一般社団法人「Waffle」共同創業者の二人。写真左から田中沙弥果さん、斎藤明日美さん。
撮影:小林優多郎
“変化の兆し”を捉えて動いている人や企業にスポットを当てるオンライン番組「BEYOND」。
第7回は、理系やテクノロジー業界に女性が少ないという課題に向き合う一般社団法人「Waffle」(ワッフル)の共同創業者、田中沙弥果さんと斎藤明日美さんが登場。
6月20日(月)に放映した番組の抄録を、一部編集して掲載する。
配信のアーカイブはYouTubeでご覧いただけます。
撮影:Business Insider Japan
── まずはWaffleのプログラム「Waffle Camp」について教えてください。
田中沙弥果さん(以下、田中):女子やジェンダーマイノリティーの中高生向けに、ホームページ作成講座と女性エンジニアのロールモデルとなる方にキャリア講演を実施いただくプログラムです。
ホームページ作成講座は、HTMLやCSSを使ってオリジナルのWebサイトを作成することを目指します。
キャリア講演では、実際の女性エンジニアが仕事の話や職に就くまでの進路を学生に伝えます。
── 別のプログラムとして「Technovation Girls(テクノベーションガールズ)」というものもありますが、こちらは何でしょうか?
斎藤明日美さん(以下、斎藤):アメリカのSTEM教育系NPO「iridecent(イリデッセント )」が主催する女子中高生向けのアプリコンテストです。
Waffleは日本パートナーとして、アンバサダーを務めています。2022年は1月から4月に開催され、33チーム合計120人の学生が、社会課題を解決するアプリをつくりました。
── 日本からはセミファイナリストが出たのですよね。
斎藤:そうなんです。みなさん健闘されて、痴漢撃退アプリや、LGBTQの方がより話しやすくなれるアプリなどが生まれました。
女性の技術者の少なさに疑問を持つ
テック分野のジェンダーギャップについて語るお二人。
撮影:小林優多郎
── 2021年に発表された日本のジェンダーギャップ指数は156カ国のうち120位でした。この社会課題に取り組んだきっかけを教えてください。
田中:私は、Waffleを立ち上げる前に所属していた特定非営利活動法人「みんなのコード」での経験がきっかけです。
みんなのコードでは、小学校のプログラミング教育を推進するために、小学生を対象にデモ授業をすることがあり、男女関係なく意欲的にプログラミングに取り組んでいたんです。
一方で、中高生向けのプログラミングコンテストやイベントへ行くと、男子20対女子1と明らかに偏った割合になっていて、中高で女子に一体何が起こっているのか疑問に思い始めました。
そこから副業でテクノベーションガールズの運営を始めて、女子やジェンダーマイノリティー向けにターゲットを絞ってプログラミングコンテストの機会を提供すれば、参加してもらえることが分かりました。
活動していく中で、同じように課題意識を持った斎藤とも出会い、Waffleを立ち上げたんです。
── 斎藤さんは途中からの参加だったのですね。
田中:はい。個人の活動から法人化への検討をしていた時期に大規模なイベントがあり、斎藤に手伝ってもらったことが始まりでした。
── そちらはどのようなイベントだったのでしょうか。
田中:中高生を100人集め、プログラミングを通じて2日間でSDGsの課題解決を目指すワークショップです。
スポンサーをつけて食べ物を提供したり、アフリカ系の方を招いたりと、運営としても規模が大きかったです。
── 斎藤さんは田中さんの忙しさを見て、参加されたということでしょうか。
斎藤:そうですね。英語でアテンドのサポートをしたり、私自身もIT企業でデータサイエンティストとして働いていたため、一人のロールモデルとして出させてもらいました。
── 斎藤さんはどのような経緯でジェンダーギャップに関する課題意識を持ったのでしょうか?
斎藤:当時働いていたIT企業ではエンジニアチームに女性が少なくて危惧していました。
調べてみると、当時、大学では理工系に女性が16%しかいないことが分かったんです。つまり、大学へ行く前の段階で何とかしないといけないと感じたんです。
文系でもエンジニアを目指せる「Waffle College」
Waffleはグーグルの社会貢献活動部門「Google.org」による「Google.org インパクトチャレンジ for Women and Girls」の採択を受けている。
撮影:小林優多郎
── 2022年3月からはGoogle.orgから助成金を受けて「Waffle College」をスタートされました。これはどのような取り組みなのでしょうか。
斎藤:女子大学生、大学院生向けのプログラムです。1年かけて、プログラミング初心者からソフトウェアエンジニアとしてインターンに就けるレベルまでスキルを身に付けることを目指します。
── Waffleの取り組みは当初、中高生をターゲットに展開されていましたが、「Waffle College」ではなぜ女子大学生、大学院生が対象なのでしょうか?
