ロボティクス・オートメーション・人工知能(AI)分野に注目が集まる。
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株式市場において最も面白く、なおかつボラティリティ(価格変動性)が高いのがハイテク銘柄であることは間違いない。景気後退入りの可能性が現実味を増してきたいまも、その点に変わりはない。
とりわけ個人投資家が惹きつけられる理由は、ハイテク銘柄は、資本財や金融など他セクターの銘柄とはまったく異なる形で興味をかき立ててくれるからだ。
比較的早い段階で出資したテクノロジー企業がのちに大きな成長を遂げる展開は多くの投資家にとってまさに究極の理想であり、人生が変わるほどと富をもたらす可能性もある。
ただ、ハイテクセクターと言ってもその範囲は非常に広い領域におよぶ。
ロボティクスはそれらの中で最もイノベーションが起きている分野の一つだ。
ロボティクス・人工知能(AI)専門の投資会社で、ロボティクス・オートメーションをテーマにした上場投資信託(ETF)を世界で初めて開発したロボ・グローバル(ROBO Global)のジーノ・マーサーは、メタ・プラットフォームズやテスラのような巨大企業より、あまり知られていない中小規模の企業のほうが良い投資機会を見つけやすいと語る。
「S&P500種株価指数の構成銘柄はハイテク大型株の比重が大きく、他の数百の中小型株が占める割合は限定的です。
(大型株の動向を示す指数なので)目的や用途には確かに合致しているのですが、いま世界中でさまざまのステージのAI導入・普及の波が広がるなか、その分野の企業に十分なアップサイドを提供できていません」
マーサーは、足もとで進む経済環境の大きな変化により、今後はロボティクス・AI企業が投資リターンを生み出す原動力になっていくと見ている。
「株式市場は(コロナ禍の)景気刺激策が生み出した史上最高値からおよそ20%下落し、金融当局の利上げにより金利(つまり資本コスト)上昇が続くなか、時価総額30兆ドル(約4050兆円)を誇る全米の企業が人手不足で高騰する人件費を回避しようと、AI・オートメーションに移行することになるでしょう。同分野への投資は今後3年間で倍増が予想されます」
「したがって、産業全体が大きな変革を経験するこれから数年間については、AIインフラ構築やフィンテック、デザイン、Eコマースなどの分野への戦術的応用を手がける企業を、大から小まで規模を問わずポートフォリオに組み込む手法が、大型株に手広く投資する手法より有効になるのです」
また、マーサーによれば、ロボティクス・AI分野は「根本的な信頼性なしではまったく機能しない」ため、運用時に外部から機能するボルトオン型、機能が設計段階で組み込まれるビルトイン型を問わず、サイバーセキュリティが大きな役割を果たすという。
さらに、欧米における製造業のリショアリング(生産拠点を海外から国内に戻す動き)も、ロボティクスやAI銘柄へのエクスポージャーを通じて投資家が取り込めるトレンドと言える。
「(リショアリングは)国内の雇用を増やす素晴らしいトレンドです。それもオートメーションの浸透と製造業向けロボットあるいはコボット(協働ロボット)の性能向上があってこそ可能になった動きです」
「コボットはまだ導入拡大の比較的初期段階ですが、市場からは力強い需要があり、今後10年間で驚異的な成長を遂げるでしょう。
サプライチェーンのリスクや原材料の特定地域への依存問題が解消されたわけではありませんが、半導体はじめ数あるコアプロダクト(中核部品)の安定生産と生産拠点の分散化が進んでいくことは、おおむね世界全体にとってプラスです」(マーサー)
マーサーはこのロボティクス・AI分野で推奨したい投資先として、米マサチューセッツ州に本拠を置く協働ロボット開発会社(半導体自動検査装置の世界大手でもある)「テラダイン(Teradyne)」と、ファクトリーオートメーションおよびロボット事業を展開する日本の「ファナック(FANUC)」を挙げる。
メタバースも、マーサーが注目する分野だ。
メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)に看板を掛け変えたフェイスブック以外にも、企業規模は同社ほどではないものの、より良い投資先になり得る企業がある。
「コネクティビティ、セキュリティ、さらにはチップアーキテクチャのエネルギー効率がいずれも向上し、多機能リアルタイムAR(拡張現実)/VR(仮想現実)が10年以内に実現する可能性が高まったいま、フェイスブックがメタバースを事業の柱に据えたのは理にかなった判断です。
同社が踏み込んだことにより、メタバースをめぐるソフトウェアの開発が推進され、エコシステムのさまざまな部分が改善されていく好循環が生まれるでしょう」
「そして、メタバースへの移行と流れ込んでくる投資資金の恩恵を受けるのが、データセンター向けクラウド・ネットワーキングの『アリスタネットワークス(Arista Networks)』や、データセンター向けストレージ・ソリューションの『ピュア・ストレージ(Pure Storage)』などの企業です」
また、電気自動車大手テスラ(Tesla)は2022年上半期にバリュエーションが低下したことで、長期投資の対象としての魅力が再び高まった。
「おそらく何年も先のことになるとは思いますが、コンシューマー向けロボットのような(電気自動車や充電ステーションとは別の)新たなビジネスチャンスも出てくるでしょう」
マーサーはこう指摘する。
「安全性と信頼性の高いベストプラクティス(最優秀)の製品やサービスを提供するには膨大なデータとオートメーションが必要で、それゆえに人間の労働力で補ったり、置き換えたりできない領域を自動化できる技術があるなら、資金を拠出したい、資金を捻出できるという組織や企業はいくらでもあるのです」
マーサーはオートメーション分野での推奨銘柄として、米カリフォルニア州に本拠を置くIoT活用業務管理プラットフォームの「サムサラ(Samsara)」を挙げる。物流およびサプライチェーンマネジメントのさまざまな側面を自動化する技術を開発する企業だ。
「時価総額は70億ドル(約9500億円)。景気後退時でも強気相場でも、世界中の政府、物流、建設、製造業のコスト削減と業務改善を担い、これから売上高を10倍増するのはわけもないことです」
(翻訳・編集:川村力)