LUSHの共同創業者の一人、ロウェナ・バード。
Jennifer Ortakales Dawkins/Insider
カラフルな入浴剤などで知られるイギリスの化粧品会社LUSH(ラッシュ)は、社会的な関心の的になる以前から動物実験に反対し、サステナビリティを提唱してきた。そして今、同社はソーシャルメディアの弊害を排除するための新たな取り組みを始めている。
2021年、メタ(当時のフェイスブック社)の内部告発者による上院での証言で、ソーシャルメディアアプリがメンタルヘルスに与える影響への懸念が明らかになった。
2021年6月期ベースで9億4300万ドル(約1270億円、1ドル=135円換算)の収益を誇るLUSHは、この証言を受け、今後Instagram、Facebook、TikTok、Snapchatをマーケティングに使わないと発表した。
LUSHのグローバル広報責任者、カレン・ハックスレイ(Karen Huxley)は次のように語る。
「ある成分が有害だと分かったら、私たちはそれを製品に使いません。同じように、特定のソーシャルプラットフォームが若者にとって危険な可能性があるなら、私たちはそれを無視することはできません」
LUSHはこの決定によって1300万ドル(約17億5000万円)の損失が生じると見積もったが、6人の共同創業者は、それが自分たちの価値観に従うことになるなら、打撃を受けることもいとわないと言う。
同社は、顧客にSNSからログアウトしてお風呂に入ることを勧めるなど、ウェルネスに重点を置いたマーケティング戦略に切り替えた。
LUSHの共同創業者の一人であるロウェナ・バード(Rowena Bird)は、消費者が自分たちの望む変化を企業にも求めるようになってきており、LUSHがそうした変化の牽引役となる姿は消費者にとってもお馴染みの光景だと語る。
「いま、社会問題に対する消費者の関心度は総じて高いです。政府が行動を起こさないなら、消費者はブランドに目を向けて、あなたたちは何をしているのかと疑問を投げかけてきます」
以下では、Instagram、Facebook、Snapchat、TikTokをマーケティング手段として活用しないと決めたLUSHが、顧客とつながるために代わりに活用している5つの手段を紹介しよう。
許容できるSNSを使う
LUSHは全てのソーシャルメディアの利用を放棄した訳ではない。現在も、YouTube、Twitter、LinkedIn、Pinterestに公式アカウントを持ち、インフルエンサーと協力して商品を宣伝している。
「YouTubeは利用していますよ。FacebookやInstagramと違ってギャンブルのようなアルゴリズムを使っていませんからね」とバードは言い、メタのアプリ開発者がユーザーを画面に釘付けにするために採用している手法に言及した。
なお、LUSHはInstagramなどのアカウント自体は削除しておらず、商品ページにはクリエイターのInstagram投稿へのリンクが掲載されていることもある(編注:LUSHのInstagram公式アカウントでは、過去の投稿は全て削除され、代わりに「BE SOMEWHERE ELSE(ここではないどこかにいます)」という投稿だけが残っている)。
InstagramとFacebookから撤退したことで売上にどう影響したのだろうか。広報担当のハックスレイに尋ねると、インフレやウクライナ戦争の影響もあるため、数値で示すのは難しいとの回答だった。
バードは「少なくともInstagramでは新規の投稿はしていないので、以前のようなクリック率は得られていません」と補足した。
LUSHのアプリ
LUSHは2015年に自社アプリを作ったが、ソーシャルメディア上での活動が減った今、自社アプリに重点を置いているという。「運用についてはできるだけ自社でコントロールするようにしています」とバードは語る。
「私たちは、お客様とのコミュニケーションのために他社に依存したくはなかったのです」
このアプリは、商品を識別するツールを備えている。例えば、パッケージなしで販売されているLUSHの「ネイキッド(Naked)」という商品を2つ購入した顧客が、どちらがシャンプーでどちらがコンディショナーなのかを忘れてしまっても、写真を撮ればアプリが教えてくれる機能があるという。
ポッドキャスト「サウンドバス」
LUSHはこの春、詩人で活動家のアジャ・モネ(Aja Monet)がホストを務めるポッドキャスト「サウンドバス(The Sound Bath)」を開始した。
詩人、哲学者、作家、大学教授による30分間のトーク番組では、気候変動や社会正義の問題に関わるウェルネスのトピックを取り上げる。各エピソードの後には、数分間の音楽が流れる。
店舗での入浴予約
LUSHの名物商品と言えば、「バスボム」だ。
Jennifer Ortakales Dawkins/Insider
世界が新型コロナウイルスに適応してきたことで来店者が増加する中、LUSHは小売拠点と店舗での体験を拡張している。
一部の店舗では、「LUSH SPA」というイマーシブ(没入型)入浴の予約も受け付けており、LUSHが提供する世界観で実際に入浴を楽しむことができる。それぞれのバスルームは、同社のバスボム(カラフルな泡を発生させる炭酸入浴剤)をベースにデザインされている。
「Instagramにかけていたお金を、こうしたものに投資しているんです」とハックスレイは言う。
「いろいろな方に私たちのブランドを体験していただくことで、理解を深めていただきたいと考えています」
自宅で入浴する顧客のためには、バスボムに絡めたSpotifyのプレイリストを作った。例えば、『バス・イン・ネイチャー(Bathe in Nature)』というプレイリストではアコースティックギターとフォーク調のボーカルが「レイクス・バスボム」にマッチし、『メインキャラクター・エナジー(Main Character Energy)』ではエレクトロポップと70年代ディスコの雰囲気が「ダイヤモンドダスト・バスボム」にマッチする、といった具合だ。
季刊誌『LUSH TIMES』の復刊
多くの小売業者が季節カタログの印刷を中止する中、LUSHは、顧客に商品をよく理解してもらうための手段の一つとして、タブロイドの季刊紙『LUSH TIMES(ラッシュタイムズ)』を復刊した。その意図についてバードはこう説明する。
「人はオンラインで情報を得るので、もう紙のニーズはないだろうと数年間発行をやめていました。ですが、お客様からLUSHのカタログが恋しいというお声をいただいたんです」
『LUSH TIMES』の各号には、CEOのマーク・コンスタンティン(Mark Constantine)からの手紙に続いて、「ヘナ・ヘアマニキュア」で髪を染めたり、「マッサージバー」で体をほぐしたりする方法など、LUSHの商品を紹介する記事がいくつか掲載されている(編注:6月の最新号からはオンラインでも閲覧ができ、日本語版も発行されている)。
※この記事の初出は2022年7月20日です。