斎藤:文系に進んだ女子やジェンダーマイノリティーでもエンジニアになれる選択肢を創出できればと考えたからです。
プログラミングが重要だと思ったとしても、大学進学時に文系を選んだだけで、その道を諦めてしまう人もいるかもしれません。
そのようなときにロールモデルやキャリアパスをつくり出せる機会になればと思い、プログラムを始めました。
── 2022年から始まった1年間のプログラムですが、現時点で学生の反応はどうですか?
斎藤:学生のエネルギーが想像以上で驚いています!
プログラムは前期と後期に分かれていて、前期はITを知るところから始まり、後期はより勉強したい学生向けにインターンになれるレベルを目指します。
現在は前期が終わるタイミングですが、既にインターンに挑戦したいと話す学生もいるくらいです。
── それはすごい熱量ですね! Google.orgからはどのような経緯で支援を受けることになったのでしょうか?
田中:助成金プログラム「Google.org インパクトチャレンジ for Women and Girls」に応募して、選ばれたことがきっかけです。申請書を夜な夜な書いて(笑)。
斎藤:最初は通ると思わなかったんです。申請書の時点で要求される条件が高く、応募しただけで私たちは満点だね、という具合でした。
── まず、チャレンジすることが大事だったということですね。
斎藤:そうですね。
田中:もちろん、掴んだチャンスを生かす力も重要だったと思います。
面接審査で、最後に時間が余ったのですが、そこで斎藤が「私、ちょっとプレゼンしていいですか」と、日本で起きているジェンダーギャップの課題をすべて話したことで、熱意が伝わるよい締め方になりました。
Waffleの指標とモチベーションを支える源流
── 田中さん、斎藤さんの源流として、影響を受けた本について伺います。田中さんは『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう。』を選ばれました。これはどのようなところに影響を受けたのでしょうか。
影響を受けた本を掲げるふたり。
番組よりキャプチャ
田中:NPOは何をもって成功と言えるのか、インパクトがあったとされるのかが不明瞭で、私も分からなくなることがありました。
この本には、具体的な方法、事例をもとに評価指標のつくり方が書かれていて、Waffleを運営していく上で参考になっています。すべてのNPO団体にオススメしたいです。
── 斎藤さんはアメリカの副大統領、カマラ・ハリスさんの自伝『私たちの真実 アメリカン・ジャーニー』を選ばれました。
斎藤:『これからの「社会の変え方」を、探しに行こう。』が指標をつくる教科書なら、この本はモチベーションを上げてくれる一冊です。
カマラ・ハリスさんは、自身の受けてきた教育をどうやって社会に還元するかを考えて、さまざまな方法を試してきた方です。
検事から始まり、上院議員になり政策をつくる側に転換した経緯は、私がIT企業勤務から外に出てNPOとして動いたことにも重なり、エネルギーをもらっています。
これからのツクリテたちへ
── これからの未来をつくっていく方へ向けて、メッセージをいただけますか。
田中さんからのメッセージ。
撮影:小林優多郎
田中:私からは「小さなSTEPをふもう!」です。
私も最初は副業から始まりましたし、Waffleを創業したときは、ここまで大きくなるとは思っていなかったです。小さいステップを積み重なることが、未来をつくっていくと思います。
斎藤さんからのメッセージ。
撮影:小林優多郎
斎藤:私からは「前進してなくても動いてればOK」です。
前に進んでいないと思ってしまうときも多くあると思いますが、そこで失敗を恐れたらもったいないです。
とりあえず動いていればOK、くらいの気持ちで行動を起こせばいいのだと思います。
野田:お二人とも前向きなお言葉をありがとうございました!
7月25日(月)19:00〜はBEYOND特別回として、YET代表/Re:public Inc.シニアディレクターの内田友紀さんをゲストに迎え、「Beyond Sustainability2022」受賞企業発表をお送りします。
なお、7月25〜29日の5日間は毎日19:00より、Beyond Sustainability2022の受賞企業が登壇するセッションを配信予定です。ぜひご視聴ください。
「BEYOND」とは
毎週水曜日19時から配信予定。ビジネス、テクノロジー、SDGs、働き方……それぞれのテーマで、既成概念にとらわれず新しい未来を作ろうとチャレンジする人にBusiness Insider Japanの記者/編集者がインタビュー。記者との対話を通して、チャレンジの原点、現在の取り組みやつくりたい未来を深堀りします。
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