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土用の丑の日に知っておきたい、ウナギ完全養殖への道。絶滅危惧種を救えるか?

※本記事は2021年7月28日に公開した記事を、再編集・再掲したものです。

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丑の日が近づくと、スーパーにはウナギが並ぶ。

撮影:三ツ村崇志

7月23日は土用の丑の日(2022年は8月4日も丑の日)。日本では、江戸時代からウナギを食べる風習が続いてきた。しかし近年、その風習の存続が危ぶまれている。

ニホンウナギをはじめとするウナギ類は、今や絶滅危惧種に指定されるほど資源量の減少が危惧されている。完全養殖して食べる分だけ育てようにも、人工飼育下でウナギを産卵させ、卵から成魚になるまで飼育することは非常に難しい。

ウナギの未来はどうなるのか。ウナギの完全養殖などの研究に取り組む、水産研究・教育機構の風藤行紀氏に話を聞いた。

ウナギはパンダと同じくらい絶滅の危機?

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未だ本質的な養殖が実現していないニホンウナギ。その絶滅の進捗は?

Shutterstock.com/kazoka

ニホンウナギは、2014年に「近い将来、野生での絶滅の危険性が高い」とされる「絶滅危惧1B種」として国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに掲載された。絶滅危惧1B種は、複数ある絶滅危惧種のランクの中でも、ラッコやトキ、ジャイアントパンダなどと同じ2番目に危機度の高いランクだ

なお、日本へ輸入されるウナギのなかでもヨーロッパウナギは絶滅危惧1A種であり、ニホンウナギよりもさらに絶滅危惧のランクが高い。

ウナギは国内で供給されるものにしろ、海外から輸入されるものにしろ、基本的に「養殖」されたものが供給されている。

人の手で育てられた養殖ウナギを食べる分には、絶滅の恐れは少ないようにも感じられる。

しかし、養殖といっても、ウナギは稚魚である「シラスウナギ」を採取して養殖池の中で育てているだけだ

つまり、いくら「養殖ウナギ」とはいえ、シラスウナギを大量に採取してしまえばウナギは絶滅へと向かってしまう。

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シラスウナギの採捕量は以前から減り続けていた。

出典:水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」

日本におけるシラスウナギの採捕量は1980年代から減少傾向にあり、1982年で約30トン程度だったのが、2009年11月〜2012年10月の3シーズンは10トン程度と低迷することになった。これを受けて水産庁では2012年の6月に「うなぎ緊急対策」を実施した。

さらに2014年には、ニホンウナギを採取している主要国である中国、韓国、台湾と協議し、2015年からは養殖池に入れるシラスウナギの上限を削減することを決定。以降、日本のニホンウナギの池入数量は21.7トンとなった。

なお、成長したウナギの供給量は2000年の約16万トンをピークに減少し、2020年は5万トンとなっている(うち国内生産分は約1.5万トン)。これは、2009年にワシントン条約によってヨーロッパウナギの貿易規制が始まったことも影響している。

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ウナギの供給量も最盛期からくらべると大きく減っている。

出典:水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」

なぜウナギは絶滅危惧種に指定されるほど数が減ってしまったのか。その原因は、「乱獲」や生育環境の悪化だと指摘されている。

ウナギの漁獲量が世界で最も多いのは中国。日本はそれに次ぐ第2位だ。ただし、日本の輸入ウナギの大半は中国産だとされている。

ウナギを保全する上で前提となるのは、日本はもちろん、世界で漁獲量を制限したり、産卵に向かうウナギを獲るのを抑制したりする資源管理だ。

それと同時に、ウナギが生息する河川や沿岸の環境を保全・再生する取り組みも欠かせない。日本では水産庁、環境省、国土交通省、各漁業者が連携することでウナギの保護や資源管理、環境整備に取り組んでいる。

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国内のデータを見ると、ウナギの供給量と都府県から報告された採捕量にずれがみられる。このズレの一部は、密輸や密猟によるものではないかと考えられている。水産庁では、正しいデータを集めるところから、ひとつずつ対策を進めている。

出典:水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」

50年がかりでひとまず成功したウナギの完全養殖

いくら環境保全を進めたとしても、そう簡単に資源が回復するわけではない。

ウナギを絶滅させず、なおかつ食卓から消さないためには、ウナギの卵から稚魚を育て、成魚から卵を取って再び育てる「完全養殖」の実現が欠かせない。

すでにシラスウナギからウナギへと養殖するノウハウは確立されているため、「ウナギに卵を産ませ、シラスウナギにまで成長させるためのプロセス」を人工飼育下で実現すれば、理論的には完全養殖が実現できる。

実は、ウナギの完全養殖を目指した研究は1960年代から始められており、2010年にひとまず実現を果たしている。成功までに約50年もかかった最大の理由は、ウナギの生態が謎に包まれていたからである。

ウナギは、ふ化した直後は体長1cm以下の「プレレプトセファルス」と呼ばれる仔魚となり、その後成長して体長1~6cm程度になると「レプトセファルス」と呼び名が変わる。

レプトセファルスは柳の葉のような形をしており、ウナギとは似ても似つかない。しかしこれが成長すると「変態」して細長い形のシラスウナギになり、やがて私たちがよく知るウナギへと姿を変えていく。

