スタッフはデンマークの国旗をデザインしたハットをかぶり、陽気な雰囲気が感じられた。
撮影:小林香織
この7月に日本上陸10年を迎えた、デンマーク発のプチプラ雑貨ストア「フライング タイガー コペンハーゲン」(Flying Tiger Copenhagen/以下、フライングタイガー)。
2021年の日本での売上高は前年比17%増の44億2200万円と、競合ひしめく「プチプラ雑貨」業界でも独自の路線を打ち出して存在感を示している。
同ストアはどのように独自性を保ち、売上を伸ばしているのか。来日したCEOのマーティン・イェアミーン(Martin Jermiin)氏と、日本でフライングタイガーの運営を担うZebra Japan CEO、松山恭子氏に聞いた。
ファミリー層をターゲットに、再浮上
オープン当日、開店前には100名超が並んだという。
提供:Zebra Japan K.K.
「フライングタイガー」アリオ亀有ストアがオープンした7月8日は、オープン前から100名超が列を作った。筆者が店頭に訪れた17時頃は20〜40代と見られる女性客が多く、親子やカップルで買い物を楽しむ姿も見られた。
2012年7月、アジア初の店舗として大阪のアメリカ村で日本展開をスタートしたフライングタイガー(アメリカ村ストアは、2021年8月に閉店している)。
オープン当時は、想定以上の集客によりほとんどの商品が欠品し、臨時休業せざるを得なくなったほどの反響だった。
勢いに乗って大規模サイズの出店が続き、新店舗がオープンすれば売上が爆発的に伸びる時期が続いた。しかし、2015年にはブームが停滞。それまで順調に店舗数を増やしていたが、2017年には店舗数が縮小することになった。
そんな最中、日本事業再生の期待を背負って2017年に入社したのが、現CEOの松山恭子氏だ。松山氏はファーストリテイリングやジーユーのマーケティング部を率いた後、Zebra Japanに入社。経営企画部長、COOと昇進し、2019年7月にCEOに就任した。
グローバルCEOのマーティン・イェアミーン氏とZebra JapanのCEO、松山恭子氏。
提供:Zebra Japan K.K.
松山氏は就任後、ターゲットを「ファミリー層」へと転換した。来店者でも特にファミリー層のリピート率が高かったことなどを踏まえての決断だった。
「親子も越えた3世代から選ばれるようなブランドを目指し、この数年間で注力商品のカテゴリーを見直してきました。それまで多くラインナップしていたホームパーティーグッズの代わりに、自宅で使える趣味や知育の玩具などを充実させています」(松山氏)
オープン日のアリオ亀有ストアの様子。
提供:Zebra Japan K.K.
1店舗あたりのサイズを縮小し、郊外モールへの出店強化も図った。
「車で訪れるような郊外モールの店舗は、80坪から100坪としています。一方で、アリオ亀有ストアは最寄り駅から徒歩で行ける利便性のいい場所にあるため、面積をコンパクトにして商品の回転を早めています。同様の戦略を取って2021年4月にオープンしたグランツリー武蔵小杉ストアも非常に好調です」(松山氏)
現状はトライアル期間だとしつつも、駅チカのショッピングモールなど小規模店舗への出店も、手応えをつかんでいるようだ。
子ども用のテントや知育玩具が好評
レジ前に並べられた日本限定のコーヒー(378円)、プレッツェル(270円)、サバの缶詰(378円)などの食品(価格は全て税込、7月24日時点のサイト表示価格)。デザインにフライングタイガーらしさが感じられる。
撮影:小林香織
日本で販売されているフライングタイガーの商品は、主に本国デンマークから提案されたものから日本市場に合うものを選定している。ただし、衛生基準や配送の観点から輸入が難しい食品は、国内で企画・生産している。
日本で目立って売れている商品を聞くと、松山氏は子ども用のテント(税込2420円)をあげた。
アリオ亀有ストア内で展示されていたテント。
撮影:小林香織
「複数のデザインがあり、売り上げランキングのトップ10にいくつもランクインするほどです。2000円前後とわりと高額商品なのですが、新しいデザインが出るたびに売れていますね。グローバルでも好評なので、コロナ禍の巣ごもり需要にマッチしたのだろうと考えています」(松山氏)
ファミリー層へのターゲット転換と同時に注力している知育玩具もまた、ヒット商品の一つだ。
パズル(税込660円)などの知育玩具はコロナ禍のヒット商品の一つ。
撮影:小林香織
「以前は、他の商品とひとくくりに『おもちゃ』として売っていたのですが、『知育玩具』とカテゴライズし直したところ、売れ行きがグッと伸びました。北欧では知育玩具は(おもちゃの1ジャンルとして)当たり前にあったので、日本ならではの特徴だと思います」(松山氏)
インテリアとして購入する人もいるというバンジョー(税込1320円)。
撮影:小林香織
知育玩具コーナーにはリコーダーやアコーディオンといった知育楽器も複数あり、バンジョーやウクレレはインテリア用途でも売れているという。
ミドルプライス雑貨は追い風
生活雑貨やインテリア雑貨市場は、コロナ禍の落ち込みから復調を遂げつつある。
フライングタイガーも例外ではない。年次報告書によると、2021年の連結売上高は前年比10%増の38億1300万デンマーククローネ(約711億円、7月24日時点のレートで換算)となった。日本市場に限っても2021年の売上高は、前年比17%増の44億2200万円と伸長した。
2020年に開始したオンラインストアも、復調に貢献した。国によっては総売上の約15%を占めるまでに成長しているという。日本では、2020年6月にファッション通販サイト「SHOPLIST.com by CROOZ」内にオンラインストアを開設している。
「コスパ重視の低価格ブランドとは目指す方向性が異なる」とイェアミーン氏。
撮影:小林香織
「100均」などのプチプラ雑貨市場も好調だ。帝国データバンクの調査によると、大手5社(ダイソー、セリア、キャンドゥ、ワッツ、音通)を中心とする国内100円ショップ市場の2021年の市場規模は、前年比5.8%増の9500億円となる見込みだという。
その理由の1つとして「150~200円などミドルプライスの購入が増えている」など客単価の上昇が追い風になっていると同調査は分析する。
「本気のサステナブル」で低価格ブランドと差別化
フライングタイガーは競合との差別化をどのように図るのかをイェアミーン氏に聞くと、まず「サステナビリティの注力」を挙げた。
ケーキスライサーのパッケージの変化(左が以前、右が現在)。
提供:Zebra Japan K.K.
同社は2026年までに温室効果ガスの排出量を約30%、2025年までに製品や包装に使用されるプラスチックの消費量を50%に削減するなどの目標を掲げる。
この目標は、企業の温室効果ガス削減目標のグローバル・スタンダードとしても知られる、「Science Based Targetsイニシアチブ(SBTi)」認定も取得している。日本ではファーストリテイリングや丸井グループなど213社が取得する認定だ。
いわゆるプチプラ商品の環境配慮素材への変更は競合他社でも進んでいる。例えば、ダイソーでも国内の間伐材を活用した商品の販売などが始まっているが、こうした国際基準に則ったサステナビリティの推進は、やはり同社ならではの強みと言えるだろう。
イェアミーン氏は、「人」起点の買い物体験も違いとして付け加えた。ファンコミュニティ「部活」を中心に、オンラインイベントなどを通じて、商品の活用方法を共有する活動も人気が高いという。