罪ある株式は「ディフェンシブ銘柄」と捉えられており、景気後退期や不況にも高いパフォーマンスを示す傾向がある。
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- ギャンブル、アルコール、タバコ、兵器などの企業は伝統的に「罪ある株式」と呼ばれる。
- これら株式は、景気後退期であっても好調なパフォーマンスを上げることが多く、ディフェンシブ銘柄と見なされている。
- 比較的パフォーマンスが安定しているとはいえ、こうした銘柄には規制や税制変更の影響を受けやすいといった固有のリスクがつきまとう。
投資の世界で、社会的責任投資やエシカル消費の台頭がますます顕著になってきた。それに伴い自分の道徳観に合ったポートフォリオを構築したいと考える投資家ならば、特定の銘柄「罪ある株式」を回避したいと思うかもしれない。
罪ある株式を不快だと感じる投資家もいるかもしれないが、こうした銘柄は強気相場でも弱気相場でも好調なパフォーマンスを上げることが多い。また、どの景気サイクルかに関係なく、景気後退期でもどちらかと言えば堅調だ。
罪ある株式とは何か?
罪ある株式とは、投資家が非倫理的だと見なしかねない企業の株式を指す。学術研究で罪ある株式のパフォーマンスについて普遍性を導き出そうとする際は通常、アルコール、タバコ、ギャンブルという「3つの大罪(sin triumvirate)」セクターを対象とする。これに兵器産業を加えた「ビッグ4(big four)」を罪ある株式と呼ぶ研究者もいる。
だが、個別に見ると、これら特定の産業に属さないからといって、罪ある株式ではないと言い切れないことがある。結局のところ罪ある株式かどうかの判断は、各投資家の道徳観によるところが大きい。エネルギー会社の業務が不道徳だと思っても、どのみち投資をするならば、それは罪ある株式への投資になるのだ。
罪ある株式の例
投資家の宗教、政治、倫理観によっては、不道徳だと見なされかねない株式や業種もある。
環境保護主義者であれば、石油や石炭企業は環境汚染に加担するので罪ある株式に分類するかもしれない。採食主義者は家畜を飼育したり、畜産物を販売したり、動物実験をする企業を罪ある株式として糾弾するだろう。
また株式ではないが、環境意識の高い投資家はプルーフ・オブ・ワーク(PoW)の仕組みを用いる仮想通貨(暗号資産)もポートフォリオには組み入れないだろう。PoWではマイニングに膨大な電力を消費するからだ。
社会意識の高い投資家も、児童就労に関与しているとして、チョコレートやコーヒー産業のような不当労働行為に手を染める企業や産業への投資を避ける可能性がある。また、刑務所産業から利益を上げる企業を除外する投資家もいるかもしれない。歴史的に従業員を不当に扱ってきた食肉加工業などの企業も然りだ。
労働者を搾取している企業もあれば、顧客を食い物にしている企業もある。消費者金融業者はその多くが上場会社だが、次回もらう給料を担保に法外な金利で消費者に貸し付けて利益を上げるペイデイローンを提供していることが多い。そうした企業を不道徳、あるいは搾取とさえ見なす投資家もいるかもしれない。
もしもアルコールが罪深いならば、マリファナが医療目的ではなく快楽を得るために使われる場合も罪悪になるだろう。誰もが中毒になるオピオイド鎮痛剤メーカーを罪ある株式に挙げる投資家もいるだろう。言うまでもなく、こうした薬物は莫大な収益をもたらすのに、だ。
反対に、社会規範が変わるにつれてその「不道徳な」レッテルが薄れる産業もある。アルコールは今も伝統的に罪ある株式と見なされているが、社会における現在の立場は1920年代とは様変わりした。また数十年前であれば、大麻製造会社が上場するなどとは思いもよらなかったはずだ。
罪ある株式のジャンルと企業
罪ある株式と呼ばれる可能性のある企業は多岐にわたる。罪ある株式のジャンルには、伝統的なビッグ4産業だけでなく、比較的新しい分野だがよく指摘される業種も含まれる。
