GAFAM各社の従業員のうち、どれだけの数が中絶を違法とする保守的な州に住んでいるのだろうか?(図中、青く塗られている州は人工中絶を禁止するトリガー法が発動された13の保守州)
Insider
アメリカ連邦最高裁は6月、1973年に人工中絶を合法としたロー対ウェイド判決を覆した。これにより、中絶の合法性は各州の裁量に委ねられることになった。保守的な13の州※では、判決が覆された時点でトリガー法が発動され、中絶を禁止する法律が自動的に施行された。
これを受けて、アマゾン、アップル、メタ、グーグル、マイクロソフトなどのビッグテックをはじめ大手企業の多くは、中絶に際して従業員が居住する州で医療が受けられない場合、何らかの形で旅費の手当てを支給することを相次いで発表した。
企業が毎年政府に提出するForm 10-K(日本の有価証券報告書に相当)によると、ビッグテックは合計すると200万人以上の従業員を抱えている。
Insiderが企業の開示書類とLinkedInのデータを分析したところ、ビッグテックの従業員の約10%がトリガー法のある州に住んでおり、中でも10万人以上の従業員がテキサス州に住んでいることが分かった。
なお、テキサス州は最も厳しい禁止法を設けており、母体が危険に晒されている場合にのみ中絶を認め、レイプなど同意のない性行為や近親相姦による妊娠の中絶は認めていない。
以下では、ビッグテックの従業員が、トリガー法のある州にどれだけ住んでいるかを図示し、各社が表明した支援内容や従業員の反応などについても紹介する。
アマゾン
Map: Andy Kiersz/Insider Source: Amazon
アマゾンは5月上旬、命の危険がない医療行為を受けるために長距離を移動しなければならない社員に対し、最大4000ドル(約54万円、1ドル=135円換算)の手当を支給すると発表した。
匿名を条件にInsiderの取材に応じたテキサス州在住のアマゾン社員によると、この方針は居住地から100マイル(約160キロメートル)圏内で医療が受けられない人にのみ適用されるという。なお、アマゾンは胚凍結や体外受精など、複数の不妊治療に対しても手当を支給してきた。
「本当に恐ろしい法律が現実のものになってしまいました。私はテキサスに住んでいるので、身体の自己決定権を尊重し、支援してくれる会社にいられることをありがたく思っています」と同社員は語った。
アマゾンでは、数百人にのぼる社員が中絶反対派の政治家やキャンペーンへの寄付をやめるよう、会社に求める嘆願書に署名している。
ただし、アマゾンは6月24日にロー対ウェイド判決が覆されてから6日後に、中絶関連の広告がサイトに出ないように広告コンテンツモデレーターに指示していたことも明らかになっている。
アップル
Map: Andy Kiersz/Insider Source: Apple
アップルの従業員のうち、トリガー法のある州に住んでいるのは全体の7%強だ。
2021年時点でテキサス州はより厳格な中絶禁止法を導入しており、ティム・クックCEOと従業員たちとの全社会議の中ではこれを問題視する声が上がっていた。
クックは、他の州での治療を可能とする従業員向け保険制度の存在に触れた上で、アップルが同法に異議を申し立てることができるかを検討していると付け加えた。
メタ
Map: Andy Kiersz/Insider Source: LinkedIn
フェイスブックの親会社メタでは、従業員の6%以上がトリガー法のある州から勤務しているとみられる。
同社はロー対ウェイド判決が破棄されたことを受けて、「法律で認められる範囲で、州外の医療や生殖医療サービスを受ける場合」に旅費分を還付すると発表した。
しかし、巨大SNS企業であるメタは、今回の最高裁の判決について社内で議論する従業員を弾圧しているとして、ニューヨーク・タイムズなどから厳しい批判を受けている。
カリフォルニア州に住むメタのある従業員は匿名を条件にInsiderの取材に応じ、「支援を必要とする社員をサポートするのはもちろん良いことですよ。でも、その情報を社内で共有したくない人にとっては懸念が生じかねません」と語り、職場におけるプライバシーが守られない可能性に言及した。
グーグル
Map: Andy Kiersz/Insider Source: Google and LinkedIn
グーグルは、トリガー法のある州における従業員の割合が最も低い。しかし、拡大を続ける同社のデータセンターの1つがオクラホマ州メイズ郡にあるため、同州に抱える従業員数はビッグテックの中で最多だ。
テックメディアのザ・ヴァージ(The Verge)が入手した従業員宛の全社メールでは、グーグルのフィオナ・チッコーニ(Fiona Cicconi)最高人事責任者は、「当社の米国福利厚生プランと健康保険は、社員の居住地および勤務地では利用できない州外の医療処置に対応しています」と記している。
また、「グーグル社員は、正当な理由なく異動を申請することもできる」とし、トリガー法のある州に住む社員が、中絶を合法とする州へ理由を尋ねられることなく異動することを認めている。
マイクロソフト
Map: Andy Kiersz/Insider Source: LinkedIn
マイクロソフトは従業員の5%以上がトリガー法のある州に住んでいる。同社は数十年前にノースダコタ州にある会計ソフトウェア会社を買収したことから、同州ではビッグテック最大規模の社員を抱えている。
マイクロソフトは、5月にロー対ウェイド判決を覆す意見草案が流出した後でInsiderの取材に応じ、従業員とその扶養家族が「中絶やジェンダー・アファーミング・ケア(編注:トランスジェンダーの性自認を医師が尊重する医療)などのサービスを、全米のどこに住んでいても」受けられるよう、会社が支援すると発表した。
※保守的な13の州:アーカンソー州、アイダホ州、ケンタッキー州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、ミズーリ州、ノースダコタ州、オクラホマ州、サウスダコタ州、テネシー州、テキサス州、ユタ州、ワイオミング州
[原文:MAPS: Around 1 in 10 Big Tech employees live in a Roe v. Wade trigger state, Insider analysis finds]
(編集・野田翔)