BYDジャパンの劉学亮代表。
提供:BYDジャパン
「これからの時代は、電気自動車(EV)を買うか買わないかという選択をする時代ではありません。EVをいつ買うのかということです」
中国の電池メーカーBYDの日本法人ビーワイディージャパン(以下、BYDジャパン)の劉学亮代表は、7月21日に開かれた記者会見で、EV時代の訪れをこう宣言した。
日本国内で電気バスなどの販売を手掛けているBYDジャパンが、ついに日本の乗用車市場への参入を発表した。
「今のEVは価格が高く、(日本には充電の)インフラがない。走行距離も短く、車の選択肢も少ない。日本の消費者からのこういった声を真摯に受け止め、BYDは高い安全性と航続性能を持ち、豊富なラインアップかつ手に届きやすい価格で、日本の乗用車市場に参入させていただきます」(劉代表)
BYDジャパンが今回日本向けに発表したEVは、SUVの「ATTO 3(アットスリー)」、コンパクトカーの「DOLPHIN(ドルフィン)」、セダンの「SEAL(シール)」の3車種。
- ATTO 3:販売時期2023年1月、航続距離485km
- DOLPHIN:販売時期2023年中頃、航続距離386km
- SEAL:販売時期2023年下半期1月、航続距離555km
※航続距離はATTO 3とDOLPHINはWLTCモード、SEALはWLTPモードに基づく値
BYDジャパンが国内で販売する3車種。左から、SEAL、ATTO 3、DOLPHIN。
撮影:三ツ村崇志
現状価格は未定だが、2022年11月に先行してATTO 3の価格を発表。その後、受注を開始する予定だ。なお、ATTO 3の販売(納車)は2023年1月以降となる。DOLPHINとSEALについては、それぞれ2023年中頃、下半期に販売される見通しとなっている。
コロナ禍では、車の販売でもDXが加速。バーチャル試乗やバーチャルショールームといった取り組みが増えてきた。
ただ、BYDジャパンは、実際に見て、触れて、試乗するといったリアルでの体験の上で購入検討を重視する方針で、2025年末までに全国100以上のディーラーと提携し、リアルの場での販売を進めていくとしている。現時点で提携先となるディーラーは公開されていないが、ディーラーの店舗には充電設備を敷設するなどして、充電スポット不足という国内の消費者の懸念にも対応するという。
※なお、販売や関連サービスは7月4日付で設立した100%子会社のBYD Auto Japanが担う。
EVバスで積み重ねた実績
BYDジャパンの劉学亮代表(左)と、BYD Auto Japanの東福寺厚樹代表(右)。
撮影:三ツ村崇志
BYDは、1995年に中国の電池メーカーとして創業後、2003年に自動車事業に参入。その後中国で急成長を遂げた。BYDによると現在は70を超える国や地域、400以上の都市でBYD製の新エネルギー車(NEV:EVやPHEV)が走行しているという。
中国市場では9年連続1位の売り上げを誇り、世界的にみても2022年の上半期(1月〜6月)には世界1位となる約64万台の販売を記録した。累積販売台数も200万台を突破するなど、いままさに勢いに乗っているEVメーカーの1社だと言える。
BYDの販売台数の推移。
撮影:三ツ村崇志
日本法人であるBYDジャパンは、2005年に設立されると、2015年に京都市へのEVバスの導入を皮切りに、国内のバスのEV化で先んじてきた。2022年6月までに導入されたEVバスの台数は、全国で65台。全国に導入されているEVバスの7割を占める。
そして今回、ついに日本の乗用車市場への参入となったわけだ。
なぜこのタイミングで日本市場への参入を決めたのか。
劉代表に問うと、「これが、正直特に理由はないんです。自然の成り行きと言っていいぐらいだと思っています」と思わぬ回答が返ってきた。
ただ、背景にはここ数年で世界的に加速した脱炭素の流れが影響していることは間違いない。
