米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の電動ピックアップトラック「ハマー(Hummer)EV」。人気に生産台数が追いつかず、早くも中古で高値取引されているとか。電池確保問題はさらに深刻で…。
GMC
数年以内に数百万台の電気自動車(EV)を世に送り出そうと、レガシー・スタートアップを問わず全世界の自動車メーカーが総計5260億ドル(約71兆円)の資金を投じて開発を進めている。
しかし、それほどの規模感になると実現は容易ではない。
電池の安全性向上と環境負荷低減に取り組む非営利組織レスポンシブル・バッテリー・コーリション(Responsible Battery Coalition)エグゼクティブディレクターのスティーブ・クリステンセンは、メーカー各社が車載電池の原料となるリチウムなど希少金属をめぐって争奪戦を繰り広げており、その確保の難しさが自動車業界の足かせになっていると指摘する。
クリステンセンによれば、今後100年間に普及が想定されるすべての電気自動車に必要なリチウムを確保することは現実に可能だという。ただし、それには前提条件があり、車載電池のリサイクル率を90%以上、同時に原料回収率も90%以上にする必要がある。
現時点ではそのいずれも達成できていないし、見通しも立っていない。
そして、たとえ車載電池の需要を満たすリサイクルインフラを整備できたとしても、おそらくそれより切実な問題があって、そもそも電池の生産能力を確保できるかどうか懸念されるのだ。
短期の視点で見ると、電池メーカー各社が想定している生産量では、予測される自動車メーカー各社からの需要に対応できなくなる。
電池監視・制御・長寿命化ソリューションを提供するタイタン・アドバンスト・エナジー・ソリューションズ(Titan Advanced Energy Solutions)共同創業者兼最高執行責任者(CCO)のショーン・オデイは次のように指摘する。
「電気自動車の生産(台数)目標達成に向けて自動車メーカー各社が欧州や北米で計画している生産能力拡大のロードマップを見ると、それらの稼働開始時期と新型モデルを実際に市場投入可能な時期のタイミング、あるいはそのミスマッチについて疑問を感じざるを得ません」
以下では、ゼネラル・モーターズ(GM)、テスラ(Tesla)、リビアン(Rivian)など有力自動車メーカーが悪戦苦闘している、車載電池をめぐる「3つの問題」に触れておきたい。
ステーションで充電中のテスラ『モデルS』。
Grisha Bruev/Shutterstock.com
【問題1】電池メーカーの生産目標達成は危うい
大手コンサルのマッキンゼー(McKinsey)によれば、電池産業の市場規模は2030年までに3600億ドル(約49兆円)超に成長すると予測されており、電池メーカー各社は目下数百万個という大量の電池セルを自動車メーカーに供給しようと競争を繰り広げている。
とは言え、米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の調査結果によれば、電池メーカー各社はそれぞれ計画の7〜9割程度しか生産できていない。
電気自動車および車載電池専門の調査会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス(Benchmark Mineral Intelligence)の最高データ責任者、カスパー・ロールスは生産量不足の理由をこう説明する。
「新たに車載電池工場を稼働させても、高い稼働率でのフル操業にたどり着くまでには相当な時間がかかるものです」
アメリカに本拠を置く自動車メーカーは国内での電池調達を優先したいところだが、実際はそう簡単にはいかない。
計画中のものも含めて北米大陸で稼働する多くの車載電池工場は、中国のCATL(寧徳時代新能源科技)や韓国のサムスンSDIをはじめとするアジアの電池メーカーが長いことかけて磨き上げた技術やノウハウをいま学び始めたばかり。
結果として、電池セルの製造工程に問題や欠陥が生じ、出荷できない不適合品・不良品が出てくるのは当面仕方のないところだ。
【問題2】車載電池の生産はスマホのそれより難しい
スマートフォンなど他のプロダクト向けの電池セルと比較すると、電気自動車向けの電池セルは1つの生産プロセスから得られる数量が限られる。電気自動車向けの電池セルはより大きく、より構造が複雑だからだ。
「電気自動車のサプライチェーンが厄介なのはその点なのです。家電製品の生産プロセスで当たり前とされてきたような高効率の稼働を前提にはできません」(ロールス)
【問題3】車載電池に求められる高いエネルギー密度
自動車メーカーは電気自動車の航続距離を延長し、性能で競合他社を引き離すため、エネルギー密度のより高い車載電池を必要としている。
そして、電池の性能を高めるにはニッケルのような金属材料の含有量を増やす必要がある。
「そのような電池を生産しようとすると、生産プロセスは似通っていても、化学組成が変わることで別の新たな課題が発生するのです」(ロールス)
【結論】電気自動車の生産目標達成はどうなる?
上記のような、学習曲線の問題(技術習熟にかかる助走期間の長さ)、歩留まりの低さ(適合品生産量のハードル)の問題、さらには必要とされる仕様の変化を受け、メーカーが現実的に生産できる電池セルの数量と、自動車メーカーが想定する電気自動車の生産台数との辻褄(つじつま)が合わなくなってきている。
しかし、そうした問題があるからと言って、自動車メーカーの電気自動車大増産計画が頓挫(とんざ)するという結論にはならない。むしろ、逆利用できる良いチャンスと見る専門家も多い。
電池材料のリサイクル分野にはいま、資金と新たなアイデアがなだれ込んでいる。
リサイクル以前に、まずはより高い歩留まりを実現するために実績のある電池メーカーと組む手もある。
テスラとパナソニック(Panasonic)、GMと韓国のLGエナジーソリューション(LG Energy Solution)、あるいはフォード(Ford)とSKイノベーション(SK Innovation)のパートナーシップは、そうした取り組みの代表例と言えるだろう。
最後に、機械学習をはじめとする近年の技術的飛躍は、電池生産プロセスの改善とその加速を後押しする可能性がある。
「人工知能(AI)やその他のテクノロジーを導入することで、生産現場の技術習熟を加速させ、電池生産を効率化する斬新な方法が生まれるかもしれません。
いずれにしても、車載電池への需要が急速に高まっているのは事実で、同時に、それに呼応する迅速な生産能力増強というのは不可能なのです」
(翻訳・編集:川村力)