今回SNS上で話題を集めたのはどこの政党だったのでしょうか?SNSを徹底分析しました。
写真左:立花孝志のターシーch【NHKの裏側】よりキャプチャ、写真右:吉川慧撮影(7月9日)
第26回参議院議員通常選挙(参院選)は、自民党が単独で改選定数の過半数である63議席を獲得しました。野党では立憲民主党が議席を減らす一方で、日本維新の会が改選前を上回る12議席を得る結果となりました。
さて今回、参院選でSNSをうまく活用できた政党や候補者はどこだったのでしょうか。
NHK党からは、YouTubeで「ガーシー」を名乗り、芸能界のスキャンダル話の“暴露”で話題を集めた東谷義和氏も当選しました。さらに国政選挙に初挑戦し、比例代表で1議席を獲得した「参政党」も注目されています。
彼らの議席獲得の理由は、SNSにあったのでしょうか。
主な政党・政治団体と全立候補者545人を対象に、参院選SNSメディア利用度調査(2022年版)を実施したところ、YouTubeというプラットフォームが選挙にもたらした影響の大きさが明らかになってきました。
(※調査手法などの概要は記事末尾に表記しています)
NHK、れいわ、参政党…YouTubeに強い政党が目立つ
Twitter、YouTube、Facebook、Instagram、LINEのフォロワー数を足し合わせたもの。なお、TikTokは公式アカウントを運営している政党が少ないため除外した(タップで拡大画像に遷移します)。
画像:筆者の調査データをもとにBusiness Insider Japanが作成
まずは、各政党公式アカウントの動向を見ていきましょう。
上図は、2022年参院選における政党公式アカウントの影響力(チャンネル登録者数・友だち数・フォロワー数の合計)のグラフです(7月9日時点・全体の単純数)。
トップ5は、自民党、公明党、NHK党、れいわ新選組、参政党となっています。自民党と公明党はLINEの友だち登録者数で数字を伸ばしています。
LINEはSNSを普段使わない高齢者層にも比較的広く使われているプラットフォームであるため、年齢を問わず、党の支持層が数字を底上げしているものとみられます。
注目したいのは、参政党のフォロワー数です。今回初めて国政で議席を獲得した参政党は、総フォロワー数ですでに立憲民主党と肩を並べるくらいの数に達していることがわかります。
特に強いプラットフォームはYouTubeで、その登録者数は自民党の公式アカウントをも圧倒しています。また、以前からネット上の支持が高いことで知られているれいわ新選組やNHK党も、YouTubeを中心に多くの登録者数を抱えています。「YouTubeの登録者数=支持者」だとはいえないものの、注目すべき数字です。
一方で立憲民主党は、2021年の衆院選では、期間中のYouTube総視聴回数がトップでした。それが今回はSNSでの影響力が伸び悩みました。
かつて実施した「枝野幸男が送る100のメッセージ」のような“攻め”の広報発信は行わず、また政党としても他党と異なる強い政策メッセージを打ち出せず、守りの選挙戦を展開したことが要因だと考えられます。その結果、議席も17議席と改選前よりも落としています。
日本維新の会は、比例代表の得票数では立憲民主党を上回り野党第一党になりましたが、他政党と比較すると、SNS上での影響力はそれほどありません。前回の衆院選と同じように、SNSでの空中戦よりも地上での遊説などを通じて支持率を高めた可能性が高いことが伺えます。
