欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁。
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- 欧州中央銀行(ECB)は、2011年以来初めて金利を引き上げた。
- エネルギー不足で経済が減速しているにもかかわらず、ECBは、高騰するインフレを抑えようとしている。
- ECBへの圧力に加え、イタリアでは首相が辞任し、再び政治的混乱に陥っている。
欧州中央銀行(ECB)は2022年7月21日、11年ぶりに金利を引き上げた。脆弱化するユーロ圏の経済を頓挫させることなく、インフレを抑えるという厄介な仕事を始めるためだ。
ECB理事会は0.5%引き上げを決め、6月の会合で示唆した0.25%を上回った。この結果、銀行がECBに預ける際の金利(中銀預金金利)は、過去最低の-0.5%から0%になった。
ECBは危うい経済・政治環境と闘っている。ユーロ圏(ユーロを通貨とする19カ国)のインフレ率は6月に過去最高の8.6%になった。ロシアがヨーロッパへの天然ガス輸出を制限し、エネルギー価格が高騰しているため、経済も急速に弱体化している。ゴールドマン・サックスは、ドイツとイタリアがまもなく景気後退に転じると予想している。
ECBへの圧力に加え、イタリアのマリオ・ドラギ(Mario Draghi)首相がECBが利上げを発表する数時間前に辞任し、イタリアは再び政治的混乱に陥った。
イタリア政府は国内総生産(GDP)の約150%に相当する巨額の債務を抱えている。借入コストが制御不能になるのを防ぐことは、ECBにとって重要な課題だ。
ECBは借入コストを考慮して「無秩序な市場の動きに対抗するために」債券を購入できる「伝達保護措置(TPI)」を導入すると発表した。
ECBの利上げは、ユーロ圏で過去10年間続いた金融緩和政策の時代に終止符を打つことを意味する。ECBは、さらなる利上げが予定されていると述べた。
ECBは声明の中で、「理事会は、政策金利正常化の第一歩を、前回の会合で示唆したよりも大きく踏み出すことが適切だと判断した」と述べた。
「今後の理事会では、さらなる金利の正常化が適切に行われるだろう」
キャピタル・エコノミクス(Capital Economics)の欧州チーフエコノミスト、アンドリュー・ケニンガム(Andrew Kenningham)は、次のように述べた。
「我々はこれが、2023年に預金金利を2%程度にするためのECBによる一連の引き上げの第一歩だと考えている」
また、「ユーロ圏の危機を回避するために、最終的にはECBが新たな資産購入プログラムを行わなければならないだろう」とも付け加えた。
この決定を受けてユーロは対ドルで0.8%上昇した。
イタリア国債の利回りは、ドラギ首相が辞任した際に急上昇したが、利上げ決定後はほとんど変化がなかった。国債利回りは通常は物価に反比例して動く。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)