メタの新しいCBO(最高業務責任者)、マーネ・レビン。
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マーネ・レビン(Marne Levine) と彼女の次席のニコラ・メンデルゾーン(Nicola Mendelsohn)は、大変な仕事に向き合わなければならない。
彼女たちはFacebookの親会社であるメタ(Meta)の新しい広告部門のリーダーとして、アップルのプライバシー方針変更やTikTokのような新しいプラットフォームとの競争で勝ち残るために、メタのプラットフォームの成長を一気に加速させる必要がある。だがアナリストは、メタが第2四半期に同社として初めてゼロ成長を記録すると予想している。
レビンは2021年、メタの新しい役職であるCBO(最高業務責任者)に任命された。メンデルゾーンは広告販売を率いるグローバルビジネスグループのバイス・プレジデントとなった。
彼女たちの重要な仕事の一つは、広告測定に関わる長年の問題や不祥事で傷ついたFacebookに対する広告主の信頼と信用を回復することだが、レビンの就任から1年が経ち、何人かの広告業界の幹部は、信頼回復に向けた彼女たちの取り組みが遅いと述べている。
レビンとメンデルゾーンは、前任の広告担当幹部であるキャロリン・エバーソン(Carolyn Everson)と、顔が広いCOOであるシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)と厳しく比較されている。サンドバーグは、広告主と緊密な関係を築き、数々の論争を乗り越えてメタを広告業界の巨人へと成長させてきた。
一部の広告主は、以前はエバーソンと定期的にやり取りしていたが、新しい幹部からはまったくと言っていいほど連絡がないと語る。
2022年6月に開催された世界最大規模の広告の祭典であるカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルに出席したレビンとメンデルゾーンの存在感は大きかった。しかし、その場でメンデルゾーンに初めて会ったあるグローバル広告代理店の幹部は、彼女はフレンドリーだったが、ビジネス志向というわけではなかったと言う。それは、メンデルゾーンが2021年10月に就任したばかりだったからかもしれない。
「メタとは比べ物にならないくらい、競合他社から我々に引き合いがあるんですよ」とこの幹部は言う。
業界2位の大手代理店幹部も次のように指摘する。いわく、アップルのプライバシー方針変更で、広告主のターゲティングや広告効果測定の精度は下がってしまったが、これらはメタの重要なセールスポイントになり得る。メタに代わる広告出稿先を企業がすでに探し始めているにもかかわらず、彼女たちの知名度の低さがメタに打撃を与える可能性がある。
前述の幹部は言う。「肝心なのは、クライアントにとって最適な広告スペースにお金を払うのは、我々だということです。メタは巨大で無視できない存在ですが、特にメタがこの先全体的にシェアを下げるようなことがあれば、そんな考えも変わるかもしれません」
メタの広告担当者はこの話を受け、次のようにコメントしている。
「当社の経営幹部は強力かつベテランで、深い人間関係と、当社の事業を牽引して価値をもたらすプロダクト開発の経験を備えています。メタとその事業を前進させるべく、マーネ(・レビン)やニコラ(・メンデルゾーン)を含め、当社の幹部には全幅の信頼を寄せています」
広告業界で知名度の低いレビン
以前はInstagramのCOO(最高執行責任者)を務めていたレビンが広告業界に来たのは比較的最近のこと。そのためメタ社内では、レビンが広告主の信頼を得られるのか疑問に思う人もいたと、メタの元幹部2人は言う。彼女はクリントン政権下で一緒に働いていたサンドバーグとは親しい友人でもあり、その友情がCBOの職を得るのに一役買ったと考える人もいる。
メタの元幹部の1人は、「マーネはシェリルの長年の親友だからこのポジションに就いたんだとか、マーネはキャロリンほど業界では知られておらず受け入れられてもいなかった、などとまことしやかに囁かれていました」と明かす。「だから、キャロリンが就くと思われていた役職にマーネが昇進したのを見て、これはシェリル(・サンドバーグ)の影響だなとみんな思ったわけです」
