスの国際金融グループ、バークレイズ(Barclays)は2022年5月上旬の調査ノートに書いている。
「メタは今でも、クライアントにとっては認知度や広告費用対効果などの点で最大級の効果をもたらしていますし、私たちのソーシャルメディア予算の中でも重要な役割を占めています」と、広告代理店のPMGでソーシャル部門の責任者を務めるカーリー・カーソン(Carly Carson)は言う。
しかし、クライアントは今年、TikTokへの支出を「大幅に」増やす予定だとしており、TwitterやRedditに対しても大いに期待を寄せているとカーソンは付け加えた。
中小企業はまだFacebookを必要としている
とはいえ、メタの広告主の大半には何ら変化がないことは間違いない。広告主の大多数はプロモーションのためにFacebookを利用している中小企業だ。
こうした企業にとって、たとえアップルのプライバシーポリシー変更後Facebook広告の効果測定が難しくなったとしても、メタは今でもGoogleに次ぐ第二の広告ビジネスであり続けている。
実際、eコマース企業の中には、メタの広告価格低下を好機と捉えて広告支出を増やしているところもある、と広告代理店ネストコマース(Nest Commerce)の最高コマーシャル責任者(CCO)のルーク・ジョナス(Luke Jonas)は言う。
「動きの速いブランドにとって、これは経済的なムードではなくデータに反応するチャンスです」(ジョナス)
約150のD2Cブランドを扱うマーケティング効果測定プラットフォーム、ロッカーボックス(Rockerbox)のCEOを務めるロン・ジェイコブソン(Ron Jacobson)によると、顧客の総支出に占めるメタの割合は、2022年第1四半期の29.9%から第2四半期には31.7%に増加したという。しかし、2021年第1四半期が38.6%だったことを考えると、それでも減少している。
一方、TikTokはデータの取り扱いや中国とのつながりについて再び厳しい目に晒されており、そのことがTikTokの成長に水を差すおそれがある。
さらに、一部のデジタル広告業者とは違ってメタは数十億ドルに及ぶ現金を保有している。同社の貸借対照表には2022年3月31日時点で430億ドル(約5兆9000億円、1ドル=138円換算)以上の及び現金等価物と有価証券が計上されており、これがオンライン広告支出の大幅な落ち込みの影響を吸収するクッションの役割を果たしている。
しかし、メタにはまだやるべきことが山積している。メタは、アップルのプライバシーポリシー変更を受けて広告インフラを見直し、ユーザーのプライバシーを保護する形で広告ターゲティングを継続すると述べてきたが、これはこの先何年にもわたる取り組みになる可能性があると予告していた。
また、人気の短尺動画に参入すべく「リール」と呼ばれる機能も追加し、急速な成長を見せているが、収益化はまだこれからである。
前出の投資銀行ニーダムのマーティンは7月11日に公開した調査メモの中で、次のように記している。
「我々が投資家に勧めるのは、いったん傍観者にまわり、時間をかけてメタのバリュエーションの長期リスクの可能性をしっかりと評価することだ」
[原文:Advertisers have always stuck by Facebook. This time, it's different.]
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)