- アルコール:アンハイザー・ブッシュ・インべブ(BUD)、モルソン・クアーズ・ブリューイング・カンパニー(TAD)、ボストン・ビア・カンパニー(SAM)、コンステレーション・ブランズ(STZ)、ディアジオ(DGEAF)、ブラウン・フォーマン(BF)
- 防衛/兵器:ボーイング(BA)、ノースロップ・グルマン(NOC)、エアロジェット・ロケットダイン(AJRD)、レイセオン(RTX)、ロッキード・マーチン(LMT)、アメリカン・アウトドア・ブランズ(AOBC)、オーリン(OLN)、ビスタ・アウトドア(VSTO)、スターム・ルガ-(RGR)
- タバコ:アルトリア(MO)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BTAFF)、フィリップ・モリス(PM)
- ギャンブル/風俗:ラスベガス・サンズ(LVS)、MGMリゾーツ(MGM)、ウィン・リゾーツ(WYNN)、ペン・ナショナル・ゲーミング(PENN)、シーザーズ・エンターテイメント(CZR)、ボイド・ゲーミング(BYD)、サイエンティフィック・ゲームズ(SGMS)、ドラフト・キングス(DKNG)、RCIホスピタリティ・ホールディングス(RICK)
- マリファナ/大麻:クロノス(CRON)、キャノピー・グロース(CGC)、オーロラ・カナビス(ACB)、アフリア(APHA)、ティルレイ(TLRY)、グロウジェネレーション(GRWG)
- 矯正施設/刑務所:コアシビック(CXW)、ゲオ・グループ(GEO)
- ペイデイ・レンダー/質屋:イノーバ・インターナショナル(ENVA)、EZコープ(EZPW)、ファーストキャッシュ・ファイナンシャル(FCFS)、QCホールディングス (QCCO)
- エネルギー:エネルギー・トランスファー・パートナーズ (ETP)、エクソン・モービル(XOM)、キンダー・モーガン(KMI)
- 食肉:ホーメル・フーズ(HRL)、サンダーソン・ファームズ(SAFM)、タイソン・フーズ(TSN)
- スナック/ジャンクフード:コカ・コーラ(KO)、モンデリーズ・インターナショナル(MDLZ)、ハーシー(HSY)、ペプシコ(PEP)、マクドナルド(MCD)
「罪ある株式」が魅力的な理由とは?
投資家の道徳観から見れば残念なことだが、数々の理由により罪ある株式の収益性は非常に高いことが多い。こうした銘柄をポートフォリオに追加することは、金融面から見れば魅力的な戦略と言えるだろう。では、罪ある株式が投資として一般的に優良だと思われる理由をいくつか挙げてみよう。
- 安定したパフォーマンス
罪ある株式はディフェンシブ銘柄と見なされている。つまり、悪材料や景気後退の影響を受けにくいのだ。コモディティ株が景気後退に強いという理由と同じで、こうした銘柄の多くは不況知らずとまでは言わないものの不況への耐性を備えている。景気全体の動向にかかわらず、これら企業が提供する製品やサービスへの需要は強いからだ。
- 高収益事業
結果としてこれら企業は過去、安定した利益と収益源を確保してきた。罪ある業種に分類される多くの企業が長年にわたり着実に事業を確立し、健全な財務状況を維持し、一貫して配当を支払ってきた。
- 少ない競合他社
これら企業が提供する製品やサービスは厳しい規制を受けることが多く、参入障壁が高い。競合他社がこうした制約の多い事業環境への参入に尻込みするため、既存業者の事業拡大余地が高まる。
罪ある株式という否定的な意味合いでさえも、こうした企業のメリットになり得る。特に宗教団体や教育機関向けの資金を運用する一部の機関投資家は、ネガティブな意味で有名な企業や論争の的になりそうな企業を回避する傾向にある。そのため、特定の罪ある株式が割安になり、安値で拾うことができる。
「罪ある株式」のマイナス面
罪ある株式は普通かなり安定した投資先だが、マイナス面があることにも留意してほしい。
- 高い規制リスク
