撮影:太田百合子
アマゾンが2022年、国内の配送拠点を大幅に増強し、10月末までに新たに18カ所の「デリバリーステーション(DS)」の開設を完了すると発表した。
これにより全国のDS数は45カ所以上となり、新たに青森、岩手、秋田、長野、徳島、香川、愛媛、高知、熊本、沖縄の一部地域で、700万点以上の商品の翌日配送や、置き配指定サービスが利用できるようになる。
これに合わせてアマゾンがDSの内部を報道陣に公開した。
アマゾンの商品はどうやって届くのか
今回公開されたDSは都内某所にある拠点だ(外観は非公開)。
「Amazon.co.jp」でオーダーされた商品は、「フルフィルメントセンター(FC)」と呼ばれる倉庫で梱包され、各地域のDSへと輸送される。
そこで仕分けされた商品を、個人の配送事業者を中心とする「Amazon Flexドライバー」が直接、購入者の元へと届けるというのが基本的なしくみだ。
インタビューに応じる、アマゾンジャパン アマゾンロジスティクス事業本部長のアヴァ二シュ・ナライン・シング氏。
撮影:太田百合子
現在はまだ、大手配送事業者に頼る部分が多いという実情もある。
だが、DSからユーザーまでの「ラストマイル」を自前の配送網にすることで、当日配送や翌日配送といったスピードと、置き配指定サービスやAmazon Hubロッカーの利用といった利便性の両面で、「お客様にベネフィットを提供できる」と、アマゾンジャパン アマゾンロジスティクス事業本部長のアヴァ二シュ・ナライン・シング氏は言う。
シング氏はDSの全国展開を「商品を少しでも速く受け取りたいという、お客様の声に応えるため」だと説明する。
約4000坪ある都内のDS。近隣地域への当日配送の拠点となっている。
撮影:太田百合子
配送エリアごとに分かれたレーン上で手作業で仕分けが行われている。
撮影:太田百合子
多いときには1日数万個の荷物が仕分けされ、配送される。
撮影:太田百合子
報道陣向けに公開された都内のDSでは、迅速配送のためのさまざまな工夫を見ることができた。
従業員が住所ごとに手作業で荷物を仕分けていくのだが、バーコードを読み取ると棚が光って、どのバッグに入れるかを確認できる仕組みが用いられていた。
AIを用いて荷物の最適な配送ルートを作成し、積み込むバッグの組み合わせや道順を、ドライバーにナビゲーションするシステムも提供されている。
ドライバーが次の荷物をすばやく取り出せるように、バッグがカラフルに色分けされているなど、グローバルで培った効率化のためのノウハウが活かされている。
荷物のバーコードを読み取ると、仕分けるべき棚が光る仕組み。写真でマークした部分をよくみると、棚の両脇が赤く光っていることがわかる。
撮影:太田百合子
ドライバーは専用アプリで次に配送する荷物を確認できる。どのバッグに入っているかわかりやすくするため、カラフルなバッグが採用されている。
撮影:太田百合子
日本独自の置き配、“オートロックをスルー”する「Key for Business」にも広がり
中には日本独自の取り組みもある。置き配の際の荷物の置き場所を指定できるサービスもそのひとつだ。
集合住宅が多く人口が密集している日本の住宅事情を反映して、6つの場所から選べるようになっている。
2019年秋に提供を開始し、「今では75%のお客様が利用している」とシンク氏。また2021年からスタートした、ドライバーが許可を得てオートロックを解除する「Key for Business」も、すでに2500のビル、集合住宅で導入されているという。
置き配が広まったことで再配達が減り、「ドライバーの負担軽減だけでなく、CO2の削減にも貢献している」という。
ドライバーが配送アプリからオートロックを解除できるようにする「Key for Business」も、管理が行き届く自前の配送網ならではのサービスと言える。
写真提供:アマゾン
置き配では玄関前、車庫、自転車のかご、宅配ボックス、ガスメーターボックス、建物内受付/管理人から好きな場所を指定できる。
写真提供:アマゾン
アマゾンでは、新たなDSの開設や配送網の整備により、数千人規模の配送ドライバーを含む、5000人以上の雇用を創出するとしている。
コロナ禍にECが活況となる一方で、他社では物流がパンクする事態も起こっているが、どのように人材を確保し、体制を整えていくのか。
「お客様へより速くより便利にお届けするのと同様に、従業員やドライバーの皆さんに、より安全で働きやすい環境を提供することも一番に考えている」とシンク氏。そうすることが「より良いカスタマーサービスにもつながる」と考えているからだという。
たとえば、ナビゲーションシステムによって効率的な配送が実現すれば、ドライバーの負担を減らせると同時に、荷物も速く届けられる。
また、好きな時間帯を選んで働けるフレキシブルなしくみは、ドライバーに働きやすい環境を提供する一方で柔軟なシフトを可能にし、「時間帯を問わず、商品をお届けできるようになる」というわけだ。
すでに一部のDSでは、現地での雇用もスタートしている。
自前の配送網を強化する動きが他のECサイトでも広がる中、現場を担う人材を確保できるかどうかが鍵になりそうだ。