ウォルマートはラストマイル配送業務でドローン・スタートアップ3社と提携している。
Walmart
ウォルマート(Walmart)は配送計画を一段と拡充するため、ドローン技術に投資することで空の輸送手段の強化を図っている。
アーカンソー州ベントンビルに本社を置く巨大小売業者であるウォルマートは、2年足らずの間に3社のドローン・スタートアップと提携し、ラストマイル配送業務に注力してきた。
同社は、アリゾナ州からノースカロライナ州まで、全米にわたって試験プログラムを実施しており、より効率的かつ迅速な商品配送を目指している。
ウォルマートUSの社長兼CEO、ジョン・ファーナー(John Furner)は、2021年6月のブログ投稿で、「お客様が望む商品を迅速に届けるためには、道路、歩道、空をまたぐ、さまざまな配送手段を巧みに連携させるネットワークが必要」であり、「大規模なドローン配送の実現まであと一歩です」と書いている。
ドローン技術に投資する小売業者はウォルマートだけではない。ライバルのアマゾンは2022年6月のブログ投稿で、約10年前からドローンの自社開発に取り組んでおり、カリフォルニア州ロックフォードおよびテキサス州カレッジステーションで、近く配送サービス「プライム・エア(Prime Air)」を開始すると述べている。
一方、ウォルマートの広報担当者によると、同社はノースカロライナ州からアーカンソー州にかけて6カ所のドローン配送拠点を持っており、年内に拠点を30カ所以上に増やし、新たに5つの州でサービスの提供を開始する計画だという。
以降では、ウォルマートと提携関係にあるドローン・スタートアップ3社の特徴やそれぞれの強みについて詳しく説明する。
ドローンアップ(DroneUp)
ドローンアップはウォルマートの米国内におけるドローン配送パートナーとしては最大で、2022年末までに34カ所のドローン配送拠点を設置予定だ。
DroneUp
設立:2016年
資金調達額:730万ドル(約9億9300万円、1ドル=136円換算)
本社所在地:バージニア州バージニアビーチ
ドローンアップはウォルマートのドローン配送パートナーの中では後発。ウォルマートは2020年9月、家庭用の新型コロナ自己採取検査キットの非接触配送の試験運用をドローンアップと共同で実施することを発表した。
その後、ウォルマートはドローンアップとのパートナーシップを強化している。2022年5月には、アリゾナ州、アーカンソー州、フロリダ州、テキサス州、ユタ州、バージニア州の6州で、2022年末までにドローンアップの拠点を34カ所に拡大すると発表した。これで潜在的にはアメリカ国内400万世帯への配送が可能になる。
この結果、ドローンアップはウォルマートにとって最大のドローン配送パートナーとなり、ウォルマートからは出資(金額は非公開)も受けている。
ドローンアップのCEOで元アメリカ海軍将校のトム・ウォーカー(Tom Walker)が同社を設立したのは2016年。同社では、人や走行中車の上空の飛行を最小限に抑えるハイテクセンサーを搭載した自律型ドローンを活用している。ウォーカーによると、同社は連邦航空局と密に連携し、ドローンの設計、開発、製造をアメリカ国内で行っているという。
「我々は今後1年~1年半で急成長するための準備をしています。これが競馬なら、我々は好ましいポジションにあると言えるでしょうが、このポジションを維持するのは相当な努力が必要です」と、Insiderの取材に応じたウォーカーは語る。
ドローンアップの拠点の周辺に住むウォルマートの顧客は、週7日午前8時から午後8時まで、最大10ポンド(約4.5キログラム)の商品を送料3.99ドル(約540円)で注文することができる。ウォーカーによると、平均配達時間はおよそ22分だという。
フライトレックス(Flytrex)
ウォルマートは2020年にフライトレックスと提携した。
Walmart
設立:2012年
資金調達額:6030万ドル(約82億円)
本社所在地: イスラエル・テルアビブ
フライトレックスは、ウォルマートと提携するドローン・スタートアップの中で唯一アメリカ国外に本社がある。ウォルマートは2020年9月、フライトレックスと共同で、ノースカロライナ州フェイエットビルで一部の食料品や日用品を試験配送を行うと発表した。
フライトレックス共同創業者兼CEOのヤリブ・バッシュ(Yariv Bash)は、技術革新に精通した人物だ。2019年には非営利団体スペースIL(SpaceIL)の共同創業者兼チームリーダーとして、イスラエル初の月面探査ミッションで中心的な役割を果たした。
同社は2017年にアイスランドのレイキャビクで最初のサービスを開始し、現在はアメリカのノースカロライナ州からテキサス州にかけての4都市で事業を展開している。
バッシュは、フライトレックスはドローンを活用しているものの「ドローン企業ではない」と語る。むしろドアダッシュ(DoorDash)のようなデリバリーサービスに近いと言うのだ。「当社のアプリからタコスやハンバーガー、赤ちゃんのおむつなどを注文できます。またドローンを活用したオンデマンド配送に関しては、迅速かつ桁外れにリーズナブルな価格で提供しています」
フライトレックスは、主にレストランチェーンと食料品の配送に注力しているとバッシュは言う。提携先は十数社にのぼり、スターバックス(Starbucks)、ユニリーバのアイスクリームショップ(The Ice Cream Shop)、チリの親会社であるブリンカー・インターナショナル(Brinker International)などとの提携を公表している。
バッシュはウォルマートを「革新的」と評価しており、「彼らは(ドローン配送事業の)競争を勝ち抜こうとしています」と述べている。
ジップライン(Zipline)
ウォルマートは2020年9月にジップラインとの提携を発表した。
Walmart
設立:2011年
資金調達額:4億9100万ドル(約670億円)
本社所在地 :カリフォルニア州サンフランシスコ
ウォルマートは2020年9月、サンフランシスコに本社を置くジップラインと「アメリカでかつてない種類のドローン配送事業を開始する」と発表した。
このパートナーシップは2021年後半にアーカンソー州ピーリッジ(ウォルマート本社付近)で試験的に始まった。オンデマンド配送の対象となるのは、ウォルマートの一部の健康・ウェルネス商品だ。
「ジップラインはウォルマートの店舗を拠点に業務を行い、コネチカット州の面積に相当する半径50マイル(約80キロメートル)圏内でサービスを提供します」と、当時ウォルマートの顧客商品担当上級副社長を務めていたトム・ウォード(Tom Ward)は話す。
「ウォルマートのローンチ・アンド・リリースシステムにより、所要時間1時間以内の迅速なオンデマンド配送が可能になっただけでなく、二酸化炭素の排出を削減するため当社のサステナビリティ目標とも完全に合致しています」(ウォード)
2011年に設立された同社は、2016年にルワンダでドローン配送サービスを開始し、同国内の病院向けに血液をはじめ重要物資を配送している。ガーナと日本の企業とも提携中だ。
アメリカ初の業務では、パンデミックの初期にノースカロライナ州で個人防護具や医療機器の配送を支援した。
(編集・大門小百合)