株価暴落で苦境が報じられるネットフリックス(Netflix)。注目の2022年第2四半期(4〜6月)決算発表を前に専門家による議論が盛り上がっている。
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ポイントになる数字は「200万人」、すべてはそれ次第だ。
米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)は4月19日、2022年第2四半期(4〜6月)に200万人の会員減を見込むと発表。翌日、株価は前日比35%の急落を記録し、その後も下落が止まらず、2021年秋につけた史上最高値との比較で73%下落(7月18日終値時点)と苦境が続く。
同社の株価暴落は他のメディア銘柄にも波及、エンターテインメントセクター全体の経営を圧迫している。かつて向かうところ敵なしとされたニューハリウッドの映画会社は不確実性の時代に突入したと言っていいだろう。
ネットフリックスは最近の業績不振に伴い数百人規模でレイオフ(一時解雇)を実施。それと前後して複数の著名経営幹部が同社を去り、一部は競合するアマゾンや英BBCに移っていった。
また、経営戦略と支出計画の見直しも行われ、業界関係者、クリエイティブ関係者らを唖然とさせた。
そうした動きを目にしたハリウッドもウォール街も、ネットフリックスの絶頂とも言える、過去5年間にわたって2ケタ台の勢いで会員数を伸ばし続けた栄光の日々は、すでに終えんを迎えたとの見方で一致している。
ネットフリックスはこれからどこへ向かうのか。
新たな収益源として期待できるのは、同社がかつては否定してきた広告付き低価格プランの提供開始だ。
また、リード・ヘイスティングス最高経営責任者(CEO)がかつて「ポジティブな行為」と位置づけたパスワード共有の制限も収益を押し上げることになるだろう。
なお、広告付き動画配信プランの導入計画を推進するにあたり、ネットフリックスは最近、技術・営業パートナーとしてマイクロソフト(Microsoft)を選んだ。本命とされたグーグル(Google)やコムキャスト(Comcast)が惨敗を喫したその経緯は、先週公開(7月15日付)の記事にある通りだ。
この2022年の険しい道のりは、必ずしもネットフリックスの陰々滅々とした未来を指し示すものではなく、むしろ同社が競合するレガシー映画製作配給会社と並ぶメジャーな存在に成長する上で避けて通れない試練なのかもしれない。
実際、株式アナリストの一部は、同社の会員減見通しは懸念されるほどひどい数字にはならないとも予測する。
米資産管理大手ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)のマイケル・パクターは、ネットフリックスの投資判断を長いこと弱気としてきたものの、2022年第2四半期(4〜6月)のグローバル定額制動画配信市場における会員減については150万人と、一連の予測の中で最も楽観的な数字をはじき出している。
パクターによれば、ケイト・ブッシュが1985年に発表した楽曲「神秘の丘(Running Up That Hill)」のリバイバルヒットにもつながったドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4が第2四半期から今四半期(7〜9月)も続いてヒット中で、会員増に貢献しているという。
また、米銀大手ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)のスティーブン・カホールは、月間アクティブユーザー数をベースとする同社独自のコリレーション(相関)分析をもとに、会員減が100万人で踏みとどまると計算する。
にもかかわらず、カホールはその自社分析を「信頼性が薄い」として、会員減200万人というネットフリックス側の予測を下方修正していない。
ネットフリックスの「チャーンレート(解約率)の推移は新たなフェーズに入っている(要するに解約の勢いが増している)ので、過去の相関関係をもとに今後について確度の高い予測を行うのは困難というのがその理由だ。
米投資銀行エバーコア(Evercore)傘下の金融調査会社インターナショナル・ストラテジー&インベストメント・グループ(ISI)などウォール街の一部も同様の見方で、ネットフリックスが第1四半期決算発表時に同社の見通しとして発表した通り、会員減は200万人と予測する。
一方、悲観論者もいる。
英銀大手バークレイズ(Barclays)のカナン・ベンカテシュワルは、ネットフリックスの自社見通しを大きく上回る280万人の会員減を予測する。
また、米金融大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)のベンジャミン・スウィンバーンは、ネットフリックスは2016年から20年にかけて年25%増という驚異的なペースで会員を増やし、結果として売上高も年30~35%の増加を記録した栄光の経緯を踏まえつつ、上昇を続ける解約率が業績を圧迫している現状を指摘する。
ネットフリックスが仮に次の業績発表で第3四半期(7〜9月)も会員減の見通しを発表した場合、株価の回復はさらに難しくなるという。
ただ、同社は競合するディズニープラス(Disney+)への対抗策として、まだ小規模ながらライブ番組配信にも進出を果たしており、計画中の広告付き低価格プランとの組み合わせを通じ、新たな番組展開と売上増の機会を生み出せる可能性もある(その文脈では、ついにスポーツ分野への進出も噂される)。
モルスタのスウィンバーン(前出)は次のように分析する。
「グローバル規模で進むリニアからストリーミングへの移行、さらにネットフリックスの強みである競合に比べて高いレベルのエンゲージメントは、長期的に見れば、会員数およびユーザー平均単価(ARPU)の引き上げにつながるでしょう。
また、ゲーム事業やコンシューマー向けプロダクトを通じてプレゼンスを強化しつつ、広告付きのスポーツ中継やヒットシリーズのフランチャイズ化(=設定やキャラクターの使用権利許諾を得て製作される、劇場向けの続編やスピンアウト映画)などの追加的なマネタイゼーション機会を通じて、ネットフリックスは長期的に利益を増やしていくと考えています」
(翻訳・編集:川村力)