世界経済を揺るがす「半導体不足」。問題の大きさは何となく体感できても、半導体の仕組みや市場構造、問題のありかなど、意外に知られていないことは多いのでは。
Shutterstock.com
半導体業界に足を踏み入れようと考えている人たちにとって、いまほど面白い時期はないだろう。
過去にない消費者需要の高まりから、市場の構造変化、複雑極まりない政治的駆け引きまで、いま半導体を取り巻く環境は普通ならスマートフォンやタブレットのような大ヒット製品だけが経験するようなものだ。
サプライチェーン障害に収束への道筋が見えないなか、海外製半導体への依存度を引き下げることで問題の緩和を図ろうと、米上院は議論を続けてきた国内半導体産業向けの補助金527億ドル(約7兆1100億円)を含む「半導体製造支援インセンティブ創出(CHIPS)法」案を7月末に可決した。
米半導体産業協会(SIA)によれば、半導体チップの総売上高(2021年)は5559億ドル(約75兆円)で過去最高を更新。2022年は6000億ドルを突破すると予測されており、さらなる飛躍の年になりそうだ。
そのように、半導体があらためて注目を浴びていることから、業界に足を踏み入れたくても取っかかりが見つけにくくなっている。加えて、半導体チップの仕組みについて技術的な面を理解するのはそもそも骨が折れることだ。
ポッドキャストのような無料のリソースは、初心者から上級者、専門家クラスまで幅広い層にとって、半導体業界に関する知識や理解を深めるのに役立つ可能性がある。
そこで、Insider編集部は業界の専門家の協力を得て、エンジニア志望者や半導体業界に興味を持って話題を追っている人たちの学びに役立つポッドキャスト番組「8選」を用意した。
ムーアズ・ロビー(Moore's Lobby)
Moore's Lobby Podcast
「ムーアズ・ロビー」は、半導体業界のさまざまな分野で働くプロフェッショナルたちの知られざる実像を明らかにする番組だ。
ホストのダニエル・ボグダノフは半導体分野におけるマーケティングの専門家として長く活躍し、現在は半導体試験装置メーカーのキーサイト(Keysight)でプロダクトおよびコンテンツマーケティング部門の責任者を務める。
ボグダノフは番組内で半導体分野の経営幹部らにインタビューし、それまでのキャリアの軌跡、現在の会社で取り組んでいること、半導体の世界で仕事を得るためのアドバイスといった情報を引き出していく。
最近番組に登場した業界の著名人としては、アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services)のエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めるビル・バスや、人工知能(AI)チップ開発を手がけるグロック(Groq)の創業者で、前職のグーグル(Google)ではAI推論処理プロセッサ(APU)の設計を担当したジョナサン・ロスが挙げられる。
ブロークン・シリコン(Broken Silicon)
The Broken Silicon Podcast
「ブロークン・シリコン」は、半導体業界の最新動向、インタビュー、スクープを提供する番組。
ホストはダンとトムの兄弟(番組内ではファーストネームのみ)。ダンの本職は機械系エンジニア、トムは遺伝学が専門のサイエンティスト。
チップアーキテクチャ(基本設計)の違いなど専門家水準のテクニカルな話を基礎的なレベルに落とし込むのがダンとトムの腕の見せどころ。
週1回の更新で、業界の最新動向を紹介する「ニュース・エピソード」を二人が交替で担当。数週間に1度、業界関係者をゲストに招いてテーマを絞ったディスカッションを行う。
インタビューも特徴的だ。
匿名の米政府エンジニアが登場してロシア・ウクライナ戦争のサプライチェーンへの影響を議論したり、オキュラス(Oculus)のエンジニアがグラフィックカードの性能が仮想現実(VR)をどう変えるか語ったり、弁護士がエヌビディア(Nvidia)のアーム(Arm)買収を阻んだ競争規制について語ったり、グローバルファウンドリーズ(GlobalFoundaries)とマイクロン(Micron)の経営幹部が出演したり。
さらには、グーグル(Google)のような巨大テック企業やプレイステーション、Xbox(エックスボックス)の現役エンジニアが匿名でゲスト参加したり、ときにウワサ話も織り交ぜながら、ニュースやコメントを分かりやすく噛み砕き、しかも示唆あふれる内容になっている。
メイキングチップス(MakingChips)
MakingChips
「メイキングチップス」は、サプライチェーンと製造業に特化した番組。
