マイクロソフト(Microsoft)のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)。ネットフリックス(Netflix)向けサービス争奪戦で、競合するグーグル(Google)を出し抜いた形だ。
Brian Smale/Microsoft via Getty Images
広告業界に衝撃が広がっている。
米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)が計画中の広告付き動画配信サービスの技術・営業パートナーとして、本命視されていたグーグル(Google)やコムキャスト(Comcast)ではなく、マイクロソフト(Microsoft)を選んだからだ。
関係者の多くはマイクロソフトがパートナー候補に挙がっていたことさえ知らなかった。
マイクロソフトはアドテク(ネット広告配信技術)部門として、2021年末に米通信大手AT&Tからザンダー(Xandr)を買収して傘下に置いたほか、グローバル広告営業力の強化を進めてきた。
マイクロソフトは近年、家庭用ゲーム機「XBox(エックスボックス)」のゲーム内広告ビジネスにも力を入れており、会員向けのゲーム事業に進出したばかりのネットフリックスにとっては、その分野での協業も期待できるかもしれない。
また、マイクロソフトがネットフリックスと広告でバッティングする動画配信サービスを社内部門や傘下に抱えていないことも特筆すべき点だ。
グーグルの動画配信部門は言わずとしれたユーチューブ(YouTube)だ。コムキャストもメディア大手NBCユニバーサル(NBCUniversal)およびさらにその傘下の動画配信サービス「ピーコック(Peacock)、広告付き無料動画配信サービス「ズーモ(Xumo)」を傘下に置く。
また、本件に詳しい関係者によれば、グーグルの広告売上(最低)保証額が「あまりに迫力に欠ける数字だった」ことも大きかった模様だ。
ネットフリックスは2022年第1四半期(1〜3月)だけで20万人の会員を失い、第2四半期(4〜6月)はさらに200万人の追加減少を見込むと発表、株価は2021年秋につけた史上最高値との比較で75%下落(7月14日終値時点)と苦境に陥っている。
同社は遅滞なく十分な収益の積み増しに貢献してくれるパートナーを必要としており、その文脈で、ワーナーブラザース・ディスカバリー傘下「HBO Max(エイチビーオーマックス)」のようなプレミアム動画配信サービス並みの広告料金設定を求めていた。
前出の詳しい関係者によれば、グーグルは売り込み文句として「トップに直接ご説明差し上げる」専門チームを編成し、可能な限りのリスク負担を織り込んだアグレッシブな提案を行ったものの、「数十億ドル」規模の売上保証を求めるネットフリックスを満足させることはできなかったという。
「グーグル側は、提案した(売上保証の)数字には迫力が欠けていたとのフィードバックをネットフリックス側から受けとりました」(同関係者)
この関係者によると、グーグル側はネットフリックスが新たに立ち上げる広告事業を最終的に(パートナーを排除して)内製化する可能性があるとの懸念を抱いていた模様だ。
「今回の技術・営業パートナー契約はグーグルにとって、ネットフリックスが広告事業を恒久的にアウトソースする考えでない限り、リソースを再配分して取り組むまでの価値はないのです」(同関係者)
グーグル、コムキャスト傘下のNBCユニバーサル、ともにコメントを拒否した。
本丸は「クラウドビジネス」との見方も
マイクロソフト側の発表(7月13日付)は、ネットフリックスの広告ビジネス構築支援に重点を置いた内容となっている。
しかし、マイクロソフト側の関係者の中には、将来的にネットフリックスのクラウドインフラおよびサービスに対する需要を獲得するのが同社の本質的な狙いとする見方もある。
ネットフリックスは現在、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドインフラを利用して動画配信サービスをエンドユーザーに提供している。
同社の直近の投資家向けアニュアルレポート(年次報告書)には、コンピューティングの「圧倒的大部分」をAWSのプラットフォーム上で実行しているとの記載がある。
だが、アマゾンのプライム・ビデオ(Prime Video)がネットフリックスにとって決定的な競合相手へと成長するにつれ、AWSとの関係も複雑になってきている模様だ。
マイクロソフトの現役従業員は匿名を条件にこう話してくれた。
「ネットフリックスはまずいくつかの機能・特長を使って、マイクロソフトなり(同社のクラウドサービス)アジュール(Azure)なりを試してみようという“様子見”スタンスなんだと思います」
ネットフリックスとの契約状況に変化があったかどうかAWSに確認したが、その点についての回答はなかった。一方のネットフリックスは、AWSからクラウドインフラの提供を受けている状況に変わりはないとしている。
[原文:How Microsoft won Netflix, the ad prize of the year and why Google lost it]
(翻訳・編集:川村力)