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1ドル138円水準の円安ショック。日本で加速する「インフレ」の問題点…欧州との共通点も

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写真はイメージです。

撮影:Business Insider Japan

インフレの加速は世界的な現象だが、7月13日に発表されたアメリカの消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率は実に9.1%と実に40年半ぶりの高い伸びとなった。

そのアメリカほどではないが、インフレは日本でも着実に加速している。7月に入って、飲食店の多くが値上げしたことに気付いている人も少なくないだろう。総務省統計局のデータで確認すると、東京都区部の6月の消費者物価速報値は前年比2.3%と5月(同2.4%)からわずかに上昇が鈍化したが、ならした動きは加速トレンドを維持している(図表1)。

日本の消費者物価の表

【図表1】日本の消費者物価。

出典:総務省統計局

物価が上昇した主因は、商品市況、特に化石燃料の価格が高騰したことにある。

コロナショック後に世界の景気が急速に回復したことに加えて、ロシアのウクライナ侵攻で供給制約が強まったことが化石燃料の価格の高騰につながった。加えて日本の場合は、春先以降に急ピッチで進んだ円安が、インフレの加速を促すことになった。

分かり易く言うと、物価の上昇の7割は商品市況の上昇が原因で、残りの3割が円安というところだろう。とはいえ、この間に円安が進まなければ物価の上昇は現状の7割程度で済んだことになる。

それに円高が進んでいれば、その分だけ商品市況の上昇によるインフレを吸収できたわけで、円安がインフレに与える影響は軽視できない。

2023年のモノの輸入は、今年(2022年)の為替レートを基準にして契約が結ばれる。ドル建て資源価格の上昇幅は縮小が見込まれるため、消費者物価の上昇要因として円安の寄与度が高まるだろう。輸入依存度が高い食品などの場合、2023年も大幅な値上げを回避できないかもしれない。

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REUTERS/Toru Hanai

今後を展望すると、今後1年程度は日本でも2〜3%台のインフレ率が定着する可能性が高い。化石燃料の価格はピーク時よりも低下しているが、食品価格の値上げが続くと考えられるためだ。

それにテクニカルな話だが、8月と10月には、これまで消費者物価の伸びを抑えてきた2021年の携帯電話の通信料の引き下げの効果がはく落するため、これが物価の上昇圧力になる。

2〜3%というインフレ率は世界的には低くても、日本としては高い水準だ。

今の日本のインフレは、原材料高騰などを主因とする「コストプッシュ型」であり、需要増を主因とする「デマンドプル型」ではないため、高インフレは持続しないという見方もある。

とはいえ、それも市況や為替の動き次第であり、物価の安定の観点から為替レートに気を配ることは重要なことだ。

インフレ加速で景気減速が顕著なドイツ

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ドイツ・ハンブルクの港で賃上げを求めてストライキする労働者たち。背後の横断幕には「インフレモンスターを止めろ」と書かれている(6月9日撮影)。

REUTERS/Fabian Bimmer

他方ヨーロッパでは、日本以上にインフレが深刻な国がほとんどだ。

ヨーロッパの経済の中心であるドイツの場合、6月の消費者物価は前年比8.2%と、政府による物価高騰対策(化石燃料に対する減税措置や定額の公共交通機関パスの導入)を受けて5月(同8.7%)よりも上昇は鈍化したが、依然として高い伸び率を維持している。

ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国は、これまで消費する化石燃料、特に天然ガスのかなりの部分をロシアに頼っていた。

そのためヨーロッパ諸国は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う天然ガスの価格高騰の影響をどの経済よりも強く受けている。とりわけロシア産天然ガスへの依存度が高いドイツの場合、その影響は深刻だ。

さらに、通貨ユーロの相場も急速に下落し、物価を押し上げている。アメリカで利上げが進んでいることに加えて、ロシアからの天然ガスの供給が途絶えてヨーロッパの景気が一段と悪化すると懸念されることから、ユーロの対ドルレートは7月12日の市場で一時1ユーロ=1ドルのパリティを割り込み、2002年以来の安値圏に沈んだ(図表2)。