ジム・カー、ジェイソン・ゼンガー、ニック・ゲルナーという3人の共同ホストはいずれも、数世代にわたって製造業をけん引してきた老舗企業の経営幹部。
カーは1972年に父親が創業したカー・マシン&ツール(Carr Machine&Tool)の二代目社長、ゼンガーは1951年に祖父が創業したゼンガーズ(Zengers)の三代目社長、ゲルナーは1950年創業のヘニッグ(Hennig)のバイスプレジデント。
最新のトレンドやニュースを紹介したり、プロフェッショナル向けのキャリアアドバイスをテーマに3人で議論したりする。
この番組は半導体そのものと言うより、製造業全般に焦点をあてた内容で、半導体不足をめぐる複雑な状況を理解したい人におすすめしたい内容だ。
ジ・アーム・ポッドキャスト(The Arm Podcast)
Arm/The Arm Podcast
「ジ・アーム・ポッドキャスト」は、英半導体設計大手アーム(Arm)の内情を垣間見ることのできる番組だ。
計画中の新規株式公開(IPO)で最低600億ドルの評価額を目指している(ブルームバーグ、3月24日付)とされる英半導体設計大手アーム(Arm)。
アップル(Apple)のiPhoneや自社開発の「M1チップ」以降を搭載するMac、アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services)の新型クラウド向けプロセッサ「Graviton(グラヴィトン)3」など、巨大テクノロジー企業にアーキテクチャを提供する同社の内情を垣間見ることができる。
ホストはコンサルタントのジェフ・ウィールライトと開発者のビル・シッケンス。交替でアームの経営幹部やプロジェクトリーダーにインタビューし、半導体業界の最新動向やキャリアアップを目指す人へのアドバイスなどを届ける。
セミコンダクター・インサイダーズ(Semiconductor Insiders)
Semiwiki.com Podcast
「セミコンダクター・インサイダーズ」は、半導体業界のプロフェッショナル向けオンラインフォーラム「Semiwiki.com(セミウィキ・ドットコム)」の主催者で、マーケティングおよびビジネス開発歴40年超のベテラン、ダニエル・ネンニが番組ホスト。
一つひとつのエピソードは10数分と短く、エンジニアやセールスなど半導体業界のさまざまな領域で働くプロフェッショナルへのインタビュー中心。市場動向に関するニュースからテクニカルなエピソードまで、どっぷり浸かりたい人におすすめ。
ザ・ムーア・ユー・ノウ(The Moore You Know)
Edwards Vacuum
「ザ・ムーア・ユー・ノウ」は、半導体の製造プロセスで使われる真空ポンプ・真空装置を開発販売する英エドワーズ・バキューム(Edwards Vacuum)の提供番組。
同社のマーケティング・コミュニケーション部門責任者で、エンジニアやプロジェクトアナリストとして25年超活躍してきたスチュワート・デイビッドソンがホスト役を務める。
気候危機やサプライチェーン問題など、半導体製造が直面する課題に特化した内容。
半導体製造装置分野のプロフェッショナルをゲストに招いて舞台裏の話を聞くことで、業界の各企業が気候変動問題やサステナビリティをいかに重視して半導体チップ製造を行っているか理解を深めることができる。
サーキットトーク(Circuit Talk)
MITRE Engenuity
インタビュー番組「サーキット・トーク」は、米連邦政府も資金を拠出する非営利の研究開発組織マイター(Mitre)の提供で、半導体に関する幅広いトピックをカバーする。
ホストはビッグネーム、元大統領副補佐官(国家安全保障担当)のナディア・シャドロー(現ハドソン研究所上級研究員)と米国家経済会議(NEC)および米国家安全保障会議(NSC)で活躍したパブニート・シン。
アカデミア、モバイルコンピューティング、セキュリティのプロフェッショナルをゲストに迎え、ゲストの専門領域に半導体産業がどう関わり、将来の成長にどんな影響を及ぼすのか、インサイトを引き出す。
ザ・カレント(The Current)
Future Electronics
「ザ・カレント」のホストを務めるトッド・ベイカーは、半導体分野で20年以上活躍してきたベテラン。現在はカナダの半導体・電子部品商社フューチャー・エレクトロニクス(Future Electronics)のバイスプレジデント(先進エンジニアリング担当)。
番組では、半導体をめぐる複雑難解なトピックやトレンドを噛み砕いて分かりやすく解説する。配信済みエピソードのテーマは、モバイル向けチップセット、ボード、組み込みシステムなど多岐にわたる。
(翻訳・編集:川村力)