スイス金融大手UBSは現実味を帯びる景気後退シナリオを「力強く乗り切る」セクターと銘柄を特定している。
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スイス金融大手UBSは7月20日、欧米の景気後退シナリオに関するウェビナーを開催した。
投資銀行UBSインベストメント・バンク経済・戦略調査部門のグローバル責任者を務めるアレンド・カプタインはそこでこう発言している。
「私たちはいま歴史的な景気減速の真っただ中にいます。そうなることは分かっていました。誰もが予想していたことではありながら、世界の実質GDP成長率(見通し)が1年で3%も低下するなどという事態は、歴史を振り返っても稀なことなのです。だからこそ、実際にその状況に直面すると、何もかもが景気後退を引き起こす要因のように思われてくるわけです」
同ウェビナーの数時間後、UBSの米国株戦略部門を率いるキース・パーカーは顧客向けメールを通じて、株式市場は今後6カ月以内に景気後退入りする確率を40%程度と踏んでいるとの見方を紹介している。
パーカーの計算は、S&P500種のパフォーマンスとバリュエーション、株式リスクプレミアムの変化、およびクオリティと企業価値、企業規模、ベータ(ベンチマークに対する感応度)に基づく個別銘柄のパフォーマンスをベースに、景気後退の予想実現性を決定するロジスティック回帰(分析)モデルによる。
【図表1】株式市場が想定してきた景気後退入りの可能性(6カ月後まで)。グレー部分は実際に景気後退入りした時期。
UBS
「景気後退のリスクが現実味を帯びるなか、何が織り込み済みなのか、現時点ですでに切り下がっているのは何なのかを認識することがますます重要になってきています」(パーカー)
パーカーと同社のストラテジストチームは先述の顧客向けメールで、株式市場のさまざまなセクターを分析し、推移していく景気サイクルの現在時点で最も優位な状況と考えられるセクター、また、優位なセクターの中で際立つ銘柄を特定している。
足もとの不安定な経済環境を踏まえ、株式市場のセクターに資産配分する際には、よりディフェンシブで銘柄を厳選したアプローチが必要とされると、パーカーは強調する。
その点を踏まえ、UBSは「ハイテク」「ヘルスケア」「エネルギー」セクターの投資判断を現状通り強気で据え置き、「生活必需品」「一般消費財」をオーバーウェイト(資産配分比率をベンチマークより高くする)に引き上げた。
「生活必需品」が魅力的と言える理由は、割安で、強力なプライシングパワー(価格決定力)を持ち、他のディフェンシブセクターより予想リターンが良好であるなど、いくつかある。
「一般消費財」は、市場アナリストによる予想株価収益率(PER)を見ると「歴史的な安値付近」で取引されており、力強い消費支出、健全なバランスシート、インフレのピークアウトから恩恵を受けると考えられる。
「ハイテク」銘柄は、相対的に強い成長力、価格決定力の恩恵を受ける。金利上昇に伴うバリュエーション低下への懸念はすでにピーク打ちした可能性がある。
パーカーは同セクターの中でも、半導体関連企業より、毎年決まって経常収益を得られるソフトウェア&サービス企業に評価の重きを置く。
「ヘルスケア」もパーカーが推奨するディフェンシブセクター。「割安で堅実」と評価した上で、収益の伸びと相対リターンについて強気と判断。製薬、バイオテックおよびマネージドケア(管理医療)業界は需要が非弾力的で、景気後退時にも堅調な銘柄が多い。
「エネルギー」セクターはハイテクやヘルスケアより景気動向にセンシティブだが、景気後退時における需要の強靭さには目を見張るものがある。高インフレが続く足もとの状況でも、エネルギー先物価格の上昇と比較する限り、エネルギー関連企業の株価はまだ割安水準にとどまっている。
一方、UBSは景気動向にセンシティブな「金融」および「不動産」セクターをアンダーウェイトに引き下げ、「ユーティリティ(公益事業)」「素材」「資本財」セクターの見通しをネガティブのまま据え置いた。