ユーロと円の対ドルレートの推移表

【図表2】ユーロと円の対ドルレートの推移。いずれも終値ベース。

(出所)欧州中銀、日銀

ドイツでもインフレ率そのものはそろそろピークに達し、秋口からディスインフレ(インフレ率の低下)が進む見込みだが、それでも従来の見通しに比べるとインフレ率は高い状態が続きそうだ。そうした状況を踏まえて、ドイツのIfo経済研究所は6月15日に発表した最新の経済予測で、2022年の経済成長率を3月時点の3.1%から2.5%に引き下げた。

なぜインフレ加速は「経済減速」につながるのか

ところで、なぜインフレの加速は景気の減速につながるのだろうか。それはインフレが加速すると、実質所得が目減りし、消費が下押しされるからだ。

例えば額面で前年から5%所得が増えたとして、物価が10%上昇していたら、実質的には所得が前年から5%減少したことになる。これでは消費は増えるどころか手控えられてしまう。

つまり物価の安定は、経済活動が安定的に行われることの大前提となる。

物価を安定させるためには、利上げを行うなどして需要をある程度、抑制する必要がある。利上げは通常、通貨高につながるため、輸入品の価格の安定化にも貢献する。ただし利上げを優先すると景気に強いブレーキがかかるため、そのバランスをどう取るかが難しい。

アメリカと異なり利上げが難しい日本とヨーロッパ

インフレが進むと、インフレが今後も加速するだろうという予想が人々の間で生まれる。

これは「インフレ期待」と言われるものだが、これが強まると実際にインフレが進んでしまうことになる。インフレ期待を鎮めるためにも利上げは有効な手段だが、日本とヨーロッパはアメリカと異なり、利上げに対して慎重に臨む必要がある。

日本の利上げが難しい理由

日本の場合は政府が巨額の債務を抱えているため、利上げが非常に難しい。現在、日本の政策金利は▲0.1%であり、また長期金利(10年国債流通利回り)を0.25%までに抑えている。財務省によると2022年度の日本の公的債務残高は1026兆円となる見込みで、当初予算では国債費(過去の債務の返済と利息)が24.3兆円と見積もられている。

財務省の4月1日付の試算では、10年債金利が2%上昇すれば2023年度の国債費は1.7兆円膨らむ。政府が利払い費に窮していると投資家が判断すれば、日本の金融市場は不安定となり、円も売られてしまう。

一方で、低金利を放置しておけばインフレは抑えられないし、アメリカの利上げ局面では円が売られてしまうというジレンマを日本は抱えている。

ヨーロッパの利上げが難しい理由

ヨーロッパもジレンマを抱えている。

ドイツだけを考えれば利上げは可能だが、通貨を共有しているイタリアやスペイン、ギリシャなどの重債務国の利払い負担が重くなる。そのため、利上げを急ぎ過ぎるとヨーロッパの金融市場そのものが不安定化してしまう。ヨーロッパの金融市場が不安定化することは、当たり前だがドイツにとっても不都合だ。

それでも、ヨーロッパ中央銀行(ECB)は7月21日に予定されている次回の理事会で0.25%の利上げを行う。そして9月8日の次々回の理事会では、0.5%超の大幅な利上げの可能性をすでに示唆している。重債務国の金利上昇に配慮しながらも、物価の安定にも乗り出す姿勢をECBは徐々に強めていると言える。

日本のインフレショックは「来年」かもしれない

他方、日本では日本銀行の黒田総裁が金融緩和の継続を明言している。

インフレがコストプッシュ型であり、デマンドプル型ではないことを主な理由として挙げているが、いずれにせよ日本で今の金融緩和が継続する以上、円はドルやユーロに対して売られやすい状況が続く。

つまり、「しばらく円安傾向は止まらない」と予想される。

そうなると、冒頭で述べたように、日本では2023年にかけて円安を主因とするインフレが定着することになると考えられる。円安を理由とするインフレが問題になるのは、今年ではなく来年のことになるだろう。

日本では賃金が増えにくいため、諸外国に比べて低いインフレ率でも消費を下押しすることにならないか懸念される。

(文・土田陽介

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