では、それぞれのプラットフォームでの影響力はどうだったのか、特にYouTubeとTwitterに焦点を当てて、結果を分析していきます。
YouTube登録者でトップ独走の「ガーシー」
まず、政党の公式チャンネルの視聴回数を見てみます。
公示日前はNHK党がトップでしたが、選挙期間に入ってからの視聴回数は自民党が逆転しました。
自民党は今回、かつてないほどに動画コンテンツに力を入れていました。
岸田文雄首相が応援に入った各都道府県ごとのダイジェスト動画を31本作成し、各候補者がシェアしています。また、自民党のCM動画を4本作成。さらに物価高騰対策を伝える動画を1本、政策を伝える動画を6本、期日前投票を呼びかける動画1本を期間中に作成しています。
なおチャンネル登録者数で見ると、NHK党公式チャンネル(「立花孝志のターシーch【NHKの裏側】」)が他を寄せ付けない強さを見せ、れいわ新選組、参政党と続きます。
では、候補者はどうでしょうか。選挙期間中のYouTubeチャンネル登録者数上位のアカウントは以下のようになっています。
やはり目立つのはNHK党の「ガーシー」こと東谷義和氏です。
期間中の視聴回数、登録者数ともに東谷氏はトップになっています。
借金をしてYouTubeを始めたという東谷氏は、7月9日時点で126万人のチャンネル登録者数で(現在アカウントは停止状態になっている)、スタート時点から他の全ての政党チャンネルの登録者数を上回っていました。
NHK党の「開票ライブ配信」での東谷氏。
画像:立花孝志のターシーch【NHKの裏側】
選挙期間中は滞在先(※UAEの商都ドバイとされる)からインスタライブやTwitterで発信を続けました。帰国しての選挙活動は一切せず、YouTube上の「ネット街頭演説」のみでリモートで選挙戦に臨みました。
NHKや民放での政見放送では、47パターンのイニシャルトークで裏話を語り、当選したのちには実名で暴露すると公約として掲げました。またYouTubeの「ガーシーch」でも暴露を続けるというスタイルで、得票数への影響を与えたとみられます。
7月3日に行われたNHK党の立花孝志党首による街頭演説には、人気YouTuberのヒカル氏、青汁王子こと三崎優太氏も(日本に不在の)東谷氏の応援に駆けつけ、全国的にも話題を呼んでいました。
結果として東谷氏は、日本にいないまま選挙戦に勝利するという異例の展開となりました。
立花氏は、選挙が終わった翌日に公開したYouTube動画でこのように発言しています。
「100万人以上のYouTubeの登録者(で)、28万票くらい獲りましたよね、ガーシー。(中略)この後、YouTuberがどんどん選挙に立候補するなと僕は思ってます。これまでのポスターを貼って、地べたを這うような、握手をしてみたいな政治家がどんどん減っていくと思っています」
参政党は「YouTube切り抜き動画」が勝利のカギに
次にYouTubeで躍進した政党として注目したいのは、参政党です。再生回数を見てみると、上の図表のオレンジの線が参政党です。
意外にも政党の公式チャンネルでは、他の国政政党と比べてそれほど再生回数があるわけではありません。その一方で、チャンネル登録者数は他の国政政党と比べてもトップレベル。この“矛盾”をどう読み解けば良いのでしょうか?
