日傘をさしてバスを待つ北京市民(2022年7月15日、中国)。
Ng Han Guan/AP Photo
- この夏、北半球の大部分が繰り返し熱波に見舞われている。
- 気候変動によって熱波がより頻発化、深刻化、長期化する中、こうした状態が「ニューノーマル」なのかもしれない。
- 国際社会はより大規模かつ同時多発する熱波に備える必要がある。
この夏、北半球のほとんどが猛暑に悩まされている。
ヨーロッパは今夏3度目の熱波に見舞われていて、山火事に拍車がかかり、数百万人が脅威にさらされている。ポルトガルとスペインでは、7月17日だけで1000人以上が「暑さ」が原因で死亡したと報告されている。フランスでは山火事の影響で数千人が避難している。Sky Newsによると、イギリスのある空港では滑走路が溶けて飛行機の離発着ができなくなった。暑さで滑走路が歪んでしまった空港もあったという。ウェールズでは史上最高気温も記録され、イギリスの気象学者たちは、19日にはさらに気温が上がると見ている。
ロンドンの地下鉄では、新聞をうちわ代わりに使う男性の姿も(2022年7月18日、イギリス)。
Yui Mok/PA Images via Getty Images
うだるように暑いのは、ヨーロッパだけではない。中国から北アフリカ、アメリカまで、北半球のほとんどの地域で、この暑さがもう2週間続くとの予報が出ている。
2022年7月13日の地表気温。濃い青色(0度以下)から黒(45度以上)までいろいろだ。
Joshua Stevens/GEOS-5/NASA GSFC/VIIRS/Suomi National Polar-orbiting Partnership
「これは異常だと、わたしも言えたらよかったんですが」とワシントン州立大学の気候科学者ディプティ・シン(Deepti Singh)氏はInsiderに語った。
「熱波が発生する可能性が高まっているのは、温暖化の影響です。それは地球上のほとんどの場所で起きています」とシン氏は指摘した。
地球の気温が上がる中、熱波の同時多発も一般的になりつつある。2022年の夏は"ここ数年で一番暑い夏"として記憶されるかもしれないが、科学者たちはこれが"当たり前"になる可能性があると警鐘を鳴らしている。そして、国際社会は気温上昇の原因となる温室効果ガスを削減しなければならないと指摘している。
スペインのマドリードでは猛暑の中、男性が道路で作業をしていた(2022年7月19日)。
Manu Fernandez/AP Photo
同時に、都市は"暑さ対策"を講じなければならない。住民により多くの日陰を提供し、直射日光でものすごく熱くなるアスファルトといった地表を覆うためには、緑を増やすことが必要だ。線路が歪んだり、送電線が溶けたり、停電に陥るのを避けるためには、政府による猛暑に合わせたインフラ整備も欠かせない。クーリングセンターといった社会的インフラの整備、屋外で働く人々を守るための政策、警報システムの拡充なども重要だ。
「熱波が実際に何を意味するのか… ビーチで過ごす楽しい日ではなく、健康を害する恐れがあるものだと、一種の認識の転換が必要なのです」とコロンビア大学の気候物理学者カイ・コルンフーバー(Kai Kornhuber)氏はInsiderに語っている。
気候危機が熱波を悪化させている
山火事が広がる中、消防士たちは消火活動にあたっていた(2022年7月18日、フランス)。
Philippe Lopez/Pool via REUTERS
2022年3月、北極と南極は季節が逆であるにもかかわらず、記録的な暑さに見舞われた。同じ頃、インドとパキスタンは2カ月に及ぶ熱波に覆われていた。6月にはアメリカとヨーロッパで6月の史上最高気温を記録し、チュニジアでは暑さと山火事の影響で農作物が被害を受けた。
「温暖化によって華氏2度(摂氏約1度)しか上がっていない状況で、こうした気温になっています。今世紀中にさらに華氏4度上がると見られているので… どのくらいひどい状況になるのか、想像がつきません」とテキサスA&M大学の気候科学者アンドリュー・デスラー(Andrew Dessler)氏は6月、AP通信に語った。
アメリカのテキサス州サンアントニオでは、子どもが水浴びをしていた(2022年7月11日)。
Lisa Krantz/Reuters
科学者たちは一般的に、特定の熱波を気候変動と直接結びつけることはしない。ただ、さらなる分析によってそうすることが可能になる。5月にインドとパキスタンの熱波が終わりに差し掛かった頃、World Weather Attributionの科学者たちはこれまでのデータを分析し、気候変動によって熱波が30倍起こりやすくなっていると指摘した。
インドのアフマダーバード郊外では、道路にかげろうが(2022年5月12日)。
Amit Dave/Reuters
全体としては、世界の気温が上昇することで熱波はより頻発化、深刻化、長期化している。2018年の『全米気候評価報告書(NCA)』では、アメリカでは1960年代以降、熱波の発生頻度が3倍になり、熱波が起きやすい季節の平均日数が45日に伸びたことが分かった。国連気候変動政府間パネル(IPCC)も世界中で同様の傾向を見込んでいる。
同時多発の大規模熱波が当たり前に
スペインのマドリードでは暑さ対策として、女性が飼い犬に池の水をかけていた(2022年7月13日)。
Paul White/AP Photo
熱波がより頻発化、長期化によって、さまざまな地域で同時に熱波が発生する状況も増えると見込まれる。
「わたしたちは同時多発熱波を"中緯度にある2つ以上の地域で同時に大規模な熱波が発生している状態"と定義しています。夏はほとんど毎日です」とシン氏は話している。
これは比較的新しい動きだ。1980年代には、同時多発熱波はひと夏で20~30日しか起きていなかったとサイ氏は指摘する。サイ氏とコルンフーバー氏が共同執筆し、6月に『Journal of the American Meteorological Society』に掲載された研究によると、温暖化の影響でここ40年で同時多発熱波の頻度は6倍になったという。また、40年前に比べて、同時多発熱波に覆われる空間は約46%、強度は17%増したことも分かった。
スペインのグアダペロ近郊では山火事が迫る中、羊たちが草を食べていた(2022年7月15日)。
Susana Vera/Reuters
コルンフーバー氏によると、2022年の夏が"異常"なのは、あくまでも安定した気候の中での話だという。
「わたしたちはより極端な方向へと絶えず変化している気候の中にいます。その観点からすると、これはまさにわたしたちが見込んでいる、科学者たちがここ10年予測してきたことなのです」と同氏は語った。
その上で「わたしたちは、この道を進まなければならないわけではありません」と話し、温室効果ガスの早急な削減を呼びかけた。
「ただ、今の道を進み続ければ、わたしたちが記録的な異常気象に見舞われ、今年と同じまたは今年を上回るような同時多発的な異常気象を経験することが増えるのは明らかです」
(翻訳、編集:山口佳美)