アスレチック・ブリューイング・カンパニーの創業者、ジョン・ウォーカー(左)とビル・シュフェルト。コネチカットの新醸造所にて。
Athletic Brewing Company
- アスレチック・ブリューイング・カンパニーのノンアルコールビールは、現在アメリカにおけるノンアルコール・クラフトビール市場の51%以上を占めている。
- 同社は、普段からお酒を飲むが場合によってはノンアルを選びたいと考える「フレックス・ソーバー」を取り込みたいと考えている。
- アスレチックのビル・シュフェルトCEOは、2030年までにノンアルビールがアメリカのビール市場の20%を占めるようになると考えている。
アメリカのバーでは、アスレチック・ブリューイング・カンパニー(Athletic Brewing Company)のノンアルコールビールを見かけることがあるだろう。あるいは、大学のスポーツ選手がインスタグラム(Instagram)でこのビールを宣伝したり、ホールフーズに置いてあるのを見たりしたことがある人もいるかもしれない。
いずれにせよ、アスレチックのビールはアメリカでかなり普及しているようだ。
創業5年のこの醸造所が生産するビールは、アメリカのノンアルクラフトビール市場で51%のシェアを誇り、2021年には生産量が10万バレル(約1170リットル)を突破した。アスレチックは直近の売上高と収益額を公開していないが、ブルームバーグによると、2020年の売上高は2019年から500%増の約1500万ドル(約20億円)に急増したという。
アスレチックの成功は偶然ではない。高品質な味わいと拡大する流通が完璧にマッチしたことや、クラフトビールへの評価が高まっていること、ミレニアル世代やZ世代の間でアルコール飲料の代替品への興味が急増していることによるものだ。
「5年前には話題に上ることもなく、誰も欲しがらなかったし、考えることもなかった」とアスレチックの共同設立者兼CEOであるビル・シュフェルト(Bill Shufelt)はInsiderに語っている。
「今となっては、生産が追いつかないほどだ」
「禁酒法を復活させようというわけではない」
アスレチックで人気のあるIPA(India Pale Ale)「Run Wild」。
Spencer Platt/Getty Images
アスレチックの成長は、ノンアルコール・ビール市場のブームとともにある。
アルコール飲料に関するグローバルな市場データを提供する調査会社、IWSRが行った「アルコール飲料市場調査」によると、アメリカでのノンアルコール・カテゴリーは2021年に数量ベースで28%以上の成長を遂げたという。IWSRの北米リサーチ・ディレクターであるアダム・ロジャーズ(Adam Rogers)は、暴飲暴食からの脱却によりこのトレンドが生まれているとInsiderに宛てた電子メールに記している。
「多くの人々が、アルコールの摂取に対してより意識的になり、少ない量を節度を持って飲むことに重きを置くようになっている」とロジャーズは述べている。
「ノンアルビールは、アルコールの影響を受けることなくビールを飲みたいという消費者のライフスタイルに合致しており、このような層の消費機会を拡大させている」
ノンアルビールの売上を牽引する消費者の中には、完全に禁酒している人もいれば、通常のビールと一緒にノンアルビールを飲んでいる人もいるとロジャーズは指摘する。後者の消費者を「マインドフル」な飲酒をする人と表現し、その多くは若年層であるとした。
「今日の消費者は、シーンに応じてアルコールゼロや低アルコールの商品などを選択している」とロジャーズは記している。
シュフェルトがターゲットとしているのはまさにこの層なのだ。彼は、アメリカの成人の50%が「ほぼ飲まない」と推定しているが、人口の半分だけをターゲットにしているわけではない。彼は全体に目を向けている。
シュフェルトによると、アスレチックのビールを買う人の8割は、アルコール飲料も飲むという。彼はそのような人を「フレックス・ソーバー」、つまり普段からお酒を飲むが、時にはノンアルも選ぶ人たちと表現している。
「我々は、お酒を飲む機会をなくそうとしているわけではない。1週間のうち5日間、人口の50%をこのカテゴリーに加えようとしている」と彼は言う。
「禁酒法を復活させようというわけではないが、より良い選択肢を提供していきたい」
ビール市場を破壊する
アスレチックのライトビールは25カロリー。
Athletic Brewing Company
もちろん、ノンアルビールについて常に指摘されているのは、その味わいだ。
低アルコールのビール造りは、歴史的に見てもおいしさの追及と相反するものだった。低アルコールやノンアルコールのビールを造るには、醸造後に沸騰させてアルコールを飛ばすか、発酵を早めに止めるかの2つの方法がある。どちらの方法でもおいしいビールにはならない。
アスレチックでは「革新的な独自の手法」でノンアルビールを製造しているというが、その工程については明かしていない。シュフェルトは、同社のほぼすべてのビールで有機麦芽を使用していると述べており、「極めて不経済だが、非常に高品質」としている。
彼は、最高の原材料を使用することのほかに、醸造プロセスをすべて、コネチカット州ミルフォードに新しく建設した1.4ヘクタールの施設を含めた社内のみで行っていることが成功の要因だと考えており、それによって生産と流通が迅速に拡大できると述べた。
「2017年にジョン(ウォーカー)とチームを組み、それから1年は空の倉庫で自家醸造をしていた。その頃ジョンは『最高のクラフトビールに匹敵し、アルコールビールとまったく見分けがつかないような製品になるまで、絶対に発売しない』と言っていた」と、シュフェルトは回顧する。
「そして、彼はそれを見事にやり遂げたのだ」
同社は、2018年から2021年にかけてGreat American Beer Festival、World Beer Awards、2021年にUS Open Beer Championshipなど、40以上の賞を獲得している。
アスレチックは知名度の高い投資家も引き付けており、それにはNFLのスター選手であるJ.J.ワット(J.J.Watt)やジャスティン・タック(Justin Tuck)、自転車のランス・アームストロング(Lance Armstrong)などの有名アスリートも含まれる。まだ明らかにはできないが「他にも多くの有名人が出資している」とシュフェルトは言う。
アスレチックの製品は、全米1万5000以上の小売店で販売されている。
IWSRのロジャーズは、アスレチックがかつてのノンアルビールと異なるのは、ヘイジーIPAやスタウト、季節限定のオクトーバーフェストビールなど、幅広いスタイルを展開していることだと指摘し、これらはアスレチックが登場するまで「既存の」ノンアルビールブランドが扱ってこなかったものだと述べた。
ロジャーズはノンアルのクラフトビールの台頭を2010年代のクラフトビールブームが従来してビールブランドに大きな影響を与えたことと比較し、「この動きはより多くの小売店の棚に反映されるようになるだろう」と述べた。
アメリカのビール市場に占めるノンアルビールのシェアは、2017年には0.3%に過ぎなかったが、2030年にはそこから大きく飛躍して20%以上を占めるようになるとシュフェルトは考えている。
「その成長に誰もが驚くだろう」と彼は言う。
「最高のビールを平日でも日中でも、人生のどんな時にでも飲めるということに、多くの人が大喜びするのではないだろうか」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)