※本記事は、2022年7月6日に公開した記事の再掲です。
2020年7月豪雨の後の熊本県、球磨村の様子。芦北町に隣接する村、氾濫した球磨川の上流にあたる。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
7月15日、気象庁は15日夜から16日午前中にかけて、九州北部・南部地方に線状降水帯が発生して大雨災害の危険度が急激に高まる可能性があることを発表した。
ここ数年の間に、梅雨から台風の季節にかけて「線状降水帯」という言葉を頻繁に耳にするようになった。
この言葉が大きく知られるきっかけとなったのが、2020年7月上旬に九州の球磨川を氾濫させた豪雨だ。2020年7月3日正午から8日正午までの間に、九州だけでも9事例の線状降水帯が発生し、7月4日10時までの24時間降水量は、熊本県芦北町などで約700mmを記録した。
気象庁では、2022年の6月1日から、同庁ホームページの気象情報で線状降水帯による大雨の可能性が高いときに、半日前から呼びかけを行っている。
本格的な大雨の季節を前に、あらためて「線状降水帯」について気をつけるべきことをおさらいしておきたい。
線のように広がる大雨「線状降水帯」
【画像1】2020年7月に球磨川の氾濫をもたらした線状降水帯のひとつ。紫色や赤色、黄色といった強い降水域が線のように連なっていることが分かる。
出典:気象庁HP
線状降水帯とは、文字通り線のような形状をした「強い雨の降っている領域」のことを指す。
気象レーダーの画像(画像1)を見ると、1時間に20mm以上の土砂降りの雨が降っていることを示す黄色や、滝のように降る50mm以上の雨を示す赤色、息苦しくなるような圧迫感のある80mm以上の降雨を示す紫色などの領域が線状に広がっていることが確認できる。これが線状降水帯だ。
線状降水帯が長時間同じ場所に停滞すると、河川の氾濫や土砂災害などの災害リスクが高くなる。
Valerie Johnson/Shutterstock.com
線状降水帯の正体は、列を成した「積乱雲」だ。
積乱雲は、地上付近にある暖かく湿った風が上昇することによって発達し、雨を降らせる。
雨が降ると、雲の中では冷たい下降気流が発生するため、上昇気流が打ち消されて、次第に雲が消える。通常、積乱雲ひとつあたりの大きさは、直径数キロメートル~十数キロメートルで、“寿命”は30分~1時間程度と長くはない。
だから、ひとつの積乱雲によってもたらされる夕立は、30~1時間程度で終わるし、雨の降る場所も局所的だ。
しかし、風向きや地形的な条件が重なることで、上昇気流が下降気流によって打ち消されないような場合、同じ場所で次々と積乱雲が生まれることがある。
こうして積乱雲が長さ、幅数十キロにわたる列を成した線状降水帯が発生し、同じところで大雨が降り続くことがある。
線状降水帯には3タイプある
【画像2】線状降水帯発生の代表的なメカニズム。
出典:気象庁HP
では、どんなときに線状降水帯は発生するのだろうか。
積乱雲が発生するような暖かく湿った風が地上に吹いていることに加えて、ポイントになるのは地上と上空の「風向き」だ。
積乱雲を作る地上付近の風と、上空の風が同じ風向きに吹いていた場合、生み出された積乱雲はそのまま風下側に流される。
風下に流された積乱雲からは、地上に向かって下降気流が吹き降ろされる。この下降気流が最初に積乱雲の発生した場所付近に吹いている湿った風と出合うと、再び同じ場所で上昇気流が発生し、別の積乱雲が発生する。
こうして同じ場所で次々と発生した積乱雲がベルトコンベアーに流されるかのごとく風下に移動することで、積乱雲が線状に並ぶ。これが線状降水帯となる。このような線状降水帯のでき方を「バックビルディング型」という。
ちなみに、線状降水帯は、地上の風向きと上空の風向きの組合わせによって、大きく分けて3つに大別される。
バックビルディング型以外には、ほかに「スコールライン型」と呼ばれるものがある。
