景気後退入りが現実味を帯びるなか、トレーダーは弱気ポジションの拡大を急ぐ。が、米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)はその戦略を「つまずく可能性がある」と否定する。
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米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)によれば、2022年第2四半期(4〜6月)の決算発表シーズンを迎え、投資家たちは最悪の事態に備えようと弱気のポジション拡大を進めている。2021年冬から続く米国株の惨状を考えれば、やむを得ない判断だ。
S&P500種株価指数は年初来18%下落(7月19日終値)、米連邦準備制度理事会(FRB)の急激な引き締め政策の影響で景気減速の兆しが見られるなか、景気後退はもはや可能性というよりコンセンサス(一致した意見)の領域に入っている。
(FRBの利上げに端を発する)金利上昇にもかかわらずインフレの加速が続く現状は、問題をますます複雑にしている。
ゴールドマン・サックスのデリバティブ(先物やオプション取引などの金融派生商品)調査部門を率いるジョン・マーシャルは、7月中旬の顧客向けメールで、トレーダーが今後の株価下落を予測してプットオプションに買いを入れている状況を報告している。
プットオプションとは、ある金融商品を一定の期間内にあらかじめ決められた価格(権利行使価格と呼ぶ)で「得る権利」を指す。当該商品の価格が権利行使価格を割り込み、なおかつ商品購入時の支払額を回収できるところまで下がれば、それより下がった分は利益として受けとれる。
その逆の「買う権利」、つまりコールオプションは株価上昇時に利益を得られるが、足もとではあまり活発に取引されていない。
ただ、マーシャルの見方では、プットオプションの買いに代表されるような(株価下落に備えて)弱気ポジションを買い増す戦略はつまずく可能性があるという。
過去6年間、S&P500種指数を対象とするオプション取引において、標準化したプット・コール・スキュー(歪み度合い、プットへの需要が強まるほど数値上昇)の水準は、信頼できるコントラリアン(逆張り)指標であることが明らかになっているというのがその理由だ。
スキューは現在、投資家の警戒感(相場の下落懸念)が高止まりしていることを示しており、(逆に)第2四半期の決算発表シーズン突入とともに、強気のリリーフ・ラリー(下落相場からの反騰)が起きる可能性があるという【図表1】。
【図表1】S&P500種指数を対象とするオプション取引の標準化スキュー(歪度)の推移。決算発表シーズンを前に投資家の警戒感は高止まり。
Goldman Sachs
「現在のスキュー水準だけをベースに考えれば、S&P500種指数のトータルリターンは今後3カ月で5.1%上昇すると予想されます」(マーシャル)
ゴールドマン買い推奨の「10銘柄」
マーシャルは前出のメールで、ゴールドマン・サックスの株式アナリストが決算発表を受けて最大15.6%の株価上昇が期待される10銘柄を挙げている。
いずれの銘柄も、上昇する確率は53.8%以上を見込む。
マーシャル率いるチームはアナリストチームと協力して、直近の見通しを上回る業績を発表すると予想される銘柄を特定した。業績を上方修正するか、下方修正するかが、その後の株価の動きを決定づける最重要ファクターだからだ。
またそれ以外に、各銘柄の予想変動率、空売り筋からの人気(空売り残高)、ゴールドマン・サックスが設定した目標株価に対するアップサイド(上振れ余地)、成長性も、決算発表後の株価動向に影響を与えるファクターとして検討材料とした。
なお、この予測モデルを用いて「株価上昇の可能性が高い」と結論した銘柄のパフォーマンスは、過去15年にわたる予測のうち実に14年について、「上昇の可能性が低い」と結論した銘柄をアウトパフォームした実績がある【図表2】。
【図表2】業績発表当日の平均リターン。濃紺のグラフが予測モデルで「買い推奨(株価上昇)」と判断された銘柄、薄青のグラフが「売り推奨(株価下落)」とされた銘柄。
Goldman Sachs
以下に10銘柄のリストを掲載しよう。予想変動(上昇)率、空売り残高、目標株価に対するアップサイド、成長性パーセンタイル、決算発表後に株価上昇する確率を併せて示す。
ペイパル(PayPal)
Markets Insider
[業績発表日]7月26日[予想株価上昇率]13.9%
[空売り残高]1.8%[目標株価に対するアップサイド]72%
[成長性パーセンタイル]74.8[上昇確率]56%
アライン・テクノロジー(Align Technology)
Markets Insider
[業績発表日]7月27日[予想株価上昇率]14.1%
[空売り残高]2.2%[目標株価に対するアップサイド]45%
[成長性パーセンタイル]72.4[上昇確率]55.8%
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(Advanced Micro Devices、AMD)
Markets Insider
[業績発表日]7月25日[予想株価上昇率]9.4%
[空売り残高]0.4%[目標株価に対するアップサイド]68%
[成長性パーセンタイル]78.4[上昇確率]55.1%
エンフェーズ・エナジー(Enphase Energy)
Markets Insider
[業績発表日]7月25日[予想株価上昇率]15.6%
[空売り残高]1.8%[目標株価に対するアップサイド]13%
[成長性パーセンタイル]82[上昇確率]55.0%
フリーポート・マクモラン(Freeport-McMoRan)
Markets Insider
[業績発表日]7月21日[予想株価上昇率]11.0%
[空売り残高]1.5%[目標株価に対するアップサイド]93%
[成長性パーセンタイル]69.8[上昇確率]54.9%
ハリバートン(Halliburton)
Markets Insider
[業績発表日]7月19日[予想株価上昇率]12.4%
[空売り残高]2.0%[目標株価に対するアップサイド]54%
[成長性パーセンタイル]61.2[上昇確率]54.9%
ボーイング(Boeing)
Markets Insider
[業績発表日]7月27日[予想株価上昇率]10.1%
[空売り残高]0.9%[目標株価に対するアップサイド]107%
[成長性パーセンタイル]58.6[上昇確率]54.5%
シュルンベルジェ(Schlumberger)
Markets Insider
[業績発表日]7月22日[予想株価上昇率]12.5%
[空売り残高]2.2%[目標株価に対するアップサイド]57%
[成長性パーセンタイル]50.2[上昇確率]54.4%
テスラ(Tesla)
Markets Insider
[業績発表日]7月20日[予想株価上昇率]9.0%
[空売り残高]0.8%[目標株価に対するアップサイド]33%
[成長性パーセンタイル]47.8[上昇確率]53.8%
アルファベット(Alphabet)
Markets Insider
[業績発表日]7月25日[予想株価上昇率]8.5%
[空売り残高]1.6%[目標株価に対するアップサイド]26%
[成長性パーセンタイル]65.2[上昇確率]53.8%
[原文:Goldman Sachs: These 10 stocks are ready to explode by up to 15.6% on the day they announce earnings]
(翻訳・編集:川村力)