Figmaの日本戦略発表会に登壇した(写真左から)Figma CPO(最高製品責任者)の山下祐樹氏、CCO(最高顧客責任者)を務めるアマンダ・クレハ(Amanda Kleha)氏、共同創業者兼CEOのディラン・フィールド(Dylan Field)氏、Figma Japan社長の川延浩彰氏。
撮影:小林優多郎
デザインコラボレーションツールの「Figma(フィグマ)」は、7月27日に日本語に対応した。英語以外の言語に対応するのは日本語が初めて。
Figmaは2012年に創業。2021年6月にはシリーズEの資金調達を実施し、BloombergによるとFigmaの評価額は100億ドルを超えるとされている。
なぜ、Figmaというツールには注目と資金が集まるのか。どうしてローカライゼーション第1弾として日本を選んだのか。27日に開催された事業戦略発表会で語られた内容を解説する。
3分の2以上が「非デザイナー」のデザインツール
Figmaでニュースサービスのプロトタイプをつくっているデモ。
撮影:小林優多郎
そもそもFigmaとは何か。デザイナーであったり、IT系の企業に勤めていたりする人であれば使ったことや見たこともあるだろう。
同社は自身の製品を「デザインプラットフォーム」としており、アプリやWebサイトといったデザインのモック、カンプ、プロトタイプ……といった、アプリで言えばコーディングする前の試作を作成できるツールだ。
とはいえ、それだけであれば既存のツールでも事足りる。Figmaが人気を得ている最大の理由は、容易なコラボレーション機能にある。
つくったプロトタイプは、スマートフォンでどう見えるか・動くか、といったテストも可能。
撮影:小林優多郎
Figmaはウェブブラウザーからアクセスできるクラウドツールだ。変更した内容は常にクラウドに保存され、社内のメンバーや社外と共有したいときは、レビュー用のURLを相手に送ればいい。
受け取った人もブラウザーでアクセスするだけで、デザインを確認。修正して欲しい場所などがあれば、コメントや絵文字でリアクションをしたり、編集権限があれば実際にデザインデータをいじったりすることもできる。
Figmaの3分の2以上のユーザーはデザイナー職ではない。
撮影:小林優多郎
コロナ禍によるテレワーク普及の波や、近年叫ばれる「デザイン経営」の流行などで、さまざまな役割の人が、こうしたデザインのコラボレーションツールを使う必要性が出てきたといえる。
なお、大企業ではグローバルで見るとグーグルやマイクロソフト、日本では楽天やLINE、富士通などがFigmaを導入している。
日本語化前から熱のあるコミュニティーに期待を寄せる
共同創業者兼CEOのディラン・フィールド(Dylan Field)氏。
撮影:小林優多郎
同社は1月に日本法人であるFigma Japanを設立。3月には日本のカントリーマネージャーとして、元ブライトコーブ代表取締役の川延浩彰氏が就任した。
初のローカライズとして日本を選んだ理由として、7月27日の事業戦略発表会に登壇した共同創業者兼CEOのディラン・フィールド(Dylan Field)氏は、日本のデザインカルチャーや、前述のようにローカライズ前にFigmaを使っていたユーザーの多さに着目したと話す。
日本語対応前に、すでに電子書籍と有志開発による日本語化プラグインが存在した。
撮影:小林優多郎
特に、2020年に登場した有志の開発者によるChrome向けの「Figma日本語化」や、電子書籍による解説本(『Figma for UIデザイン』、翔泳社・沢田俊介 著・2022年6月発売)など、ユーザーコミュニティーのエンゲージメントの高さについて言及している。
「日本のコミュニティーは(Figmaの発展に)協力してくれており、そこに投資をする責任があると感じた」(フィールド氏)
また、今回の日本語化の対象は、デザインツールのFigmaに加え、2021年4月に開始したオンラインホワイトボードサービス「FigJam(フィグジャム)」と、それぞれのヘルプページが含まれる。
加えて、Figmaのロゴ入りのシャツや帽子、ノートなどのグッズが買える「Figma Store」も日本語での表示、日本からの注文に対応する。
製品の質向上と「企業での自然な浸透」で成長へ
Figmaが公表しているユーザーと収益の割合。
撮影:小林優多郎
Figmaのビジネスモデルはいわゆる「フリーミアム」だ。まずは誰でも無料で利用でき、一部の機能の制限を外したかったり、より組織的に利用したかったりする場合は有料プランへ誘導する。
Figmaはグローバル全体でアクティブユーザー数などを公表していないが、「ユーザーの81%、収益の50%はアメリカ国外」としており、アメリカ国外への投資には積極的な姿勢を見せている。
Figma CCO(最高顧客責任者)を務めるアマンダ・クレハ(Amanda Kleha)氏。
撮影:小林優多郎
フィールドCEOは27日の説明会で日本市場での目標などは「日本での従業員数を年末までに20人にする(現在は10名)」にとどまり、「人員がそろってから営業目標などは定めたい」とした。
では、グローバル全体ではどのように有料会員を増やしていくのか。フィールドCEOと同時に来日したCCO(最高顧客責任者)を務めるアマンダ・クレハ(Amanda Kleha)氏は2つの側面のアプローチをするとしている。
「1つは新製品(Figma自体の新機能やFigJamなどの)を出していくこと。
もう1つはデザイナーなどがFigmaを社内で使い始めて、それに関わる人たちが他の製品では実現できないような使い方に気づいていく。こうして自然に社内でユーザーが増えていくことも促していきたい」(クレハ氏)
製品と同じく日本語対応するファン向けEC「Figma Store」。
撮影:小林優多郎
後者はコミュニティーの発展や、Figma内で使えるテンプレートなどのアセットを拡充することで進められる。
一方、前者の新製品(=新サービス)については、FigJamなどの新サービスやFigma自体の機能アップデートで強化する。なお、クレハ氏は「来年(2023年)には発表できることがある」と、今後の展開について期待を促した。
競合や円安などSaaS市場は厳しい環境
Figmaの料金プラン(年間契約時)。
撮影:小林優多郎
とはいえ、Figmaが展開するSaaS市場は競合も多い。また円安傾向により、厳しい状況が続いている。
競合としてはデザインツールであれば、アドビのPhotoshopやIllustratorなどの連携が強力な「Adobe XD」、ホワイトボードツールではグーグルとの連携を果たした「miro」やZoomの内蔵ホワイトボード機能が既に存在する。
これに対して、フィールド氏は「Figmaは創業時からクラウドベースのツールである」ことを挙げ、コラボレーション機能やユーザー体験の面で優位性があると強調する。
Figma Japan社長の川延浩彰氏。
撮影:小林優多郎
また、円安については主に企業導入で影響がありそうだ。直近では、ビジネスチャットのSlack(スラック)が、9月に創業以来初の値上げに踏み切る。
Figmaは現在ドル建ての料金プランしか用意されておらず、円安傾向が続くと日本円換算した際の利用料金が上がることになる。
Figma Japanでもこういった懸念は認識しており、日本のカントリーマネージャーである川延氏は「会社としては既に(日本円のプランも)考えている」とコメントした。
「日本でより浸透していくためにはカレンシー対応(現地通貨対応)を検討していかなければいけない。
日本円に対応することで、より多くのお客様に喜んでもらえるとは肌感覚では持っている」(川延氏)
日本語対応に加え、日本円建てのプランなど、その他独自の取り組みがどのように展開されていくか、同社の手腕に期待したい。
(文、撮影・小林優多郎)