どの企業の命運も法律次第ではあるが、罪ある株式にとって規制リスクは特に懸念材料だ。例えばマリファナは一部の州では合法化されているが、全米で合法というわけではない。それでも特定の州が独自の規制を制定する可能性があり、これによりマリファナ企業の業務が複雑になるかもしれない。
- 厄介な税金問題
税金から逃れられないのはどの企業も同じだが、罪ある株式はよく財政目標に苦しめられる。規制当局や有権者はこうした企業が製造する「罪深い」製品に対する税金を引き上げることがある。資金が必要になると州がこれら企業を増収源として当てにするのだ。増税により製品需要が減ると、利益が減少し、株価が下がるだろう。
- 消費習慣の変化
また、アルコールやタバコの消費量の低下といった、消費者の嗜好の変化による影響も考慮した方が良いだろう。アメリカ疾病管理予防センター(CDC)によると、成人の喫煙率は1965年の42.4%から2020年には12.5%にまで低下している。事前にほとんど予想できず、発生したときの衝撃が大きい「ブラックスワン(Black swan)」と呼ばれる現象が起きると、消費者は習慣を変えざるを得ないことがある。新型コロナウイルスの感染拡大で賭け事が行われるカジノやスポーツイベントがなくなったことはその一例だ。
ヒント:どんな製品を作っているかにかかわらず、1つの業種や企業にポートフォリオを集中させすぎるのはいつでも危険なことを覚えておこう。
罪ある株式の投資方法
これまでもその手の株式とうまく折り合いをつけてきた。それはさながら、熟睡できるように不健全だが睡眠薬を枕元に置いて寝るようなもので、洗濯ばさみで鼻をつまんで罪ある株式に投資してきたのだ。
道徳観以外の点では、ほかの投資商品を検討する場合とかなり似ている。長期的な投資目標とポートフォリオ全体に照らし合わせて投資判断を検討しなければならない。特定の企業に投資をしたくないけれども利益が魅力的だと思うならば、個別銘柄に投資する代わりに罪ある株式を組み入れた上場投資信託(ETF)に投資するのも一案だ。
また、特定の罪ある業種に投資する前に、その業界全体を俯瞰した方が良い。業界を取り巻く政治的・文化的な動向に目を向け、意思決定を行う権力者の意見に耳を傾けるのだ。例えば、2022年4月に米食品医薬品局(FDA)はメンソールタバコを禁止する案を示したが、これはタバコ業界とその株価を揺さぶる可能性がある(ただし発表後も、株価は比較的横ばいで推移している)。
それ以外の点では、罪ある株式に投資するかどうかのポイントは、結局のところどの投資でも同じである。
- 他の銘柄ではなく、この銘柄に投資する独自のメリットは?
- 他の投資先ではなく、この銘柄を選んだときに十分高いリターンが得られるか?
- この銘柄は自分のポートフォリオや投資戦略全体にどうマッチするか?
- どのくらいの損失額に耐えられるか? その損失を補填できるか?
もちろんどんな投資でも同じだが、その企業についての社会的な一般常識が当てはまることを確認するために、投資を検討中の罪ある株式を調査しなければならない。
結論
ある意味、罪ある株式への投資判断は、投資家の道徳観をお金に反映させるかどうかという問題にほかならない。
現実問題として、罪ある株式に投資するかどうかの判断で、道徳かお金かのどちらかの方向に大きく振れるわけではない。とはいえ、そうした株式から上がる収益は、投資家が個人的に不道徳だと思う事業からもたらされるものであり、そのことに投資家自身が折り合いをつけなければならない。
金融的な面だけに純粋に基づいて投資判断を下すか、それとも倫理的な側面を投資判断に織り込ませるのか——すべては投資家次第なのだ。
[原文:Sin stocks are shares in companies whose business can be considered unethical — and profitable](翻訳・中山桂、編集・長田真)