日本らしさを出しながら、実際は100%中国企業のメイソウ。
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無印とユニクロとダイソーを足して3で割った「偽日本ブランド」と揶揄されながら世界中に出店し、2022年2月には「中国ブランドとして初めて」マンハッタンに店舗を構えた雑貨チェーン「名創優品(メイソウ、MINISO)」が7月13日、香港証券取引所に上場した。2020年10月のニューヨーク証券取引所上場に続く重複上場だが、足元ではコロナ禍の影響もあり、創業以来最大の試練を迎えている。
気づけばニューヨークと香港のW上場
コロナ禍という時節柄、日本で話題になることも減ったが、世界各国のショッピングセンターや繁華街に出店するメイソウは、海外旅行に出かけた日本人をざわつかせてきた。
ユニクロを彷彿させる赤いロゴと、無印良品とダイソーを思わせるブランド名、そしてダイソー的な「10元(約200円)均一」の商品展開。さらには店内や商品ラベルにあふれる珍妙な日本語……。2017年ごろは公式サイトで、本社を東京・銀座、経営者を日本人と記載し、「2013年に中国に進出」と主張していた。
つまりメイソウは、中国でユニクロや無印良品の認知度が上昇していた2010年代に、日本ブランドを装ってチェーン展開を進めた雑貨店なのだ。
公式サイトではかつて「無印良品、ユニクロ、ワトソンズから『世界で一番怖い競争相手』と称される」と豪語し、中国人消費者からも「恥ずかしい」と眉をひそめられていた。
しかし知名度が上がった2018年ごろから日本色を徐々に薄め、中国人創業者も積極的に露出を始めた。そして気づけば店舗数ではユニクロと無印を足した数をも上回り、2020年10月にニューヨークで上場。パクリの下剋上ぶりに、日本人も中国人もざわざわが止まらず今に至るわけだ。
時価総額はピーク時の3分の1以下
ウクライナのキーウにあるメイソウ店舗。現在100カ国以上に出店している。
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今回メイソウが香港で重複上場した最大の目的は「リスク回避」と見られている。
ニューヨーク上場当初はメイソウの株価も好調で、翌2021年2月には時価総額が100億ドル(約1兆3800億円、1ドル=138円換算)を突破した。だがその後下落に転じ、直近の株価は7ドル前後で推移し、発行価格(20ドル)の3分の1になっている。時価総額も20億~30億ドル(約2800~4200億円)をうろうろしている。
最近のメイソウは上場廃止の懸念すらささやかれており、香港証券取引所への上場は、資産やブランド力の低下リスクをある程度分散する狙いがあるようだ。
市場の懐疑を反映するように、香港での上場初日の初値も公開価格を4%強下回り、“ご祝儀相場”にはならなかった。
ニューヨーク証券取引所での株価は米国市場全体の影響を受けている側面もあるが、結局のところ、メイソウの株価低迷は、市場が同社の成長性に対して疑問を突き付けている結果であり、同社が踊り場にいるのは間違いない。
コロナ禍でも1年で800店舗増
メイソウの店舗数は2021年末時点で世界100カ国に5045店。うち中国国内が3168店で海外が1877店舗だった。
2020年6月末時点では、80カ国4222店(中国約2500店、海外約1680店)だったので、1年半で800店以上増えている。
コロナ禍で小売店が深刻な打撃を受ける中でも、カナダ、ナイジェリア、サウジアラビア、インドなど世界中に大量出店を続け、2020年10月にパリ、2022年3月にはニューヨークのマンハッタンに店舗をオープンさせた。
無印良品の店舗数は約1000店舗(2021年8月)、ユニクロは約2300店舗(同)だ。メイソウが短期間にこれだけ出店できるのは、フランチャイズ制を採用していることが大きい。
公式サイトの加盟店募集情報によると、加盟店は最初に75万元(約1500万円)の保証金を納め(返還あり)、年間8万元(約160万円)のロイヤルティを支払う。商品はメイソウ所有で、店舗売り上げのうち62%をメイソウが、38%(食品は33%)を加盟店が受け取る。
メイソウの店舗は大型商業施設や人通りの多い繁華街に集中しているが、テナント料や光熱費、スタッフの人件費も加盟店側が負担する。つまり、店舗運営のリスクはほぼ加盟店が背負っており、店が増えれば勝手に実入りが増えるビジネスモデルになっている。メイソウにとっては店舗当たりの経営効率を上げるよりも出店数を増やす方が手っ取り早いわけだ。
本質的な課題はブランド力不足
2017年ごろまでは商品に怪しい日本語が並んでいたが、今は日本語表示の商品はほぼ見かけなくなった。
筆者撮影
しかし、メイソウの好循環はコロナ禍で止まった。店舗の休業や営業制限、来店者の減少により、特に海外で1店舗当たりの売り上げが急減、撤退も相次いだ。同社の2018年の売上高は170億元(約3400億円)あったが、翌年以降は93億5300万元、89億7900万元、90億7200万元で推移し、純損益も3期連続で赤字を計上。3年の赤字額は合計20億元(約400億円)に迫る水準となっている。
メイソウは業績悪化の理由を「コロナ禍での休業や撤退」と説明している。特に2021年6月期は他の小売りチェーンと同様、コロナ禍の打撃を強く受けた。だが、株価低迷の背景にはより根本的な問題である「ブランド力不足」があり、それこそがメイソウが向き合うべき課題だというのが、市場関係者の共通の見解だ。
雑貨市場は参入障壁が低く製品の代替性が高いため、今も昔もレッドオーシャンであり、「そこそこの品質の商品を安く買える」メイソウは、常に競合との競争に晒されている。メイソウが「日本ブランド」を偽装して急成長したように、最近ではアジア各国に「ユビソウ」「ヨヨソウ」などメイソウの模倣ブランドが出現している。
「勝てば官軍」の経営方針は品質やブランド、知的財産権の軽視と表裏一体であり、著名ブランドからの訴訟、顧客からのクレーム、行政指導も後を絶たない。
もちろん、これら課題を乗り越える切り札が海外進出であり、パリやマンハッタンへの進出だったわけだが、コロナ禍の長期化は同社にとっても想定外だっただろう。
連続起業家でメイソウ創業者の葉国富氏は最近、安売り勝負にならない「趣味消費」に照準を定め、ミニフィギュアブランド「TOP TOY」への投資を強化している。
ただしTOP TOYも、中国でフィギュアブームを巻き起こした「POP MART」の後追いであり、TOP TOYの売れ筋商品はメイソウと同様ハローキティやディズニーなど著名IPとのコラボに頼っているなど、オリジナリティは相変わらず欠如している。
メイソウは香港上場で手にした資金の多くも新規出店に投じるとしており、基本的にはコロナ禍の落ち着きを待ちながら、規模拡大で何とかしようという姿勢も健在だ。
日本でも少しずつ海外旅行が復活しつつある。メイソウの株価は低空飛行だが、私たち日本人が数年ぶりに海外に出たら、コロナ前よりもはるかに高い頻度で、この商魂たくましい「メイソウ」ブランドを目にすることは間違いない。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。