パーカーによれば、景気後退のリスクが高まる中、金融セクターのリスクリワードレシオは「魅力的とは言えず」、不動産・公益事業セクターはいずれも割高、最後の素材・資本財セクターはインフレの退潮で打撃を受けるという。
いま投資すべき22銘柄
パーカーは景気後退入りを前に優位に立つ5つのセクターのうち、「エネルギー」を除く「ハイテク」「ヘルスケア」「生活必需品」「一般消費財」セクターから、特に推奨したい22銘柄をリストアップした。
いずれの銘柄も、業界、UBSの設定する目標株価に対するアップサイド(7月20日時点)、評価ポイントを付した。
アップル(Apple)
Markets Insider
[業界]テクノロジーハードウェア&機器
[目標株価に対するアップサイド]26%
[ポイント]主要プロダクトへの力強い需要、特に米中両国でのMacとiPhoneへの需要。自動運転車や拡張現実(AR)/仮想現実(VR)端末、広告事業は今後の株価上昇要因。
クラウドストライク(CrowdStrike)
Markets Insider
[セクター]ソフトウェア&サービス
[目標株価に対するアップサイド]35%
[ポイント]サイバーセキュリティ市場での優位なポジション、ARR(年間経常収益)など今後2年間の業績見通しの良好さ、クラウドセキュリティやアナリティクスなど成長市場への進出期待
マイクロソフト(Microsoft)
Markets Insider
[セクター]ソフトウェア&サービス
[目標株価に対するアップサイド]30%
[ポイント]クラウド事業「アジュール(Azure)」は競合を上回る勢いで成長中、マクロ経済の不安定期に耐久性を発揮できる
ファイブナイン(Five9)
Markets Insider
[セクター]ソフトウェア&サービス
[目標株価に対するアップサイド]92%
[ポイント]大企業との契約を獲得して成長続く
デル・テクノロジーズ(Dell Technologies)
Markets Insider
[セクター]テクノロジーハードウェア&機器
[目標株価に対するアップサイド]64%
[ポイント]商用(法人向け)PC市場をリードする優位なポジション、インフラ(ストレージおよびサーバー)需要の拡大、配当と株式買い戻しの組み合わせによる積極的な株主還元
マイクロンテクノロジー(Micron Technology)
Markets Insider
[セクター]半導体・半導体関連装置
[目標株価に対するアップサイド]49%
[ポイント]クラウドや5Gの拡大を背景にDRAM需要が増える想定から構造的にメモリは強気見通し、NAND型フラッシュメモリでもリード
ビザ(Visa)
Markets Insider
[セクター]ソフトウェア&サービス
[目標株価に対するアップサイド]41%
[ポイント]バリュエーションはマイルドケースの景気後退を織り込み済み、今後5年間の売上高および利益の成長ポテンシャルは株価上昇要因、海外旅行回復の恩恵
アルビナス(Arvinas)
Markets Insider
[セクター]製薬バイオテック&ライフサイエンス
[目標株価に対するアップサイド]218%
[ポイント]標的タンパク質分解誘導剤(TPD)技術は抗体の発見同様のイノベーション
エレバンス・ヘルス(Elevance Health)
Markets Insider
[セクター]ヘルスケア機器&サービス
[目標株価に対するアップサイド]24%
[ポイント]メディケア(65歳以上の高齢者および障害者向け公的医療保険)加入者向けホームケアの成長期待、医療保険取引所(HIX、医療保険マーケットプレイス)経由のメディケイド(低所得者向け公的医療保険)加入者向けビジネスの拡大
ホライズン・セラピューティクス(Horizon Therapeutics)
Markets Insider
[セクター]製薬バイオテック&ライフサイエンス
[目標株価に対するアップサイド]66%
[ポイント]世界初の活動性甲状腺眼症(TED)治療薬テプロツムマブ(製品名:テペッザ)の力強い成長軌道、新薬パイプライン(候補化合物)の評価ポテンシャル
ヒューマナ(Humana)
Markets Insider
[セクター]ヘルスケア機器&サービス
[目標株価に対するアップサイド]10%