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レプトセファルスと呼ばれるウナギの仔魚。

提供:国立研究開発法人水産研究・教育機構

ウナギは日本付近で獲れる魚というイメージが強いが、日本近海にいるのはウナギの一生の中での一時期にすぎない。本来は、もっと広い海域を回遊していることが最近の研究で分かっている。

ニホンウナギの産卵場所が特定されたのは2000年代に入ってからだ。

その場所はなんと、日本から南へ2500km離れたマリアナ諸島付近にある海山だ。2005年にふ化直後のニホンウナギのプレレプトセファルス仔魚が捕獲されると、2009年には卵を抱えたメスのニホンウナギも発見された。

長年謎だった、ウナギの生まれ故郷がついに判明したのだ。

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謎だったニホンウナギの生態が、少しずつ解き明かされている。

出典:水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」

ただし、ニホンウナギが日本とマリアナ諸島を行き来するルートは現在でも完全には明らかになっていない。そのため、レプトセファルスが成長するために道中で食べている物や、性成熟するために必要な条件はいまだ謎に包まれている

現在の養殖方法では、ウナギの成魚に成熟誘導ホルモンをたくさん含むサケの「脳下垂体抽出液」や哺乳類の成熟誘導ホルモンを注射することで、なかば強引に性成熟させて産卵させている。

この技術の確立によって、1960年代に人工飼育下で産卵・採精に成功。1973年には、世界初の人工ふ化にも成功した

しかし、レプトセファルスをシラスウナギまで成長させることが難しかった。ここで問題となっていたのは、レプトセファルスの「エサ」だ。

タイやブリなどの一般的な養殖魚に使うエサがウナギにはまったく使えなかったのだ。

そこで、水産研究・教育機構は試行錯誤の末にアブラツノザメの卵を中心にしたペースト状のエサを開発。これによって、レプトセファルスからシラスウナギに変態するまで成長させることに成功している。ただし、それが実現できたのは2002年のことである

その後、水産研究・教育機構では、2010年にウナギを人工ふ化させて成魚にまで育て上げ、さらに次の世代を生み出すことにも世界で初めて成功した。研究開始から約50年もの年月を経て、ようやくウナギの完全養殖が可能であることを示したわけだ。

まだまだ遠い、ウナギ完全養殖「実用化」への道

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日本橋いづもやのうな重。東京にはウナギ料理の老舗が多い。

撮影:吉川慧

ウナギを人工的にふ化させ、繁殖させることができたとはいえ「これで絶滅を気にせずうな重が食べられる!」と喜ぶにはまだ早い。これはあくまで研究室ベースでの成功であり、養殖事業として実用化されているわけではない。

現状、水産研究・教育機構内の施設では年間数千尾程度のシラスウナギを生産できるという。国内でのウナギの消費量が数万トン単位であることを考えると、まだまだ数は足りない。

大量生産が難しい最大の理由は、今の完全養殖の方法が効率的ではないことにある。

「従来の方法では得られる卵の質が悪く、仔魚が得られない場合も多くありました。(現在は)水産研究・教育機構で開発したウナギ自身のホルモンを用いることで、比較的に安定して仔魚が得られるようになりました。

それでも、常に質の高い卵が得られるわけでは無く、方法の改良を進めています」(風藤行紀氏)

さらに、現状の養殖方法では、レプトセファルスでいる期間が非常に長い

レプトセファルスは野生の環境下では約100~150日程度でシラスウナギに変態することが分かっているが、現状の飼育環境下では150~400日もかかってしまう。

「飼育環境下でレプトセファルスの期間が長くなるのは、まだエサが良くないため成長が遅いことが影響しているかもしれません」(風藤氏)

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レプトセファルスから成長した状態のシラスウナギ。人工飼育下でこの状態に至るまでには、まだまだ障壁がある。

Shutterstock.com/jack perks

また、エサとして利用していたアブラツノザメの卵を含むペーストは水槽の底に注ぎ入れる形で与えられている。

そのため、ウナギの飼育可能数は水槽の底面積の広さで決まる。つまり、水槽の大きさの割に、飼育できるウナギの数が少ないのだ。

エサを与える回数も、1日4~5回とほかの養殖魚(一般的に1回/1日)と比較して多く、その都度水槽を掃除する必要もあるため、コストも手間暇もかかってしまう。

「レプトセファルスのエサの改良は常に行われていて、アブラツノザメの卵のではない、簡単に手に入る材料だけで作れるようになりました。今でももっと入手しやすいものや人工的に作れるもの、管理しやすいものがないかを検討しています」(風藤氏)

このように、ウナギの完全養殖の実用化まではまだまだ険しい道のりが続きそうだ。

ちなみに、ウナギの完全養殖の実現は、野生のウナギの絶滅を阻止すること以外にもメリットがあるという。

「完全養殖のウナギでは人工授精を行いますから、品種改良も可能になります。つまり、病気になりにくいウナギ、成長が早いウナギ、よりおいしいウナギを品種改良で作り出せる可能性があるのです。現在、効率のよい養殖方法の模索とともに、品種改良の研究も始めています」(風藤氏)

(文・今井明子、編集・三ツ村崇志

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