このタイプの線状降水帯は、地上付近の風と上空の風が正反対の方向に吹いているときにできる。バックビルディング型の場合、風が吹く方向(風上から風下)に線状降水帯が伸びていくのに対して、スコールライン型の線状降水帯は、風上から見ると水平に広がっていく。
ただし、線状降水帯は、上層の風によって流されて移動するので、同じ場所で長時間大雨が降り続くことはあまりない。
もうひとつのタイプが「バックアンドサイドビルディング型」と呼ばれるもので、地上付近の風と上空の風が直交するように吹いていると発生する。
このケースでは、発生した積乱雲は上空の風向き方向に流されていく。このタイプの線状降水帯も、バックビルディング型と同様に長時間の大雨、すなわち集中豪雨を引き起こすタイプの線状降水帯とされている。
災害対策で押さえておきたい情報源
shutterstock/Ned Snowman
毎年梅雨から台風の季節にかけては、集中豪雨が発生しやすく、それに伴い災害も発生しやすくなる。線状降水帯の発生に対する気象庁の呼びかけなどの予報は、どのように活用すればよいのか。
大切なことは、線状降水帯であろうとなかろうと、今後自分のいる場所で雨が長らく降り続きそうかどうかを見極めることだ。
そこでお勧めしたいのが、気象庁ホームページの「今後の雨」や「雨雲の動き」、そして「キキクル(危険度分布)」だ。
キキクルの画面の例(画面は旧バージョンの気象庁ホームページ)。2020年7月に球磨川が氾濫したときのもの。実際に氾濫しているため、球磨川が黒で表示されている
気象庁HP
キキクルは、大雨によって発生する洪水や浸水、土砂災害などの危険度を5段階に色分けして表示しているサービスだ。
それぞれの災害リスクの高まりを、土壌雨量指数、表面雨量指数、流域雨量指数の3つの指数と警報などの発表基準をもとに表示している。
例えば、赤色で表示される場所は警戒レベル3で、それよりも危険度が高まると警戒レベル4の紫色になり、大雨特別警報が出るような警戒レベル5になると黒色で表示される。
この警戒レベルは内閣府が設定した「避難情報に関するガイドライン」に沿ったもので、警戒レベルに応じて自治体から避難指示が出される。
自宅に高齢者や病人・けが人・乳児などがいたり、孤立した場所にあったりして避難に時間がかかる場合や、ハザードマップで浸水地域や土砂災害警戒区域などに指定された災害リスクの高い場所にいる場合は、赤色(警戒レベル3)が表示された時点で避難を始める。それに該当しない場合は、レベル4の紫色になった段階で避難すべきだ。
なお、警戒レベル5は災害がもうすぐ発生しそうな状況か、すでに災害が発生してしまっている状況だ。その段階になってしまった場合、避難のために外出しようとすると、かえって危険な状況だ。
線状降水帯予報、当たるのは「4回に1回」でも重要な理由
なお、この6月から始まった線状降水帯の予報の的中率(予報を出して実際に現象が起こる確率)は、現在の技術では4回に1回程度だ。
しかも、線状降水帯の発生の可能性に言及する気象情報は、全国を11ブロック(北海道、東北、関東甲信など)に分けた地方予報区ごとに発表される。
「線状降水帯が発生するおそれがある」と発表されたとしても、かなりに広範囲にわたる予報なのだ。
ただ、この予報が発表される際には、線状降水帯の発生有無に関わらず、6割以上の割合で3時間積算降水量が150mmを超え、紫色で表示される警戒レベルが4の大雨が発生する可能性が高い。天気予報に線状降水帯というキーワードが出たら、気象情報を意識してチェックするきっかけにしてほしい。
現段階では精度が良いとは言い難いが、気象庁は積乱雲の発生のカギを握る水蒸気量の観測にも力を入れるなどして、予報の精度を上げようとしている。10年後には予報範囲が地方予報区ごとではなく、都道府県や市町村ごとの予報にすることを目指しているという。
線状降水帯というキーワードを聞くと、思わず身構えてしまうかもしれないが、テレビやラジオ、インターネットの気象情報やキキクルなど、さまざまな情報をこまめにチェックして、今年の大雨の季節を乗り切りたいものだ。
(文・今井明子)