2019年12月21日、通常とは異なる継続的な電波信号が発見され、「FRB 20191221A」と名付けられた。
CHIME/MIT News
- 継続時間が平均的なバーストの1000倍で、心臓の鼓動のように反復する高速電波バースト(FRB)が発見された。
- 研究者たちはこのバーストを研究し、その起源を明らかにしようとしている。
- 2007年に初めて確認されて以来、何百ものFRBが検出されている。
地球からおよそ10億光年離れた銀河から、通常とは異なる継続的な電波信号が検出された。謎に包まれたこの信号の起源を解明することで、宇宙のはるか彼方について知る手がかりが得られるかもしれない。
高速電波バースト(Fast radio bursts:FRB)とは、地球の数百万光年から数十億光年の彼方から、短時間で放出される激しい電波のフラッシュのことだ。FRBが初めて確認されたのは2007年で、そのFRBは発見者の名前にちなんで「ロリマー・バースト」とも呼ばれている。それ以来、何百ものFRBが検出されているが、その正確な天体物理学的起源は謎のままとなっている。
FRBは通常、継続時間が数ミリ秒という現象だ。しかし新たに検出され「FRB 20191221A」と名付けられた信号は約3秒間継続した。これは平均の約1000倍の長さだと2022年7月13日付けで学術誌「Nature」に掲載された研究論文に記されている。
2019年12月21日、「CHIME(カナダ水素強度マッピング実験:Canadian Hydrogen Intensity Mapping Experiment)」と呼ばれる電波望遠鏡から得たデータを観測していた天文学者は、ある信号に注目した。
「その信号を目測すると、複数のパルスで形成されていることに気が付いた。若干心電図のようにも見えた」とCHIMEからのデータを観測したマサチューセッツ工科大学(MIT)の博士研究員で論文の共同執筆者であるダニエレ・ミチリ(Daniele Michilli)はInsiderに語っている。
さらに分析を進めると、信号は0.2秒ごとに反復しており、心臓の鼓動のように明らかに周期的なパターンを含むことが分かった。「宇宙にはそのような信号の発生源となるものはあまりないので、我々は非常に驚いた」とミチリは言う。
ミチリによると、天の川銀河で周期的なバーストの発生源として考えられるのは、マグネターとパルサーだという。マグネターとは非常に強力な磁場を持つ高密度の死にゆく星で、パルサーとは爆発した星の残骸が回転しているものだ。いずれも灯台の光のように細い電波のビームを放つ。天文学者は「宇宙を研究し、我々の理論を確かめる」ために、周期的に繰り返されるこのような信号を利用している。
ほとんどのFRBは一度だけバーストするが、反復する信号が検出されることもあるという。望遠鏡を反復する信号の方向に向ければ、バーストをより詳細に研究することができ、それがどこから来ているのか、何が原因なのか絞り込めようになるだろう。
FRBを検出した電波望遠鏡「CHIME」。
CHIME
「FRB 20191221A」は、心臓の鼓動のように複数のピークを持つ単一のイベントから発しているように見えるが、バースト自体の反復は、現時点ではまだ観測されていない。
「このFRBからさらなるバーストが発生するのかどうかを観測し続け、将来的にこのような反復型のバーストをさらに発見していきたい」とミチリは述べた。そのために、CHIMEに加えて北米にある他の望遠鏡でも同じ方角を観測し、三角測量によって電波バーストの位置を計測し、銀河との関連性を明らかにしていく考えだ。
「我々は、FRBがどこから来たのかを正確に見極め、その環境を研究していきたい」とミチリは言う。「そして将来的には、最新のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡でFRBを観測し、その正体と周りの環境を明らかにしていきたい」と付け加えた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)