ブランディ・D.・レオ氏(左)とビビアン・ペレス氏(右)は、卒業後数十年も学生ローンの借金に苦しんでいる。
Courtesy of Brandy D. Leo and Vivian Perez
- アメリカの何百万人もの40代のX世代は、ミレニアル世代やZ世代と同じように学生ローンに苦しんでいる。
- Insiderは、学生ローンが彼らの生活にどんな影響を及ぼすかについて、40代の2人の女性と話した。
- 2人とも連邦政府の制度で免除を受ける資格があるかもしれないが、今のところ実現していない。
2022年に米エデュケーション・データ・イニシアチブ(Education Data Initiative)が発表した報告書によると、全米の大学在学者の43%が何らかの教育関連の負債を抱えたことがあると答えている。
奨学金に関するニュースの多くは、ミレニアル世代やZ世代がその返済に取り組む、あるいは借り入れを回避することに焦点を当てたものだが、現在の40代から50代を指すX世代もいまだ毎月の奨学金返済に苦労している。
実際、1000万人以上のX世代が奨学金という負担の大きな負債を抱えて生活し続けているのだ。連邦学資援助局(Federal Student Aid)が2022年に発表した報告書によると、35歳から49歳までの借り手は1140万人存在し、連邦学資ローンの負債総額は5026億ドル(約62兆3500億円)に上る。CNBCの報道によると、バラク・オバマ前大統領とミシェル・オバマ前大統領夫人でさえ40代になるまで奨学金の返済が終わらなかった。
40代で奨学金を抱える生活
テキサス州ジョージタウンに住む41歳のビビアン・ペレス(Vivian Perez)氏は、Insiderが閲覧した記録によると年収5万ドル(約620万円)で連邦学資ローンの負債残高は9万1347ドル(約1130万円)だ。通常は毎月500ドル(約6万2000円)を返済しているが、現在はパンデミックのため支払いの一時猶予が認められている。
ペレス氏は18歳のとき薬学予科課程で学び始めたが、その後考えを変えて生物学科に移ったのだとInsiderに語った。授業料、部屋代、食事代、そして学校が提供する食堂定額利用料を賄うために奨学金を利用したという。
サウスカロライナ州ボーフォート郡に住む47歳のブランディ・D・レオ(Brandy D. Leo)氏の状況も似通っている。Insiderが閲覧した記録によると、年収6万7000ドル(約830万円)のレオ氏が抱える連邦学資ローン残高は12万984ドル(約1500万円)で、毎月648ドル(約8万円)の支払いを続けている。
「特に学部生時代にウエイトレスのアルバイトをしていたときは、1セント単位で切り詰めた生活をしていた」とレオ氏は話す。
「給料日に依存するぎりぎりの生活をやめるには、大学に通って学位を取るしかないと強く感じていた。それに、大学に行かなければ退職金ももらえず、充分な医療も受けられないと分かっていたから」
大学を卒業して20年、ペレス氏とレオ氏は奨学金の返済について考えると今も無力感にとらわれるという。
免除の資格はあるはずだが
ペレス氏は公共教育機関や非営利団体で働いた経験があるので、約10年間公共部門の労働に従事し、適格なプランで120回返済すれば残りの債務が免除される「公務従事者ローン返済免除(PSLF)プログラム」を、制度上は利用できるはずだ。
ペレス氏はこのプログラムで奨学金の免除を申請しようとしたが、学区を転々として働いてきたので、その資格を証明するのが大変だった。「役所手続きがとても多くて、今もまだどうすべきか模索中だ」
ソーシャルワーカーの資格を持ち、2006年から非営利団体で働いているレオ氏も同じような経験をした。2018年にPSLFに申請したが、彼女の過去の返済はこのプログラムの対象として不適格だという理由で却下された。
「そんなことはまるで知らなかった。コロナ禍による支払い猶予を受けるまで、ずっと一貫して返済を続けていたのに」と、彼女はInsiderに語った。
また、インターネットで豊富な情報が手に入る前の時代に大学の道を歩み始めたことは分が悪かったと、レオ氏は言う。
「私が若い頃は90年代だったので、インターネットがまだ発達していなかった。自分が何をしているのか、ましてやそれが長期的にどのような影響をもたらすのかなんて気付かなかったのだ」
家を買うことができない
2015年にレオ氏は初めて家を購入し、倍率の高い大学院に合格したことで、もっと給与の高い仕事に就ける見込みができた。その年、彼女に乳がんの診断が下った。保険には入っていて、有給病気休暇も利用できたが、自己負担分やその他の医療雑費を賄うためにクレジットカードの借金を重ねてしまった。
4年前、彼女は自宅の売却という苦渋の決断をし、高齢の母の介護のために同居を始めた。パンデミックによって仕事の選択肢が狭まった今、特に返済負担率の高い自分が再び家を持つことができるかどうかさえ自信がないという。
返済負担率とは年収に対する年間返済額の割合を指す。住宅ローンを組む際に金融機関が考慮する決定要因の1つである。
ペレス氏も同じ境遇だ。2年前に住宅購入について不動産業者に相談したところ、返済負担率が大きすぎるのでローンを組めない可能性が高いと言われたという。
「大きな家を持つ、周りの友人たちが大学に行っていないことを考えると、私は何もかも逆のことをやってしまったのだろうか、という気持ちになる」
「いつもサバイバルモード」
現在、ペレス氏はウェスタン・ガバナーズ大学(Western Governors University)に勤務している。その非営利大学では、年間授業料7290ドル(約91万円)で学士号、7570ドル(約94万円)で修士号を取得できる。彼女はその大学で働きながら、職員の授業料が75%割引になる制度を利用してMBAを取得することにした。
「大学の授業料は払えるので毎月支払っている。給料から天引きされるのでとても楽だ」
しかし、既存の奨学金については、パンデミック下の返済猶予期間が終了したら、再び毎月500ドルを支払わなければならなくなる。
「そんな余裕はない」と彼女は言う。猶予期間は最近、2022年8月31日まで延長されたが、ペレス氏はどうやってその返済額を捻出するかいまだ思案中だ。ときには友人と映画を見たり外食もしたりするが、毎月500ドルの支払いのために削れるものは「多くない」という。
一方、レオ氏は毎月648ドルの返済を続けている。彼女の場合、奨学金の他に乳がんの治療中に負ったクレジットカードの借金もある。
年老いた母親の介護と借金からの脱出のため、レオ氏の非常時用予算には「もはやほとんど余裕はない」という。「いつもサバイバルモードだ。私自身の責任もあるが、指導してくれる人も指針を示してくれる人もいなかったのだ」
[原文:Decades after graduating college, millions of Gen Xers' lives are still dictated by student debt]
(翻訳・長尾莉紗/LIBER、編集・長田真)