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自動車産業が5260億ドル(約71兆円、1ドル=136円換算)規模の電気自動車(EV)シフトを進める中、その成功を脅かす要因は数多く存在する。
広範なサプライチェーンの制約、市場の不確実性、生産遅延による疲弊、消費者への普及の遅れといったものが、EVの成功を阻む大きな脅威となっている。自動車業界は移行に膨大な時間と人材と資源を投入しているため、新たな障害の出現はビジネスの命運を左右することになりかねない。
このような脅威は存在するものの、スタートアップには革新的な技術やソリューションを生み出す可能性がある。次世代エネルギーの情報を発信しているブルームバーグNEF(BloombergNEF)によると、EV市場は2050年までに53兆ドル(約7200兆円)に達する可能性があり、勝者には大きな報酬がもたらされると言われている。
そこでInsiderは、自動車関連技術やEVスタートアップ企業に投資する8人のトップベンチャーキャピタリスト(VC)に、業界が直面する脅威や、どんな特徴を備えたスタートアップなら収益化できそうかを尋ねた。
サプライチェーンの制約
プレイグラウンド・グローバルのローリー・ヨーラー。
Playground Global
プレイグラウンド・キャピタル(Playground Capital)のゼネラルパートナーであるローリー・ヨーラーは、サプライチェーンをめぐる制約が業界にとって最重要課題だと語る。
「大きな課題は引き続き、輸送コストとサプライチェーンの混乱です」とヨーラーは言う。「サプライチェーンの混乱は、特に自動車業界を苦しめ続けている。地政学的な問題もあり、そう簡単に改善しません」
さらに労働力不足にも見舞われており、業界は手いっぱいだ。しかし、サプライチェーンの目詰まりを回避して機敏に動けるスタートアップ企業であれば、優位に立つことができるだろう。
バッテリー
BMW iベンチャーズのサマンサ・フアン代表。
BMW i Ventures
BMW iベンチャーズの代表を務めるサマンサ・フアンは、サプライチェーン全体が課題であり、特にバッテリーの問題は大きいと語る。
「サプライチェーンの課題の中にも多くのチャンスがあります。最大のチャンスは、バッテリーとバッテリーに使用される希少鉱物、そして自動車の電動化を可能にするあらゆるものにあります」とフアンは言う。
原材料や化学物質から製造に至るまで、バッテリー供給への脅威に対応しようとしているスタートアップ企業は有利な立場になれると言う。
充電インフラ
ザ・エンジン(The Engine)のゼネラルパートナーであるマイロ・ワーナー(Milo Werner )は、充電可能かどうかがEVの普及を左右する、つまり業界の成功を脅かすことになりかねないと指摘する。
ザ・エンジンのゼネラルパートナーであるマイロ・ワーナー。
The Engine
「今、業界が取り組んでいる大きな課題といえば、家庭での充電と、電力業界が全世帯のアンペア容量を引き上げる能力でしょうね」とワーナーは言う。
「電力業界がこうした新技術の導入に関して大きく立ち遅れているのは間違いありません。そのせいで家庭に充電プラグを設置できず、それがEVの普及を遅らせているのだと思います」
EVへの移行にとって充電環境が整うことがいかに重要であるかを考えると、充電の分野、特に家庭での充電に取り組む起業家は、投資家にとって魅力的であり、彼らは大きな報酬を手にする可能性が高い。
不確実性
不確実性は業界にとって脅威となり得ると話すのは、コンストラクト・キャピタル(Construct Capital)の共同創業者でありゼネラルパートナーのレイチェル・ホルト(Rachel Holt)だ。
コンストラクト・キャピタルのレイチェル・ホルト共同創業者。
Construct Capital
「職場への復帰は今後どうなるのでしょうか?ここ数年で起こった都市部からの移転は定着するのでしょうか?」とホルトは言う。
VCは、自動車技術分野についてだけではなくマクロ環境についての見解も持ち合わせている必要があり、それはスタートアップ企業も同様だ。
「モビリティという視点だけでは、この分野で起きていることを追いきれないかもしれません」とホルトは言う。
モビリティ以外の要素、例えば消費者の行動などを理解しているスタートアップ企業のほうが、より大きな成功を収められるかもしれない。
生産と展開の遅れ
エナジャイズ・ベンチャーズのパートナー、ケイティ・マクレイン。
Energize Ventures
シカゴにあるエナジャイズ・ベンチャーズ(Energize Ventures)のパートナー、ケイティ・マクレイン(Katie McClain)は、さまざまな要因で生じる遅延が脅威になっていると指摘する。
「サプライチェーンの問題は、大きな影響を与えます。バッテリーや自動車に使われる材料が大幅に不足することが予想されます。この新たな需要にどう対応するのでしょうか」とマクレインは問う。「これらの問題はいずれ解決されると思いますが、解決には思いのほか長い時間を要する可能性があります」
このような遅延の影響を回避・緩和することに貢献できるスタートアップ企業は、大きな信頼を得られる可能性が高い。
使命感にあふれた人材を集める
アーバン・イノベーション・ファンドのメンバーと共同創業者であるクララ・ブレナー(左)。
Urban Innovation Fund
ベイエリアにあるアーバン・イノベーション・ファンド(Urban Innovation Fund)の共同創業者兼マネージングパートナーであるクララ・ブレナー(Clara Brenner)は、サステナビリティ関連のイノベーションと、世界をより良くする視点を真剣に取り入れない企業は、EV分野で優秀な人材を獲得するのに苦労することになると話す。
逆に、これらの使命に純粋に取り組んでいることを示せる企業や起業家は、将来の成功を勝ち取ることができるのではないかという。
「一般的に、起業家の領域では、世界を良くすることを使命とする企業が人材を引きつけてきています。例えばパンデミックの最初の3カ月のような本当に困難な時期にも、そうした企業は人材のつなぎとめに成功したことが分かっています」とブレナーは言う。「それが多くの資金を集めることにもつながったのです」
タイミング
エナジー・インパクト・パートナーズのパートナーのキャシー・ボウ。
Energy Impact Partners
エナジー・インパクト・パートナーズ(Energy Impact Partners)のパートナーであるキャシー・ボウ(Cassie Bowe)は、タイミング、特に製品の発売時期やマイルストーン達成の時期が、今の業界にとって有利にも不利にも働く最大の要因であると言う。
「最近誕生した企業、あるいは今日以降に生まれる企業のうちどこが成功するかは、この点で決まるんです」とボウは言う。「タイミングに影響を与えるものすべてが、この業界の妨げにもなれば加速要因にもなります」
さまざまなタイミングに適応できる柔軟性を持つスタートアップほど、投資家にとってより魅力的に映る。
スピード
GMベンチャーズのシニア・アソシエイトであるカイ・ダニエルズ。
GM Ventures
GMの社内VC、GMベンチャーズ(GM Ventures)のシニア・アソシエイトであるカイ・ダニエルズ(Kai Daniels)は、スピードが大きな課題だと話す。
「多くの組織が抱えている課題は、『いかに迅速に動くか』ということです」とダニエルズは言う。
ダニエルズは、品質と安全性を高く保ちながら速いペースを維持し、困難な状況下でもユニークなソリューションを提供できるスタートアップは価値が高いと言う。
「イノベーションのペースと顧客のニーズにいかに遅れずについていくかという点では、これこそが重要なポイントになります」
(編集・大門小百合)