米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は、株価下落の底入れ時期を具体的に予測する「11の指標」を提示する。いずれも実績のあるシグナルだ。
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今日、米ウォール街で本当に答えが必要とされている唯一の疑問と言えば、「底入れしたのか?」だろう。
別の表現を使って、「市場の下落は終わったのか?」「このあたりが底値なのか?」「(空売り筋の)売り仕掛けは終わったのか?」「(株価の)反転はすぐに始まるのか?」「いまが買いどきなのか?」などと言い換えることもできる。
金利やインフレ、企業業績の動向など、ほとんどあらゆる議論は回り回ってこの疑問に戻ってくる。
米大型株の動向を示すS&P500種株価指数は年初来18%下落、ハイテク株の比率が多いナスダック総合指数は同26%の下落を記録し(いずれも7月19日終値ベース)、専門家も最悪の事態は終わったと断言するのに抵抗を感じている様子だ。
実際、米銀大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)は、S&P500種指数の年末目標を現在(7月20日終値)より約10%低い3600に引き下げ、事態はまだ収束していないことを強調している。
なお、ブルームバーグによれば、このバンカメの年末目標は6月15日までに明らかになっているウォール街のどの同業他社より低い数字だという。
バンカメの米国株・クオンツ戦略責任者を務めるサビータ・スブラマニアンは次のように語る。
「当社のデリバティブ(金融派生商品)チームは、金利の動向と株価のボラティリティ(価格変動率)の間に歴史的なかい離があることから、株式市場はダウンサイド(下振れ)リスクが高いと見ています。
また、アメリカがもしすでに景気後退入りしているのだとすれば、現在の株価にはまだその影響が反映されていないと考えています」
バンカメによれば、最悪シナリオをたどった場合、S&P500種指数は2022年末までに3000〜3200に下落する恐れがあるという。3000だとすれば、現在(7月20日終値)よりさらに25%低い水準まで落ち込むことになる。
他の大手金融機関に比べると、バンカメは株式市場の底値を足もとの水準よりはるかに低く見積もっている模様だ。
底入れ時期を把握するための「11の予兆」
さて、スブラマニアン率いるチームは、市場がいつ底を打ったのかを把握するのに役立ついくつかの「シグナル」が存在すると指摘する。
1974年以降、株式市場が底値を打つ前に何らかの動きを示してきた11の指標を精査したところ、うち2つの指標が、現時点で底入れを示唆するシグナルを発しているという。
以下では、それら11の指標をすべて紹介しよう。
まず、株式市場が底入れする約12カ月前、「米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ」があり、「株式リスクプレミアム(ERP)」が直近の最小値から少なくとも0.75%ポイント上昇する。
株式リスクプレミアム……国債のような元本保証の安全資産に比べて、大きな価格変動リスクのある資産に投資する際、どの程度の収益(率)上乗せがあればそのリスクを負担する気になるかを示す。株式の期待リターンから米10年物国債の利回りを差し引いて算出。
いずれも、1974年以降に起きたすべての景気後退局面で底打ち前に見られた動きで、バンカメが見出した最も信頼できる指標となっている。が、残念ながら2022年はまだどちらの動きも確認できていない。
FRBは7月26〜27日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%の追加利上げを決定する見通しで、バンカメも2023年第3四半期(7〜9月)まで利下げはないと予想している。
次の指標は、米資産運用大手フィデリティ・インベストメンツ(Fidelity Investments)の偉大な投資家ピーター・リンチが提唱した「20ルール(Rule of 20)」。
20からインフレ率を差し引いた数字を株価収益率(PER)の均衡点(適正値)とする見方で、その均衡に達するほど株価が下落すれば、底打ちが期待できるというわけだ。
同法則に従えば、2022年6月のインフレ率(消費者物価指数の前年同月比上昇率)は9.1%なので、適正PERは10.9倍ということになる。
しかし、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、直近のS&P500種のPERは21倍と、現時点では指標からかけ離れている。
この指標も、1974年以降に起きたほぼすべて(2002年を除く)の景気後退局面で、底打ちと正確に合致している。
次は、一気に3つの指標に触れよう。
底入れの6カ月から12カ月前には、投資家が金利低下を想定するようになり、「2年物米国債の利回り低下」が始まる。さらに、底入れのおよそ6カ月前、「失業率の上昇」と「イールドカーブのスティープ化」が起きる。
イールドカーブのスティープ(急傾斜)化は、長期金利のほうが短期金利よりも高くなり(いわゆる「順イールド」)、その差が拡大すると投資家が予想していることを示す。将来の見通しが明るくなり、経済成長が続くときに起きる現象だ。
上記3つもきわめて信頼できる実績のある指標で、1974年以降に起きたほぼすべて(例外は1度だけ)の景気後退局面の底打ち前に確認されている。
今回について言えば、イールドカーブは最近スティープ化したものの、2年物米国債の利回りは年初来上昇基調が続いている。
次なるシグナル指標は、投資家のリスク許容度を示す伝統的な指標でもある、長期的な「銅金レシオの低下」だ。
銅金レシオの低下は、金価格が銅価格に対して上昇している状況を示す。産業用途を中心に広く経済活動に使われる銅より、安全資産としての金が買われる相場は、投資家が景気の先行きに対してより弱気な見方をしていることを意味する。
足もとの相場に当てはめると、6月から7月にかけて銅金レシオはおよそ18カ月ぶりの低水準になったが、ここ10年ほどの推移を見ると、長期的な低下トレンドとまでは言えない。
続く指標は、前年比で見た「米サプライマネジメント協会(ISM)発表の購買担当者景気指数(PMI)の改善」。2022年6月まで1年間の推移を見ると、PMIは改善どころか低下の一途をたどっている。
さらに、投資家心理を分析する「米投資家協会(AAII)センチメント調査」の結果も底打ちのシグナル指標として役立つ。
投資家はしばしば自らの感情や感覚をベースに判断を行う。彼ら彼女らが極端に弱気姿勢に振れてあきらめを感じている兆候は、状況が改善に向かうコントラリアン(逆張り)指標とも言える。
ブルベア指数が極端に低下した場合、言い換えれば弱気派が強気派を大きく上回った場合、反転の日が迫っている兆候とされる。
最近がまさにそんな状況で、最新(7月第4週)のAAIIセンチメント調査結果によれば、今後6カ月間について弱気とした投資家は42.2%、強気としたのは29.6%だった(なお、7月第2週はさらに顕著でそれぞれ52.8%、19.4%)。
残る重要な底打ちシグナル指標は、「弱気相場における少なくとも5%以上の持続的な株価上昇」と、バンカメの「バイサイド(機関投資家側)インジケーターが買いを示唆」だが、いずれもそのような動きはまだ確認されていない。
(翻訳・編集:川村力)