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スタートアップ社長が子育て地方移住。会社はどう変わった?10X矢本CEOの場合

以前「育休ガチ勢CEO」として取材した10X(東京・中央区)の矢本真丈CEOが、今度は子育てのために東京から大阪へ移住した。地方での暮らしと、そこで得た事業の気づき。そして拡大期に本社を離れることへの葛藤などを聞いた。

参考記事:スタートアップの男性育休がアツイ。70万円前払い、1カ月の義務化、CEOも取得

子どもに「周囲を気にせず遊べる環境」を

10X、矢本真丈

自然の中で遊ぶ矢本さんの子どもたち。

提供:矢本真丈さん

幼稚園と小学校に通う男子二児の父である矢本さんが、本社がある東京から大阪へ移住したのは、2022年1月。きっかけは前年2021年夏に新型コロナウイルスの感染拡大から子どもを守るため、矢本さんの実家がある青森県で1カ月間暮らしたことだった。

青森の自然の中で、周囲の目を気にすることなく遊ぶ子どもたち。当時住んでいた東京のマンションは生活音で苦情がくることもあり家族全員が疲弊していたため、地方移住を決意するのに時間はかからなかったという。

10X、矢本真丈

10X・CEOの矢本真丈さん。

提供:10X

地域や住まい選びで最優先したのは、もちろん子育て環境だ。騒音問題の解消と自然とのふれ合い、そして学校へのアクセスなどを考慮し、夫婦の仕事との両立や住宅市場の動向も踏まえた上で、最終的に大阪の北摂エリアのマンションに決めた。

移住から半年が過ぎ、暮らしはどう変わっただろうか。

「子どもたちに東京のようなコンクリートと平面に囲まれた環境ではなく、もっとぐちゃぐちゃした身体的な複雑さ、多様さを体験してもらいたいと思っての移住でしたが、家族の生活は狙った通り格段によくなりました。

山まで30分、海まで1時間と自然との距離が近く、家にいてもセミの声が聞こえて、近所でカブトムシを捕まえることもできる。

人との距離も近いようで、東京にいた頃は放課後といえばテレビゲームだった長男が、今では友達が迎えに来て水鉄砲を持って遊びに行ってます。これが土地柄なのかは断定できませんが、とにかく僕から見る子どもたちはすごく楽しそうで」(矢本さん)

東京に週1で通うのは「ハードじゃない」

東京

GettyImages / Gim Porntep

現在もマンション暮らしだが、下の階も子育て家庭で理解があることを確認した上で入居した。騒音トラブルは皆無だ。

フルリモートで働く妻と矢本さんは、2人とも平日は家で仕事をする。そのため、それぞれが集中しやすいよう個室の多い家を選んだ。東京時代に比べて2部屋増やしても同じ賃料で住めるほど、家賃相場も低い。

気になる働き方だが、矢本さんは週に1日ほど日帰りで上京し、組織の方針を決める重要な会議やマネージャーとの打ち合わせ、関東にある企業との商談など、対面でないと難しい仕事に充てている。

交通手段は飛行機か新幹線だ。朝6時台に家を出て、夜10時から深夜12時過ぎに帰宅する。

「もう慣れましたね。過去の自分の仕事のやり方と比べても、そんなにハードではないです」(矢本)

10Xではコロナ禍以降2020年3月からリモートワーク制度を導入していた。矢本さんも東京在住時から週に1度ほどの出社ペースだったため、それができる距離に住めば仕事上の問題はないだろうと見込んでいたのだ。

組織が成長したからこそ移住できた

10X、矢本真丈

提供:10X

10Xは2017年に創業し、従業員は70人超。2021年7月にシリーズBで約15億円の資金調達もしている。まさに事業の拡大期だ。加えて昨今は「スタートアップ冬の時代」と言われるほど景気が冷え込んでいる。

この重要な局面でCEOが東京を離れることを社員や投資家にどのように相談したのかたずねると、

「プライベートな話なので事前に相談することはなく、決まってから報告しました。投資家は『いいね』とだけ。社内はこれまで通りの出社ペースなので、特にリアクションもなかったですね」(矢本さん)

とアッサリ。一方で、

「これが創業初日だったら同じようにはできなかったと思います。組織が成長して、信頼できるメンバーがいる今だからこそ移住できたんです」(矢本さん)

東京に住む社員だけでは地方のサービスは作れない

10X

10Xの顧客は全国に広がっている。

出典:10Xホームページ

地方移住は事業に思わぬメリットももたらした。

10Xが提供する「Stailer」は、スーパーマーケットやドラッグストアなどの小売チェーンがEC事業を立ち上げる際、アプリの構築から在庫管理、物流のシステムまでを一気通貫で支援するサービスだ。導入企業はイトーヨーカ堂やスギ薬局、ライフコーポレーションなどの大手から、北陸の食品スーパー・アルビス、東北のドラッグストア・薬王堂など地方にも広がる。

前述の青森在住の際、自社が提供する薬王堂のネット販売アプリのユーザーになったことは、事業にも好影響を与えた。東京にいる時には把握できなかったプロダクトの課題が見えてきたのだ。

「買い物という非常に地域差があるサービスを作るのに、東京という大都市で均質的な暮らしを送る社員だけでは限界があると気づきました。

現地、つまり顧客企業の近くで社員が生活することが10Xにとっては非常に重要だと」(矢本さん)

全国どこでも働ける制度を導入、費用も補助

10X

10XのHPには地方在住者や、男性の育休取得者など社員のライフプランにまつわるコンテンツも充実している。

出典:10Xホームページ

10Xでは矢本さんの大阪移住とほぼ同時期の2022年1月に「10Xワークスタイル」と題して勤務条件を大幅改定。日本全国どこに住んでいても働けるようにした。オフィスと同水準のリモート環境を担保するための費用もサポートする。

・出社時の交通費として月10万円を上限に支給

・リモートワークのための機器等の購入費として上限5万円を支給

・リモート手当として月1万円を支給

・希望者は4Kモニター、ワークチェアを自宅に送付

働き方改革にともない、首都圏以外の在住者の採用も本格的に開始した。現在は北海道、大阪府、兵庫県、岡山県、山梨県に住む社員が在籍している。地方在住者はもちろん、今は首都圏に住んでいるものの将来的に地方の地元に戻ることを検討している人からの採用応募も増えたそうだ。

ちなみに男性の育児休業も前回取材時同様、取得率は100%の状態が続いている。

「制度を作っても、利用できる風土が育たないと意味がない。社長である僕自身が育休を取ったり地方に移住していることがメッセージとなって、『あの人でもできるなら』と思ってもらえたら嬉しいですね」(矢本さん)

(文・竹下郁子


※10Xは、サステナビリティ経営に取り組む企業を表彰するBusiness Insider Japanのアワード「Beyond Sustainability2022」のDE&I部門にノミネートされています。ノミネート企業13社の中から受賞した4社が登壇するオンラインイベントが、2022年7月25日(月)~29日(金)に開催されます。詳しくはこちらから。

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