その鍵となるのが「切り抜き動画」です。
参政党は2020年4月に創設された保守色の強い政治団体で、「投票したい政党がないから、自分たちでゼロから作りあげる」ことをうたっています。
参院選で唱えた重点政策は、国や地域の伝統を大事にする「教育改革」、農薬を使わない農業などを推進する「食と健康」、外国人の日本への投資を規制するなどの「国のまもり」の3つ。
政府のコロナ対策を批判。マスクの着用を自由にし、ワクチンを打ちたくなければ打たない自由なども主張。また、戦後教育や既存のマスメディアへの批判を唱えています。
NHKのインタビューによると、参政党に注目が集まるようになったのは、2022年4月からだったと言います。
YouTubeで「参政党」と検索すると、視聴回数上位は「切り抜き」動画だということがわかる。
画像:YouTubeよりキャプチャ
2月末から週に3日、比例代表に出る5人の候補者が、入れ替わり立ち替わり、東京の新橋駅前で辻立ちし、街頭演説を行っていました。
そこに街頭演説の撮影を好むYouTuberたちが集まり始め、その動画がネット上で拡散していく“運動”が始まります。
特に参政党の「切り抜きまとめ」を投稿するアカウントが徐々に増え、YouTube上では参政党のショート動画が拡散されていくようになりました(なおここでは触れませんが、TikTokの影響も大きかったとインタビューで神谷氏は言及しています)。
現在「参政党」でYouTube検索すると、視聴回数上位を占めるのが「切り抜き動画」で、100万回再生を超える動画も少なくありません。こう言った切り抜きが拡散することによって認知が広がり、結果として公式チャンネルの登録者が増えていったとみられます。
Twitterとの「棲み分け」も
さらに参政党の影響は、YouTubeのみにとどまりません。Twitterフォロワー「増加」数の上位にも、参政党の候補者の5人が名を連ねています。
特に事務局長を務める神谷宗幣氏は、自民党の小野田紀美氏の次に入り、健闘しています。
なお、選挙期間中の平均「いいね」数のトップ3は、小野田氏、共産党の山添拓氏、神谷氏です。平均リツイート数トップ3は山添氏、小野田氏、そして自民党から比例代表で出馬した赤松健氏。神谷氏はれいわ新選組の八幡愛氏に次ぐ5位となりました。
選挙期間中、神谷氏のTwitterは街頭演説の動員風景とその人数を打ち出して、参政党の人気ぶりを伝える投稿が中心でした。あえて政策や公約をTwitterには書かないことで、YouTube動画の検索を促したり、街頭演説へ興味を持ってもらう戦略を取っていたのではないかと思われます。
神谷氏はネットテレビ「ABEMA Prime」の参院選開票特番でこう主張しています。
「テレビでは言わないような“タブー”を街頭演説でたくさん言ってきた。特にコロナのことなんかはYouTubeでもBANされてしまうので、なかなか発言ができなかった。(そうしたら)選挙戦終盤になると都市部では軽く1000人を超えるような人たちが街頭演説に来てくださるようになった。さらにその様子を見たYouTuberの方々が撮影し、編集して流してくださるといった現象が起きた」
「テレビでも(YouTubeでも)語られないタブー」なる主張が一定の人々を惹きつけたことで、176万票を獲得し、政党要件を満たす結果となったと言えるでしょう。
選挙における「SNSの主役」はTwitterだけではなくなった
2019年参院選・2021年衆院選においては、選挙のSNSといえばTwitterでした。
ところが2022年は、NHK党と参政党をはじめとして、TwitterだけでなくYouTubeに力を入れる候補者が多かったように見受けられます。特にYouTubeの機能の1つである「ショート動画」が勢力拡大に寄与したのではないでしょうか。
ショート動画の特徴は「切り抜き」と呼ばれる、公式ではない、ユーザーが自主的にアップした動画から大きな再生回数が生まれ得るということです。またTikTokなどでも拡散できることで、プラットフォームを横断した影響力を持つことも可能です。
こうした「YouTubeを中心としたSNS選挙」をハックし、国政での議席を獲得したのが東谷氏(NHK党)と参政党だったと言えるでしょう。この戦略は次の選挙にも引き継がれていくのか、注目されます。
調査概要
政党と全立候補者545人を対象に、選挙期間中(6月22日〜7月9日、一部その前後も含めて集計しているものもある)のインターネットメディア利用度を集計した。
- Twitter:TwitterまたはTwitonomyを用いてツイート数、フォロワー数等のデータを収集。平均RT数、平均いいね数はTwitonomyを用いて収集
- YouTube:YouTubeまたはSocial Bladeを用いてビデオ数、視聴数、チャンネル登録者数等のデータを収集
- Facebook、Instagram、TikTok:それぞれ各サービスから投稿数、フォロワー数、いいね数等のデータを収集
※今回の調査分析はあくまでデータ上からの考察となり、得票数とネットの関係性の因果関係については断定できません。あくまで1つの可能性としてご覧ください。