自動車メーカーから大手テック企業まで、アメリカでは業種を越えてレイオフと採用凍結が巻き起こっている。
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- この1年間、企業は労働者の「大退職(Great Resignation)」に伴って急ピッチで雇用を続けてきた。
- だが今、レイオフの嵐が巻き起こり、企業はその新たな従業員の一部を解雇している。
- 労働者たちが辞めたことを「大後悔(Great Regret)」しているかもしれないように、企業もまた、雇用したことを後悔しているだろう。
景気後退(Recession)の恐れが表面化し始めたこの春、TikTok、レッドフィン(Redfin)、そしてJPモルガン(JPMorgan)は即座にレイオフと採用凍結を発表した。
その理由は、大きな間違いを犯していたことに気が付いたから。そう、採用する人数が多すぎたのだ。
ウォルマート(Walmart)の決算報告では、CEOのダグ・マクミロン(Doug McMillon)が同社の「人員過剰の日々」が利益を圧迫していると述べた。同社は2021年、新入社員を大量に採用してCOVID-19による人員不足を補っていた。
ウォルマートだけではない。
「そうしなければならない場合以外、解雇することはないと私は述べた。しかし、そうしなければならない時が来た」と不動産仲介業のレッドフィンの グレン・ケルマン(Glenn Kelman)CEOは従業員の8%を解雇すると発表したブログに記した。
「レイオフはいつでも大きなショックだ。レイオフを避けるためにいばらの道を通ることになるだろうと私は述べ、わずか数カ月の不透明感で解雇せずに済むよう、何億ドルもの資金を調達したのだから、なおさらだ。だが、住宅ローン金利は史上最速で上昇した」
今や経済は、インフレ、ウクライナの戦争、消費者と投資家心理の冷え込みのため停滞し、企業は業種を越えてすでに人員削減を行っている。それは毎月何百万人もの労働者が記録的な速さで退職していった1年後に起こった。その間、企業はパンデミックの時に経験したような継続的な成長を期待し、積極的に採用を行っていた。
レイオフの波がアメリカに押し寄せてきた
5月だけで、労働者の2.8%、430万人が退職届を提出した。
企業は待ち構えていた。6月、アメリカは37万2000人を雇用し、ブルームバーグが調査したエコノミストの予想を上回った。それ以前には5月に38万4000人増、4月には36万8000人。すべてが雇用の力強い回復を示している。
一部の労働者にとって、大退職(Great Resignation)は労働条件の改善、賃金の増加、さらには柔軟性の向上を意味する。実際、ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が2022年2月に行った調査では、2021年に退職して新たな仕事を見つけたアメリカ人の56%が以前よりも給料が上がったことが分かっている。
だが、事態はもっと複雑だ。労働者が実際に得ることのできる力には限界がある。労働市場とはそういうものだ。食品、医療、住宅などが保証されていないアメリカでは、労働者はこれらを手に入れるための収入を企業に依存しており、 企業もそれを知っている。
転職を後悔している労働者もいる。最近の景気後退は、企業が見込んでいた成長とは一致していないので、企業と労働者の両方が後悔しているかもしれない。
案の定、レイオフの津波が巻き起こっている。採用や引き抜きに積極的だった企業は突然、潜在的な景気後退に直面することになり、労働者は人件費縮小の矢面に立たされることになった。
テスラ(Tesla)、ゴーパフ(Gopuff)、リマックス(Re/Max)、コインベース(Coinbase)、マイクロソフト(Microsoft)など多くの有名企業はすでに、人員削減を行っている。銀行業界では成長の鈍化と利益の減少で人員削減の噂が絶えない。他の企業、例えばアップル(Apple)やゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)も採用凍結を始めているとフォーチュンは報じている。
大量のレイオフには急騰する労働コストと経済全体の成長鈍化が関係している。
JPモルガンの住宅ローン部門のように、現在低迷している分野に関連するチームが削減されたケースもある。TikTokやコインベースのような企業では、レイオフはビジネスを健全に保つものとして喧伝されてきた。
ハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review)によると、レイオフは1970年代以降のアメリカでは普通のことになってきていて、金融面の不確実性に対応するために行われることが多いという。
今いる従業員を手放したくない企業にとって、景気後退はいいニュースかもしれない。だが、もっと稼ぎたい、あるいは転職したいと考えている従業員にとっては、あまりいいことではないだろう。
「特に、もし減速を余儀なくされているのであれば、雇用主は労働者を見つけるのに必死にならないだろう」と左翼系シンクタンク、エコノミック・ポリシー・インスティテュード(Economic Policy Institute)のシニア・エコノミスト、エリーゼ・グールド(Elise Gould)はInsiderに語った。
「彼らは今いる従業員を手放したくないかもしれない。でも労働者側にあまりチャンスがないとすれば、そう大変なことではないだろう」
(翻訳:Ito Yasuko、編集:Toshihiko Inoue)