三井物産子会社「イーダッシュ」がアメリカのスタートアップと提携し、日本初のカーボンクレジットのマーケットプレイスを立ち上げた。
撮影:湯田陽子
三井物産子会社のスタートアップe-dash(イーダッシュ)は7月13日、二酸化炭素(CO2)排出削減手段の一つとして注目される「カーボンクレジット」を、オンラインで購入できる企業向けマーケットプレイス「e-dash Carbon Offset」の提供を開始すると発表した。
会員登録・月額利用料は不要で、10キログラム(CO2換算)という少量から購入できる。7月14日の段階でクレジットは40種以上あり、価格は1トンあたり1000円程度〜十数万円だ。
これまで大企業間の相対取引が主流だったカーボンクレジットを、中小の企業や自治体でも手軽に調達できる手法として注目される。
イーダッシュは、2023年3月末までに100件の成約を目指したい考えだ。
イーダッシュ社長の山崎氏。
画像提供:e-dash
急成長する民間カーボンクレジット市場
カーボンクレジットとは、森林保全や再生可能エネルギー、CO2回収技術といったプロジェクトの実施によって生まれたCO2削減効果(削減量)を「クレジット」として発行し、他の事業者が購入できるようにしたもの。自助努力では排出削減目標を達成できない事業者は、プロジェクトの実施主体などからクレジットを購入することで、その分のCO2を削減したとみなされる。
クレジットは大きく分けて国連・政府主導と民間主導の2種類ある。
このうち、近年急速に拡大しているのが、事業者間で取引する民間主導のクレジット「ボランタリークレジット」だ。
世界銀行の調べによると、2021年の取扱量は前年比92%増の3億6200万トンに急増。マッキンゼーは、2030年のボランタリークレジット需要は2020年比で15倍以上に、市場規模では最大500億ドル(約6兆8000億円)以上に拡大すると予測している。
マケプレ先行スタートアップ「Patch」と提携
イーダッシュのe-dash Carbon Offsetは、このボランタリークレジットを販売するマーケットプレイスになる。
今回のサービス開始にあたり、同社はカーボンクレジットのマーケットプレイス開発・運営で先行するアメリカのスタートアップPatch Technologies(パッチ・テクノロジーズ、以下Patch)と業務提携。Patchのシステムを通じて、日本初となるカーボンクレジットのマケプレを提供する。
e-dash Carbon Offsetで購入できるクレジットは、内モンゴルの森林保護プロジェクトやインドの風力発電プロジェクトなど1トン(CO2換算)当たり1000円台という低価格で購入できるものから、1トン当たり10万円を超えるアメリカのコンクリートCO2固定化プロジェクトなど、40以上に上る(7月14日現在、公式サイトに掲載されているプロジェクトは42)。
コンクリートにCO2を固定化する技術で知られるアメリカのスタートアップ「Carbon Cure」をはじめ、世界各地で進められているさまざまなプロジェクトのクレジットをラインナップ。購入する場合は、購入金額かオフセット量(削減したいCO2量)のどちらかを入力し「カートへ追加する」をクリックする。購入したクレジットには認証機関が明記され、購入後、e-dashが発行した証明書が届く。
e-dash Carbon Offset 公式サイトをキャプチャ
信頼性の高いクレジットをスクリーニング
カーボンクレジットについては近年、CO2削減効果を過大に見積もって販売されていた森林保全関連クレジットが発覚するなど、信頼性に対する問題が指摘されている。
この点について、イーダッシュは信頼性の高い国際機関の認証を受けたクレジットを取り扱うと強調。同社の山崎冬馬社長は、Business Insider Japanに対し、
「(業務提携した)Patchは、ボランタリークレジット関連で先行している有力スタートアップ。まだ設立間もないが、多くのプロジェクトをスクリーニングして(クレジットを)提供しており、信頼に値するパートナーだと認識している」
と語った。
なお、今回の導入事例第一号として、イーダッシュは、三井物産と博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」が手掛ける消費者向けのEコマースサイト「Earth hacks」がクレジットを購入することも発表した。企業に限らず、個人の「持続可能な消費行動」にも役立てるなど「さまざまな用途でご利用いただきたいと考えている」(山崎氏)。
イーダッシュは2022年2月、三井物産が100%出資するスタートアップとして創業。CO2排出量の可視化・削減プラットフォーム(SaaS)を手掛けており、これまでに事業所・工場など約1500拠点にサービスを提供している。
(文・湯田陽子)