ナタリー・ポートマン(Natalie Portman)とクリス・ヘムズワース(Chris Hemsworth)が出演する『ソー:ラブ&サンダー』。
Marvel
- 最近のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の映画は、CinemaScore(シネマスコア)や批評家の評価が低迷している。
- しかし、ほとんどの作品は興行的には成功しているといえるだろう。
- テレビシリーズも含めMCUが拡大することで、消費者は視聴する作品を厳選する可能性がある。
10年にわたる空前の成功の後、マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe:MCU)は失速しているようにみえる。
しかし、14年間で29本の映画を製作し、全世界で250億ドル(約3兆4237億円)以上の興行収入を記録している史上最大の映画シリーズが打ち負かされたというには程遠い。実際、2022年7月23日にディズニー(Disney)傘下のマーベル・スタジオ(Marvel Studios)がマンガを中心としたポップカルチャーのイベント「サンディエゴ・コミコン2022(San Diego Comic-Con2022)」で行ったプレゼンテーションでは、将来について楽観的な見通しが示された。
しかし、マーベルの鎧に現れてきた亀裂を無視することは難しい。 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を除けば、ここ数作品は観客の反応が鈍いものになっているのだ。
- 2021年11月に公開された『エターナルズ』は、観客が評価する「CinemaScore(シネマスコア)」で公開初日にB評価がつけれらた。これはマーベル史上、最低の評価だ。
- 『エターナルズ』は世界で4億200万ドル(約550億5300万円)の興行収入を上げたが、これは今日のほとんどの大きな予算が投じられた映画、特にMCU映画としては期待はずれの数字だ(もちろん2021年11月には映画館の入場者数自体が低迷していたのだが)。
- 2022年に公開された『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』と『ソー:ラブ&サンダー』は、いずれもBプラスの評価を受け、下から2番目に悪い成績となってしまった。他のMCU映画はすべてAマイナス以上の評価を得ている。
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』と『ソー:ラブ&サンダー』の興行成績は上々だ。前者は9億ドル(約1177億円)以上、後者は中国を除く2週間の世界興収が6億ドル(約822億円)で、前作 『マイティ・ソー バトルロイヤル』 と同様にヒットした。
つまり、CinemaScoreの評価がすべてというわけではなく、収益を上げ続けている限り、このシリーズがなくなることはないのだ。
しかし、評価の低下は2008年のMCUの開始以来、マーベルが直面したことのない観客のいらだちを示している。今後3年間で少なくとも12本の映画やテレビ番組が公開される予定であり、マーベルがより多くのコンテンツを増やしていくにつれ、疲労感が生じていく可能性がある。
しかし、作品の質は、作品の数と同じか、それ以上に重要な要素になるだろう。
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でドクター・ストレンジ(Doctor Strange)を演じるベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)。
Marvel Studios
批評家は『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降、MCUの作品は方向性を欠いていると言う
MCUの現状を指摘したのは、筆者が初めてではない。これらの映画は、批評家からマーベル映画の中でも最低の評価を受けてもいるのだ。10年以上におよぶストーリーを締めくくった2019年公開の『アベンジャーズ/エンドゲーム』の後、MCUは方向性を失ってしまったと不満を漏らす人もいる。
映画業界およびレビューのウェブサイト、Indiewire(インディワイア)のデイビット・アーリック(David Ehrlich)は、『ソー:ラブ&サンダー』のレビューで「この映画は『アベンジャーズ/エンドゲーム』後のMCUの“無目的性”を突きつけている」と書いている。
The Ringerのポッドキャスト「ザ・ビッグ・ピクチャー(The Big Picture)」の2022年7月12日のエピソードには、「マーベルの危機を解決する5つの方法(Five Ways to Fix the Marvel Crisis)」というタイトルがつけられている。エンターテイメント・ジャーナリストのマット・ベローニ(Matt Belloni)は、2022年5月11日の自身のポッドキャスト「ザ・タウン(The Town)」で、「マーベルは質に問題があるのか?」と疑問を投げかけている。
さらにディズニープラス(Disney+)のオリジナルドラマの配信がある。ディズニーは視聴率の数字を公表していないため、その成功を測るのは難しいが、第三者のデータから、その一端を垣間見ることができる。
視聴者の需要を測定するParrot Analytics(パロット・アナリティクス)の最近のデータによると、どのシリーズも似たような成長軌道をたどった後、同様のエンゲージメントの低下が見られた。マーベルの番組はディズニープラスの既存加入者 (およびマーベルのファン層) にはヒットし、ユーザーの囲い込みには貢献しているが、新規ファンの獲得や加入者数の拡大には至っていないことが示唆されている。
新たなブラックパンサー映画『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー』の予告編(2022年11月日米同時公開予定)。
Marvel Studios
マーベル映画を見ることは、コミックを読むのと同じになる
マーベル・スタジオがMCUに対する批判に注意を払っていたとしたら、2022年7月23日のサンディエゴのコミコンでは開き直っていたのだろう。
マーベル・スタジオの社長ケヴィン・ファイギ(Kevin Feige)は、ファンの間で人気のテレビシリーズ『デアデビル』のディズニープラスでの新シリーズ配信、また映画『ブレイド』、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol. 3(原題)』などの公開日、さらに、2025年に公開する新たな『アベンジャーズ』2本で、『アベンジャーズ/エンドゲーム』後の「マルチバース・サーガ(Multiverse Saga)」を完結させることを発表した。
エンターテインメントニュースのバラエティ(Variety)によると、『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー』の最初の予告編は、公開から24時間で1億7200万回視聴された。つまり、マーベルは今も観客に対して大きな力を持っているということだ。
しかし、筆者のような熱心なコミック読者としては、MCUがスクリーン上で、真のコミックの世界にますます近づいていると感じずにはいられない。たしかに昔からいつもそうだったのだが、2021年までは年に2、3本の映画が公開され、イベント映画のような集大成的なものがあった。
現在は年に数本の映画とテレビ番組で、当分はこの状態が続くかもしれない。ドラマシリーズ『ロキ』や映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』のように、MCUの壮大な背景を理解するのに不可欠な作品もあるかもしれないし、映画『ソー:ラブ&サンダー』やドラマ『ムーンナイト』のように、あまり関係ない作品もあるかもしれない。
「ファンがスーパーヒーローを読むように見る時が来た」とワイアード(Wired)にグレーム・マクミラン(Graeme McMillan)は書いている。
マーベルのシリーズが成長するにつれて、観客は消費するものを選ぶようになり、コミックを読むように好きなキャラクターや話題性のあるタイトルに惹かれるようになるかもしれない。
[原文:Cracks in Marvel's armor are beginning to show after a decade of unprecedented success]
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)