[ポイント]メディケア・アドバンテージ事業の成長に向けた10億ドルの投資への期待
アイキューヴィア(IQVIA)
Markets Insider
[セクター]製薬バイオテック&ライフサイエンス
[目標株価に対するアップサイド]37%
[ポイント]バイオテック各社が資金難に陥る中で業績見通し上方修正、DCT(分散型臨床試験)やデータソリューションソフトウェアを組み合わせるCRO(医薬品開発受託)事業のトレンドを活用した成長可能性
ラボラトリー・コーポレーション(Laboratory Corporation)
Markets Insider
[セクター]ヘルスケア機器&サービス
[目標株価に対するアップサイド]30%
[ポイント]グローバルな事業エリアの組み合わせ、複数年契約、高利益率の臨床検査事業、CRO(医薬品開発受託)事業は現時点で過小評価
バーテックス・ファーマシューティカルズ(Vertex Pharmaceuticals)
Markets Insider
[セクター]製薬バイオテック&ライフサイエンス
[目標株価に対するアップサイド]12%
[ポイント]5年売上高CAGR(年平均成長率)2ケタ予想、新薬パイプライン「VX-147」(遺伝子変異起因の蛋白尿腎疾患治療薬候補)「VX-548」(神経障害性疼痛治療薬候補)の順調な臨床試験、CRISPR/Cas9ゲノム編集を活用したデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療の治験新薬(IND)申請
チポトレ・メキシカン・グリル(Chipotle Mexican Grill)
Markets Insider
[セクター]消費者サービス
[目標株価に対するアップサイド]42%
[ポイント]複数年にわたる力強い成長機会の可視化、複数の利益率拡大要因
コンステレーション・ブランズ(Constellation Brands)
Markets Insider
[セクター]食品・飲料・タバコ
[目標株価に対するアップサイド]11%
[ポイント]リスクリワードレシオの魅力性、売上高の成長に勢い
ダラー・ツリー(Dollar Tree)
Markets Insider
[セクター]小売り
[目標株価に対するアップサイド]10%
[ポイント]1ドルから1.25ドルへの値上げ(2021年11月)が利益嵩上げ、販売手法にフレキシビリティを生み出す
ヒルトン・ワールドワイド(Hilton Worldwide)
Markets Insider
[セクター]消費者サービス
[目標株価に対するアップサイド]30%
[ポイント]強力なプライシングパワー(価格決定力)、在庫の価格再設定に着手、売上高の3〜5%に相当する料金を徴収するフランチャイズ(運営委託)契約ベースのため運営コスト上昇の影響少ない
リーバイ ストラウス(Levi Strauss)
Markets Insider
[セクター]耐久消費財&アパレル
[目標株価に対するアップサイド]35%
[ポイント]ECシフトおよびマクロ環境変化を乗り切るブランド力の強さ、2026会計年度までEPS(1株あたり利益)は2ケタ成長予測
ナイキ(Nike)
Markets Insider
[セクター]耐久消費財&アパレル
[目標株価に対するアップサイド]50%
[ポイント]製品イノベーション、サプライチェーンの高速化、デジタル化によりEPS(1株あたり利益)の5年CAGR(年平均成長率)13%の予測
ノマド・フーズ(Nomad Foods)
Markets Insider
[セクター]食品・飲料・タバコ
[目標株価に対するアップサイド]45%
[ポイント]インフレ懸念で、株価は年初来29%下落、P/E(株価収益率)は10倍まで低下も過小評価。2023、24年は1株あたり利益(EPS)でCAGR(年平均成長率)2ケタ成長を予測
ウォルマート(Walmart)
Markets Insider
[セクター]食品・生活必需品小売り
[目標株価に対するアップサイド]28%
[ポイント]インフレに伴う安価な代替商品への買い替え需要、収益源の多様化戦略が成長を後押し
(翻訳・編集:川村力)