AT&Tのジョン・スタンキーCEO。
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- AT&Tは、電話代滞納の増加に見舞われていることを決算報告で明かした。
- これはアメリカのインフレが消費者にいかに重くのしかかっているかを示す一例だ。
- 個人消費と労働市場は依然として堅調だが、それ以外の要素は景気が減速していることを示唆している。
電話代を期限までに支払う余裕がないなら、食料品、ガソリン、家賃、クレジットカードなどの支払いにも苦しんでいるはずだ。経済の先行きを考えると、それはいいことではない。
AT&Tは、多くの顧客でこのようなことが起きていると、7月21日に行われた四半期決算報告で述べた。
「我々のコンシューマー向け事業で、不良債権がパンデミック前の水準より増えており、現金回収のサイクルも長期化している」とAT&Tのジョン・スタンキー(John Stankey)CEOは述べ、利用者からの料金滞納が増加していることを示唆した。
料金滞納はアメリカの景気が後退していることを示すサインの一つだ。消費は非常に堅調だが、インフレ調整後の個人消費は5月に0.1%減少した。7月21日に発表になった失業保険申請件数、つまり解雇者数の指標は、2021年11月以来の高水準になった。消費者信頼感指数は史上最低に近いままで、GDPは2四半期連続でマイナスになった。これらは古くから使われる指標だが、依然としてアメリカの景気後退の可能性を示す重要なシグナルだ。個人消費がアメリカの経済活動のおよそ3分の2を占めていることを考慮し、エコノミストは景気悪化の兆候に目を光らせている。電話代の滞納もそのひとつだ。
ガソリンや食品、家賃の上昇が滞納を引き起こす家計の危機をもたらすのは間違いないが、携帯電話の料金も上がっている。AT&Tは2022年5月、従来からあるプランの一部について、1回線の契約は月6ドル、ファミリー向けの契約は最大で月12ドルもの値上げを行った。そのわずか数週間後、競合するベライゾン(Verizon)も価格を上げた。AT&Tの値上げの背景には、同社が経験しているインフレの圧力がある。同社は4月、「インフレと人件費の増加」によって少なくとも10億ドルの追加コストが発生したと発表した。競合他社では安いプランを提供しているが、電話会社の変更には手間がかかるので、多くの消費者が躊躇するのではないだろうか。
だが、携帯電話を所有している90%以上のアメリカ人にとって、悪いニュースばかりではない。
過去20年間で、健康関連や大学、育児にかかる費用がインフレ率を上回って上昇したため、携帯電話サービスは相対的に手頃になってきている。さらに、6月時点ではスマートフォンの価格が前年比で20%も下がった。消費者の支出がモノからサービスの利用にシフトする中で電話会社は膨らむ在庫に悩まされ、それが価格の引き下げにつながったのだ。
記録的なインフレに対抗して、アメリカ連邦準備理事会(FRB)は景気を減速させ、物価を下げるために利上げを行っている。ウォルマート(Walmart)などのように膨らむ在庫に関連して行う値下げは、FRBが望む「ソフトランディング」の手助けになるかもしれない。だがもしアメリカ経済が景気後退に陥ったら、AT&Tの通話料金滞納は、ここ数カ月で多くが貯金を取り崩しているという消費者が苦境に陥ることを示す、初期のシグナルになるかもしれない。
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)