月額アパレル「エアークローゼット」赤字上場でもストップ高…ZOZOやアオキも撤退の“物流の壁”に勝機

天沼聰氏

エアークローゼット社長の天沼聰氏。アビームコンサルティング、楽天などを経て起業した。

撮影:岡田清孝

月額制のファッションレンタル「airCloset」を運営するエアークローゼットが7月29日、東証グロース市場に上場した。

初値は公開価格(800円)を13.7%上回る910円。その後ストップ高となる1060円まで上がり、終値をつけた。29日の終値ベースでの時価総額は85億9600万円。

ロシアのウクライナ侵攻、長引くコロナショック、インフレ懸念などによって世界経済は混乱を極めている。2022年初以降、新規上場を取り下げたり、見送るスタートアップが少なくない中で、エアークローゼットは上場に踏み切った。

その決断の背景について創業社長の天沼聰(さとし)氏に聞いた。

株主からは「本当にこのタイミングなのか」

天沼聰氏

「上場について、本当にこのタイミングなのか、というお声はたくさんいただいた」(天沼氏)

7月下旬の東京・青山。白を基調としたエアークローゼットのオフィスに足を踏み入れると、フリルスカートやレースのシャツなどを合わせたカラフルなコーディネートが、きれいに並べられて展示されていた。

取材に対して「IPOについては、めちゃくちゃ考えましたよ」と笑う天沼氏の表情は、どこか吹っ切れたようにも見える。

株式市場は低迷している。2022年上半期のIPO社数は前年同期比で16社減の37社となった(KPMG「2022年上半期のIPO動向について」より)。

それだけではない。同レポートによると、東証グロースの初値時価総額(中央値)は前年同期比(マザーズとの比較)で半分以下。さらにAnyMind Groupなど、上場承認された会社のうち8社が上場延期を公表 ── という、“異例づくし”の状況下での上場だ。

天沼氏自身「株主からも、本当にこのタイミングなのか?という声はあった」と否定しない。

6月24日に公表した2022年6月期の業績予想によると、売上高は33億5210万円と前期比16.1%増を見込む。しかし人件費や広告宣伝費などの拡大により、本業のもうけにあたる営業損失は5100万円と再び赤字に転落する見通し(前期は3800万円の、初の営業黒字)だ。

一方で、月額の会費収入による比較的安定した事業基盤は、上場決断の決め手となった。2022年3月末時点で月額会員は3万2297人。2021年6月期においては、売上高の約8割が月額会員の費用で賄われているという。

無料会員数・月額会員数の推移。

無料会員数と月額会員数の推移。ユーザー数の伸びが周期的に見えるのは、春と秋に新規登録のニーズが高まるため。その時期に合わせて、広告宣伝費を投下する戦略をとっているという。

出所:エアークローゼット「新規上場申請のための有価証券報告書」

「私の見立てからすると、市況の回復には少なくとも1〜2年はかかるし、悪化する可能性もある。そう考えた時(創業9年目に入って)ここで信頼獲得をする。ファッション・アパレル業界が『ウィズコロナ』に変わっていく転換点でIPOをする意義も大きいと考えた」(天沼氏)

ZOZOもアオキも撤退、月額アパレルの“壁”に勝機

天沼聰氏

「(レンタル物流の構築は)パッと資金を投下したらできるものでは絶対にない」

エアークローゼットは2015年2月にサービスを開始した。

ユーザーの好みに合わせ、プロのスタイリストが洋服をスタイリングして貸し出すサービスを展開する。プランは月額で6800円、9800円、1万2800円から選ぶ仕組みだ。

天沼氏は、月額制のファッションレンタルは競合の参入が難しいと指摘する。その理由こそが、物流基盤の構築だ。

通常のファッション物流において想定されているのは商品の配送までだが、サブスクとなれば、仕入れからレンタル、返品、メンテナンス、検品、再出荷……といった“循環型”の物流フローが必要となる。

同社は、独自に倉庫管理システム(Warehouse Management System、WMS)を開発し、この物流基盤の構築に取り組んできた。その結果、現在では返却から再レンタルまでが最短1日で可能なまでになっているという。

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自社の物流基盤「AC-PORT」は、他社とも協業しつつ改善が繰り返されている。

出所:エアークローゼット「新規上場申請のための有価証券報告書」

「私も現場に行って、シミ抜きなどの細かいオペレーション改善を1個1個繰り返してきた。これは、パッと資金を多額に投下すればでき上がるものでは絶対にない」

実際、2018年にはZOZO「おまかせ定期便」、アオキ「suitsbox」、レナウン「着ルダケ」など類似のファッションレンタル・サービスが次々と登場したが、いずれも数年で撤退している。

有価証券報告書には、今後の中期的な成長戦略として他社ブランドに自社のWMSを提供することでの「物流プラットフォーム展開」も掲げられている。

今はまだ自社のWMSの運用・保守を回し、システムの安定性を高めている段階だが「(他社がプラットフォームを活用してくれることの)ポテンシャルは大きい」(天沼氏)とみる。

業界全体でシェアの比率高める

国内アパレル総小売市場規模推移。

国内アパレル総小売市場規模推移。

出所:矢野経済研究所

ファッション業界には逆風が吹いている。矢野経済研究所の発表によると、2020年の国内アパレル市場規模は前年比18.1%減の7兆5158億円と急減した。

その一方で、 市場全体に占めるECの割合は大きく高まっている。

経済産業省の発表によると、2020年のファッション・アパレルECの市場規模は2兆2200億円で、前年比16.2%増の成長を記録し、全体の約2割にまで伸びた。

天沼氏も国内でのファッションECの成長を念頭に、「業界全体において、新品だけでなくシェアリングの比率を高めていく(必要がある)」と意気込む。

環境負荷が非常に高い産業としてファッション業界に厳しい批判の目が向けられる中、「ファッションのサブスク」は新しいビジネスモデルになるのではと、世界的にも注目されている。

同社では、レンタル提供が終了した服を販売する「エコセール」や、破損などを理由に着られなくなった服を、廃棄衣類を原料にした繊維リサイクルボード「PANECO」に提供する取り組みなどを通して、仕入れた衣服の「廃棄ゼロ」を実現しているという。

(取材・伊藤有西山里緒、文・西山里緒

※最新の情報に更新しました(2022/07/29 9:40)

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