南極半島の北端付近で、氷山から極寒の海へ飛び出すアデリーペンギンの群れ。
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- 地球規模の気候変動がペンギンの進化を促す重要な要因になっていることを新たな研究が示唆している。
- 研究者たちはペンギンの進化を追跡し、彼らが生き延びるのに何が役立ったのかを特定した。
- 現代のペンギンは、陸上と水中の両方で繁栄できるように遺伝子レベルで適応してきた。
海に潜って泳ぐことが大好きな現代のペンギンは、約6000万年前に空を飛ぶ祖先から進化した。最新の遺伝子解析により、ペンギンがどのようにして水中に適応するようになったのかが明らかになり、その進化の歴史について、これまでで最も包括的な概観が得られた。
国際的な研究者から成るチームは、27の分類群にわたるすべての現生種および最近絶滅した化石種のペンギンのゲノム(遺伝情報の総体)を解析した。その研究論文が2022年7月19日付けで学術誌「Nature Communications」に掲載された。研究チームはこれらの遺伝子データや化石のデータを用いて、ペンギンのゲノムをペリカンやアホウドリなど他の鳥類のゲノムと比較した。
その結果、ペンギンは古代の気候変動に対応して進化し、地球上で最も過酷な条件下でも生き延びることができる特殊な体になったことが明らかになった。
「この論文は、どの遺伝子がこれらのさまざまな適応を支えているのかについて、これまでの我々の理解を一変させるものだ」と英国南極観測所の海鳥生態学者でこの論文の共著者であるリチャード・フィリップス(Richard Phillips)はプレスリリースで述べている。
気候変動がペンギンの進化を促した
古代のペンギンは、約6000万年前に「ジーランディア」と呼ばれる大陸(現在では大部分がオーストラリア大陸の東側に沈んでいる)で誕生した。そこから南米や南極大陸に移動し、3000万年前から4000万年前になると、南極周極流という強い海流に乗って生息域をさらに拡大させたと考えられている。
極域の氷床が形成される前にペンギンは飛ぶ能力を失った。泳ぎの名人になりつつあった鳥にとって、地面から離れるのはあまりにも大変なことだったからだ。
「ペンギンというと、流氷の中にいてヒョウアザラシに追いかけられているような姿を思い浮かべるかもしれないが、彼らは水生生物として進化したのだ」とフィリップスは言う。
フォークランド諸島の雪上で群れるペンギン。2022年6月20日撮影。
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研究者らは、地球規模の気候変動がペンギンの進化を促す重要な役割を果たし、種の多様化に寄与してきたことを明らかにした。例えば、中新世中期から後期(約530万年前から1600万年前)にかけて地球が著しく冷え込んだ時期には、南極大陸の氷河が拡大しており、これはおよそ1400万年前に一部の現生種のペンギンが出現した時期と一致する。
研究者によると、体のサイズの変化、水中での視覚の獲得、体温調節、潜水能力など、一連の遺伝子レベルの適応によって、ペンギンは陸上と水中の両方で繁栄できるようになったという。
例えば、ある遺伝子は前腕骨を短くし、別の遺伝子は羽毛を減らしてフリッパー(翼)を発達させた。また、白色脂肪を蓄えることを促す遺伝子もあった。この脂肪によってペンギンは体温を保持し、エネルギー源を得て、寒さの厳しい環境でも暖かく過ごせるようになった。
温暖化する地球とペンギン
猛暑の中、ロンドン動物園で冷凍魚のおやつを食べて体を冷やすフンボルトペンギン。2022年7月18日撮影。
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古代のペンギンが当時の極端な気候変動と向き合った方法を知ることで、現代のペンギンが温暖化する世界にどのように適応しようとしているのかが分かるかもしれない。だが研究によると、それはうまくいっていないようだ。気候変動による温暖化が一因となり、現代のペンギン種の半数が国際自然保護連合(IUCN)レッドリストで絶滅危惧種(endangered)または危急種(vulnerable)に分類されている。
今回の研究で分かったことのひとつは、時代が下るに連れてペンギンが進化する速度が遅くなっているということだ。飛べない鳥であるペンギンは、現代の気候変動に対応できないかもしれないと研究者たちは述べている。というのも古代のペンギンが生き延びた気候変動よりも、現代はずっと速いペースで温暖化が進んでいるからだ。
「6000万年以上にわたってこの鳥は非常に特殊な海洋捕食者として高度に進化し、現在では地球上で最も過酷な環境に適応している」と論文の著者らは記している。
「しかし、その進化の歴史が示すように、彼らは今日の急速に温暖化する世界で、寒冷地に適応した動物の脆弱性を知らせてくれる役割を果たしている」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)