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- 約1700万人のアメリカ人が自営業者で、労働人口に占める割合は2008年以降で最も高くなっている。
- NASE(全米自営業者協会)のキース・ホールによると、自営業は「反循環的」な面があり、不況時に多くの人が自営業を選択するという。
- もし、再び不況が訪れれば、さらに多くのアメリカ人が自営業を始める可能性がある。
多くの人が推測しているように景気後退が再びやってきたら、アメリカの自営業者の数は増加することが予想される。
そう話すのは、自営業者や中小企業のための非営利団体、全米自営業者協会(National Association for the Self-Employed:NASE)の会長兼CEOであるキース・ホール(Keith Hall)だ。1981年に設立されたNASEは、教育ツール、法的支援、アドボカシー、各種割引などのさまざまなリソースを同協会のメンバーに提供している。
ホールは、自営業の成長は 「反循環的」 な傾向があると言う。景気が低迷して失業したとき、「家族を養う方法を見つけなければならない」ため、多くの人が自営業に目を向ける。例えば、解雇された配管工が困っている近所の住民のため、トイレの修理を始めたように、「自営業者になるつもりはなかった」のに、気がついたらなっていた人もいるという。
「自営業者が強い回復を見せているのは、失業した労働者の一部が自営業に転じることが観察された過去の不況の傾向と一致する」とピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の上級研究員のラケシュ・コッチャー(Rakesh Kochhar)は以前Insiderに語っている。
この傾向はパンデミック不況の際に現れた
ブルームバーグの計算によると、2022年6月時点でアメリカ人の自営業者はおよそ1680万人で労働人口の10%以上を占め、2008年以降で最も高い割合を示している。自営業者の数は2020年には1270万人にまで減少したが、わずか1年後に新型コロナウイルス流行前の水準、自営業者以外の労働者よりも強い回復を示している。
専門家は、自営業が景気循環に逆行する性質を持っていることに加え、この回復の理由をいくつか指摘している。パンデミックの最中に子育ての負担が増したことで、一部の親は労働力から離れたが、自営業が彼らに必要な柔軟性を与えたのだ。
労働者の力が増大したことや「大退職」の話題に勇気づけられ、自分のキャリアを評価し、場合によっては自分がボスになりたいと考えるようになったアメリカ人もいる。特に、インフレ調整後の収入が過去40年間で最速のペースで減少していることを考えると、自営業者となるのは経済的に出世するための最善策だと考えた人もいるだろう。
そして「夢追い人」と呼ばれる人たちは、自暴自棄になったわけではなく、解雇されたことをきっかけに今まで持っていたアイデアを追求することになったのだ。
「その人たちはこんなことを言う。『知ってる? 私は画家になりたいとずっと思っていたんだ』『私が作ったロッキングチェアを売ってみたいといつも考えていたんだ』」とホールは話す。
「今がチャンスだ。なぜならその機会があるのだから」
新たなプロフェッショナルの力を身につけて次の不況に備える
ホールは、このパンデミックはアメリカ経済に「根本的な変化」をもたらし、それが労働者を自営業に向かわせたと考えている。
「これまでにないほど、在宅勤務がかなり受け入れられるようになってきていると思う」と彼は話す。
ホールは、企業がリモートワークの自営業者と取り引きすることに抵抗がなくなってきており、「自営業への移行が永続的に続く」と考えている。リモートの自営業者の正当性が高まっていることに加え、多くの従業員が一貫してリモートワークを望んでいることから、さらに多くのアメリカ人が自営業を検討すると思われるからだ。
「彼らはこう言うだろう。『なぜ私は育児にお金を使っているのか。なぜ自宅でできるのに、ガソリン代を払うのか。もし会社が在宅勤務を認めてくれないのなら、私は自営業者として、今、家でやっていることと同じことをする』と」
このような新たな動きが加わることで、もし深刻な不況が起こった場合でも「新型コロナウイルスの流行中に見てきた以上に、自営業は成長していくだろう」とホール氏は考えている。
借金してまで事業を始めるのに適した時期ではないが
不況下において自営業者は多くの課題に直面することをホールは認めていて、金利の上昇がすでに中小企業を締め付けていることを指摘している。事業を始めるのに「悪い時期」とは言わないが、起業の初期段階で多額の負債を抱える予定の自営業者に彼は注意を促している。
「新たなスモールビジネスを始めて、1カ月目や4カ月目に到達する唯一の手段が、銀行の25万ドル(約3460万円)の融資だけだとしたら、今はその計画に着手するタイミングではないかもしれない」
しかしながら、ホールは「自営業をやるには最高のタイミング」だと述べ、NASEはパンデミック期間に彼が記憶しているどの時期よりも多くの新規会員を迎え入れたと付け加えた。
「私の社会人としてのキャリアの中で、今ほど中小企業の声が大きく力強い時代はなかった」
NASEはこの力を使い、税法、医療費負担の軽減、退職金制度など、自営業者に利益をもたらすさまざまなものについての法整備をするように働きかけたいと考えている。アメリカの雇用の3分の2は中小企業によるものであり、このような支援は当然だとホールは考えている。
「大企業はある税率で税金を払い、中小企業は別の税率で税金を払っている」と彼は言う。
「大企業の従業員の健康保険料はある方法で徴収され、自営業者の健康保険料は別の方法で徴収される。こういうことは不公平だ」
NASEが望むいくつかの変化が最終的に実現されれば、状況は改善され、今後数年間の自営業の成長を促すもう一つの要因になると彼は信じている。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)