メタはこの主張を否定し、CBOの役職については十分な採用プロセスを踏んでいると述べた。同社はまた、レビンはInstagramのCOO時代は収益化の責任者でもあり、それより前はオーディエンス・ネットワークなどの広告サービスやコンテンツの収益化を含むパートナーシップ担当部長だったことを強調した。
広告コンサルティング会社、メディアリンクのCEO兼会長であるマイケル・カッサン(Michael Kassan)は、レビンが前広告担当幹部のエバーソンのように広告業界で人間関係を築くには時間がかかるだろうと見ている。
「キャロリンは本当に長い歳月をかけてこうした関係を築いてきたのです。彼女たちの能力を判断するにはまだ時期尚早ですが、市場はニコラのリーダーシップを好感していますし、マーネはこの業界ではまだ日が浅く学習中であることも承知しているはずです」(カッサン)
メンデルゾーンは広告主との関わりが豊富である。メタのヨーロッパ・中東・アフリカ事業の担当部長を務めたほか、キャリアの初期にはBBHやグレイロンドンなどの大手広告代理店に勤務した経験もある。
大手広告代理店BBDOワールドワイドの社長兼CEOであり、エバーソンが立ち上げたメタのトップ広告主によるクライアントカウンシルの一員でもあるアンドリュー・ロバートソン(Andrew Robertson)によると、エバーソンがメンデルゾーンをグローバルビジネスグループのバイス・プレジデントにするべく育成したとのことだ。ちなみに、メタはBBDOのクライアントだ。
「ニコラは、キャロリンのもとで働く機会に恵まれたので、そこでキャロリンの仕事のやり方を観察することができたのです」とロバートソンは言い、彼女がエバーソンと同じようにメタの広告事業に関する情報を引き続き提供してくれていると付け加えた。
別の大手代理店幹部によると、メンデルゾーンとは定期的に連絡をとっており、彼女はアップルのプライバシー方針変更などの問題に対する広告主の懸念を真摯に受け止めてくれているようだと話す。
「以前は、ある問題に対して紋切り型の回答を返されるような印象がありました。しかしニコラはそうではなく、もっと誠実な姿勢で我々とのパートナーシップを推進してくれています」とその幹部は話す。
それでも広告代理店の幹部の中には、メタの再編について約1カ月前に営業担当者から聞かされたものの、それ以上の情報はもらえなかったため、営業担当者が替わるかどうかも分からないと困惑する者もいる。
メタバースに広告をどう組み込むのか
こうした混乱に加え、メタはメタバースを中心に自社のアイデンティティを再構築し、広告への依存から脱却する計画を発表した。
メンデルゾーンら幹部たちは、メンデルゾーンら幹部たちはこれまで、メタのVRオキュラスヘッドセットを使うことでメタバースの世界に入れるのだと語り、仮想世界に向けてどんな準備をしているのかとブランド各社に尋ねたりしてきた。しかし広告バイヤーの中には、メタはメタバースにどう広告を組み込むかについては口を閉ざしていると話す者もいる。
一方、TikTokやアマゾンなどは、広告販売チームを増強し、広告主に熱心に売り込んでいる。
TikTokは、メタが買収したInstagramなどの競合に対抗して、24時間後に消える動画の機能を真似してZ世代の関心をさらっている。これを受けてメタのCEOであるマーク・ザッカーバーグは、TikTokとは「かつてないレベルの競争」に突入していると従業員に檄を飛ばした。
アナリストは、長年にわたる評判の問題やアップルのプライバシー方針変更をめぐる問題などさまざまな理由から、メタが初めて広告シェアを失うと予測している。
また、代理店の幹部たちは、メタバース戦略や組織再編などメタの見通しの悪さにより、広告主のメタ離れが加速しかねないと見ている。
「メタに依存し続けることへの恐れと不安が大きくなっています」とそのうちの1人は言う。「広告費がメタから大きくシフトするかどうかはまだ分かりません。現時点では他の競合へシフトする可能性もはっきりしていませんが、我々の間では、メタ依存への疑問が出てきています」
(編集・大門小百合)