無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


初任給の高さに目を奪われてはいけない。大企業で相次ぐ「初任給アップ」の落とし穴

mizuoe2

バンダイや大成建設など大企業で初任給を引き上げる動きが続いている。

shutterstock, REUTERS/Issei Kato,REUTERS/Toru Hanai,今村拓馬撮影

今年の新卒初任給が軒並みアップしている。

労務行政研究所の「2022年度新入社員の初任給調査」(東証プライム上場企業165社の速報集計)によると、「全学歴引き上げ」が41.8%。昨年同期の速報集計時の17.1%から20ポイント超と大幅に上昇し、過去10年で最多となった。

大学卒を引上げたのは48.8%に上り、初任給の水準は大学卒(一律設定)21万6637円、大学院卒修士23万4239円だった。

また初任給アップの流れは、大企業だけでなく中小企業にも広がっている(産労総合研究所調査)。初任給があがるのは歓迎すべきことのように思える。

だが、現実はそう単純ではない。そこには隠された「賃金制度のマジック」があると言える。

バンダイに東芝、NECに大成建設も

バンダイのホームページの写真

バンダイは2022年2月、初任給を3割引きあると発表した。

撮影:横山耕太郎

初任給引き上げについては今年の春から話題になっていた。

2月末にバンダイが22万4000円の初任給を今年4月から30%増の29万円に引き上げると発表し、メディアでも注目を浴びた。

バンダイ以外でも「獺祭」で有名な旭酒造が大卒初任給を9万円増の30万円に引き上げている。

初任給を巡っては4月の春闘でも異変が起きた。

大手電機メーカーの東芝、日立製作所、NECの労働組合が大卒初任給の2000円の引き上げを要求した。普通なら満額回答すらあり得ないところだが、3社は1万円の大幅引き上げを回答した。そのほかの企業でも、ダイキン工業が1万円増の23万5000円、大手ゼネコンでは大成建設が1万円増の25万円にアップしている。

理由は「人材確保」が最多

なぜ今年は多くの企業がこぞって初任給を上げたのか。

産労総合研究所の調査ではその理由を聞いている。多かった理由は「人材を確保するため」(63.2%)と「在籍者のベースアップがあったため」(45.6%)の2つだった。

確かに賃金の底上げであるベースアップを実施すると、その分を上乗せすることになり、初任給も上げる必要があるだろう。また、優秀な人材の確保策として魅力的な初任給を提示するのも有効な採用戦略の1つだ。

しかし初任給の大盤振る舞いができる本当の理由はそれだけとは限らない。

下がり続ける日本の給与

mizoue1

日本では労働者の給与は上がっていない。

撮影:今村拓馬

初任給を大幅に上げてしまうと、その影響は在籍者にも及ぶ。

多くの会社には勤務年数や能力・経験に基づく「賃金テーブル」があり、例えば初任給を5万円引き上げると入社2年目以降の社員のほとんどの賃金を調整する必要がある。

「在籍者のベースアップ」の底上げと同じように社員全体の賃金を上げる必要がある。つまり会社にとっては人件費のアップにつながる。しかも変動給の賞与ではなく、固定費の月給である。

いくら「人への投資」が叫ばれているといっても、そんなに気前のよい会社があるとは思えない。

そうでなくても日本の労働者の給与は下がっている。実質賃金は1997年をピークに長期低落傾向にあり、1997年を100とした個別賃金指数は2020年も95にとどまる。

大企業(1000人以上)社員の月給(所定内賃金)が1997年に比べて2020年はマイナス8700円、中小企業(従業員10~99人)の社員は2万1300円も落ち込んでいる。

2022年度に入っても4月の所定内給与の実質賃金は前年同期比マイナス1.6%、5月もマイナス1.4%に落ち込み、上がる気配がない。

グラフ

OECD統計から作成した2000年からの賃⾦の推移。日本は低迷している。

出典:連合・賃金レポート2021

にもかかわらず初任給を大幅に引き上げることができる理由は2つ考えられる。

なぜ初任給の大幅引き上げができたのか

1つは月給に含まれない賞与や退職金などを削減していること、もう1つは賃金制度の変更だ。

たとえばバンダイは初任給を従来の22万4000円から29万円に30%引き上げた。初任給を引き上げると在籍する社員も引き上げる必要があるが、バンダイは全社員の月給も平均5万円引き上げると発表している。

月給だけを見れば大幅なベースアップになるが、実はバンダイは月給を増やすがボーナスもそれに応じて増やすとは言っていない。

同社のプレスリリースには「社員の収入安定化を目的に、年収における月額給与の比率を引き上げ」と謳っている。これについて「新制度は業績に連動する賞与の水準を引き下げる代わりに、毎月確実に支給される基本給を増額する内容」報道されている(時事通信)。

つまり賞与の仕組みを変えることで年収に占める賞与の割合を削減したのであり、年収ベースの大幅な賃上げではないということになる。ただし、それでも業績によって変動するボーナスを減らし、固定費である月給のウエイトを高めることは企業にとって勇気がいることだろう。

多くの企業は業績が悪化しても固定的な月給を下げるのが難しいので、ボーナスを変動させることで調整してきた経緯があるからだ。

勤続年数による昇給を廃止

群衆のイメージ写真

日本でも大企業を中心に、ジョブ型賃金の導入が進む。

撮影:今村拓馬

もう1つの賃金制度の変更とは、従来の勤続年数や能力・経験によって昇給していく仕組みを廃止し、職務や役割で給与を決めることだ。

つまり今、多くの企業で導入されている“脱年功賃金”からジョブ型賃金への流れだ。

ジョブ型賃金は正確には職務給と呼ぶが、年齢や勤続年数に関係なく、どんな職務を担当しているかという仕事の内容と難易度(職務等級)によって給与が決まる。

同じ職務に留まっている限り、25歳と40歳の給与は変わらない。給与を上げようと思えば、がんばって職務レベルを上げるか、給与の高い職務にスイッチするしかない。

実は日本でも2000年以降、一部の大手企業や振興企業では職務給やそれに近い「役割給」制度を導入しているところも少なくない。

ITベンチャーの中には、従来一律だった新卒初任給も能力・スキルに応じて変えている企業もある。

ITベンチャーの採用担当者は「基本的には初年度の年収は500万円をベースに、400万円台もいれば600万円台の人もいる。ただし、それに見合う成果を出せるかわからないし、2年目で成果を出さないと下がる。入社5年目になると、一番下の年収と上の年収で3倍ぐらいの差がつくこともある」と語る。

日本的「ジョブ型」には減給リスクも

富士通のロゴ

富士通など日系の大手メーカーでもジョブ型人事制度が採用されている。

REUTERS/Toru Hanai

しかも日本の職務・役割給は欧米の職務給と違い、固定ではない。

職責を果たせなければ管理職でも降格・降給が発生する仕組みだ。

たとえば役割給を導入した大手精密機器メーカーでは導入3年目に管理職層300人が昇格する一方、150人が降格。40歳の管理職層で約450万円程度の給与格差が発生している。

ちなみに今年初任給を1万円引き上げた日立製作所やNECはジョブ型雇用を標榜する企業であり、東芝も役割や職務で賃金を決める「役割等級制度」を2020年4月から導入している。

2021年にやはり初任給を1万円引き上げた富士通もジョブ型人事制度の導入で有名だ。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み