ジェシカ・ホクスワースさんと夫のコーベットさん。
Jessica Hoxworth.
- ジェシカ・ホクスワースさんは中絶の権利、新型コロナウイルスの感染対策、「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」運動を信じている。
- 生まれ育ったテキサス州で法律が保守的になるにつれ、ジェシカさんはワシントン州シアトルへ移住しようと考え始めた。
- アメリカで、"政治"を理由に引っ越しを考えているのはジェシカさんだけではない。
アメリカのテキサス州で生まれ育ったジェシカ・ホクスワースさん(29)は、その全てを捨て去るつもりだ。
来年の2月、ジェシカさんと夫のコーベットさんは友人や家族に別れを告げ、テキサス州ダラスのマンションからワシントン州シアトルのアパートへ移り住む予定だ。
連邦最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下してから、アメリカでは複数の州で中絶に関する法律がより厳格化されていて、ジェシカさんのように"政治"を理由に住宅の購入や賃貸を決める人も増えている。
「進歩主義、リベラル寄りの人にとっては深刻な状況です」とジェシカさんはInsiderに語った。
「直近のロー対ウェイド判決をめぐる判断が、わたしたちのテキサスから出る必要性をさらに高めました。身体的な自律、安全を維持するためです」
テキサス州はロー対ウェイド判決をめぐる物語の中心だ。全ては52年前、ダラスの法廷から始まった。ただ、その後、共和党の議員たち —— テキサス州の立法府を政治的に47年間支配している —— は、半世紀以上前にアメリカ全土で合法と認められた中絶をめぐる判断を覆すために取り組んできた。テキサス州は連邦最高裁がロー対ウェイド判決を覆し次第、直ちに全てまたはほぼ全ての中絶を禁止するいわゆる「トリガー法」を成立させているアメリカ13州のうちの1つだが、テキサス大学が4月に1200人を対象に実施した調査では、有権者の54%がこうした州の姿勢に「反対」している。
アメリカの政治はますます二極化していて、アメリカ人はこうした状況に不満を持っている。そして、こうした不満が高まるにつれ、ホクスワースさん夫妻のように自分たちと同じような考えを持つ州や都市、地域に移住する人が増える可能性もある。自分たちの政治的な力を取り戻すためだ。
「友人たちにも、できればテキサスを出るよう勧めています」とジェシカさんは話している。
「最高裁の判断が出た後、わたしたちの友人夫妻もシアトルに目を向けるようになりました」
リベラルだけではない
ホクスワースさん夫妻がシアトルに引っ越すと決めたのは、生殖権だけが理由ではない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックや「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」運動への州の対応も影響している。
「COVID-19や警察の残虐行為といったいくつかの重要な瞬間に対するテキサス州の対応が、夫とわたしに無知と真実に対する敵意の『中心地』と感じさせるこの場所から離れたいと思わせました」とジェシカさんは語った。
「大学に進んでからわたしたちの世界観は自然とより進歩主義的なものへと変わっていき、シアトルの雰囲気がわたしたちにはぴったりなんです」
政治がより個人的なものになるにつれ、次に住む場所を決める時にも"政治"を考慮に入れるアメリカ人が増えている。これはリベラルだけではない —— 自分たちの政治観に合った州に引っ越す保守派の人々も増えている。フェイスブック(Facebook)には、テキサス州への移住を支援するためだけのグループが複数ある。
ただ、政治的な立場に関係なく、国を横断するような引っ越しは誰にでもできるわけではない。アメリカでは家を買うのにかかる費用も家を借りるのにかかる費用も歴史的に見て高い状況が続いていて、労働市場も競争が激しい。ジェシカさんはリモートワークの制度がなければ、引っ越しはできなかったと話している。
「わたしたち夫婦は今後、生活費の増加が見込まれる中でも自分たちのライフスタイルを維持することができそうなフルリモートの仕事に幸運にも就くことができました」とジェシカさんは語った。
「これほど素早く動くことができるのは、それがあったからです」
シアトルの住宅価格はアメリカの中でも高い方だ。シアトルの都市部に家を買って引っ越そうと思ったら、平均して87万5000ドル(約1億2000万円)は払うことになると考えておく必要があるし、アパートを借りるなら平均して毎月2190ドル(約30万円)はかかると思っておいた方がいい。ただ、シアトルより手頃とはいえ、ダラスでも2021年から住宅購入価格は13.5%、家賃は9%上がっている。インフレ圧力によってほぼ全てのアメリカ人の生活にかかる費用が増えているため、国を横断するような引っ越しは、引っ越し先がどこであれ、お金のかかる作業だ。
生活にかかる費用は増えるものの、ジェシカさんは自分たちが正しい決断を下したと考えている。
「シアトルは民主党支持者の多い場所で、カナダにも近く、とても美しい街です。わたしたち夫婦は自然が大好きですし、シアトルにはたくさんの魅力があります。2人にとって、とても充実した暮らしになると思っています」
(翻訳、編集:山口佳美)