「日本政府も2035年までにガソリン自動車の販売を禁止することを決めました。また、政府や各企業がカーボンニュートラルに対していろいろな取り組みをしていることも身近に感じるようになりました。EVの普及は、海外を見ると相当ハイスピードで進んでいます。その中で、EVのコア技術である電池で起業したメーカーとしての責任感ではないですが、そういった自然の成り行きを見ながら今に至った」(劉代表)
Business Insider Japanでは、2021年にBYDジャパンの花田晋作副社長に取材している。その際には「いきなりコンシューマー向けに参入しても成功は難しい。まず公共交通でしっかりと信頼を獲得したい」とその戦略を語っていた。
劉代表に、この7年間でBYDのEVバスの導入が進んできた手応えを聞くと
「バスの業界において、なんといっても約7割のシェアを持たせていただいているということは、『信頼』以外にないと思っています」(劉代表)
と着実に国内にEVバスの導入を進めてきたことに対する自信を語った。
埼玉県久喜市内を走るBYDのEVバス。
撮影:三ツ村崇志
ただ、この7年間の歩みは、新型コロナウイルスのパンデミックなどの影響もあり、必ずしも思い描いていた通りではなかったとも語る。
しかしそれでも、これから先、乗用車の販売が開始されるとともに、その勢いはさらに加速していくのではないかと期待する。
「いまでは、違う風景が見えてきています。バスといえば路面バスがメインでしたが、テーマパークや美術館など、あらゆる企業が電気自動車を取り込もうとしています。あらゆる領域でこれからEVバスは増えていくと思っています。年内は間違いなく100台を超える勢いです」(劉代表)
EVはタイヤが付いたスマートフォンであり、パソコン
記者会見後、BYDジャパンの劉代表はBusiness Insider Japanの単独インタビューに応じた。
撮影:三ツ村崇志
これまで培ってきたEVバスの信頼性をもとに、これからは日本国内でもいよいよ乗用車市場に参入するBYDジャパン。気になるのは、販売後のサポート体制だ。
今回、日本で販売される3車種はすべて中国で生産される。一方で、サポートは国内で完結する。この点について、劉代表は「相当の時間をかけて着実な準備をしてきました」と自信を見せる。
「ただ販売店を設けるだけではなく、保険やメンテナンスなども当然ディーラーと一緒にやっていくわけです」(劉代表)
BYDジャパンでは、国内でEVバスを展開するにあたって、必ず48時間以内にサポートをするという徹底した姿勢で取り組んできた。劉代表は、「乗用車についてはもっと短時間でできるかもしれません」と自信を見せた。
仮に修理が必要になった場合も基本は日本国内で対応する上、場合によっては、消費者が故障した車をメーカーに持ってくるのではなく、BYD側が消費者のもとに駆けつけるようなサポート体制の構築を目指すとしている。
EV後進国と言っても良いほど、先進国の中での日本のEV普及率は低い。その中でどうEVに魅力を感じてもらい、普及させていくのか。
「魅力的だと思う部分は人によって違います。だからこそ、我々はあえて対面で販売する方法を取らせてもらったんです。時間はかかるかもしれませんが、販売店を通じて我々のEVに乗っていただいて、そこで何かを感じてもらう。それが(その人にとっての)魅力につながっていくんだと思います。そのための工夫や努力をしていくのみだと思っています」(劉代表)
また、日本国内の状況についても、次のような見解を示す。
「これからはEVというより、『ライフスタイルそのものをどう提供していくのか』なのだと思います。ガソリン車は乗って、運んで終わりですが、EVは違う。タイヤが付いたスマートフォンであり、パソコンであり、恐らく車を超えたものになっていく。
世界でもEV元年と言われたのは昨年です。BYDが今回日本に参入したことで、新たにEVに合わせたライフスタイルをどうするかを考えてもらうことができれば、日本でも一気に普及が進むようなこともあると思っています」(劉代表)
(文・三ツ村崇志)