広告主の支出シェアを急速に伸ばしているTikTok。メタやスナップもその存在を「脅威」と認めざるを得ないほどの勢いだ。
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2019年10月、Snapchatを運営するスナップ(Snap)のエヴァン・シュピーゲルCEOは、TikTokは敵か味方かと問われた際、後者だと答えた。
「我々は間違いなく彼らを味方だと思っています」と、シュピーゲルは同社の2019年第3四半期決算説明会で投資家に語っている。
「彼らは開発者パートナーであり、開発者ツール『Snap Kit』を通じた広告パートナーでもあります。そして、ここが一番重要なんですが、彼らが自らのコミュニティに提供している価値は、我々が我々のコミュニティに提供する価値とはまったくの別物です」
だが今、シュピーゲルはもはやTikTokにそれほどの親愛は寄せていないに違いない。
先日スナップが発表した第2四半期決算の収益は惨憺たるもので、広告支出の低迷を示していた。と同時に、市場シェアを増やし続けているTikTokが、より老舗のソーシャルメディアのライバルに大打撃を与えていることも物語るものだった。
スナップをはじめとする大手テック企業は、アップルのプライバシー保護強化の変更に加え、経済の不確実性、サプライチェーンの混乱、ウクライナ戦争の影響の矢面に立たされていると感じている。
しかし不調の原因はそれだけでなく、バイトダンス(ByteDance)が運営するTikTokにもあるという見方が強まっている。Facebookを運営するメタ(Meta)やスナップは、先ごろの決算報告でTikTokの脅威を認めたほどだ。
Insider Intelligenceは、TikTokをFacebookとInstagramに次ぐ第3のソーシャルプラットフォームと位置づけており、TikTok のデジタル広告収入は、2022年に前年比3倍の約120億ドル(約1兆5900億円、1ドル=133円換算)に達して市場の1.9%を占めると予測している。これはTwitterとSnapchatの合計を上回る規模だ。
ハーグリーブス・ランズダウン(Hargreaves Lansdown)の株式アナリスト、ローラ・ホイ(Laura Hoy)は米Yahoo!ファイナンスに対して「ソーシャルメディア大手はどこもTikTokを問題だと思っています」と語っている。
「TikTokは同じ空間で同じことをやっています。だから問題なんです。人は気まぐれで、関心がどれだけ早く移り変わるかは誰にも分かりませんからね」(ホイ)
TikTokの成長は、すべてのプラットフォームに等しく影響を与えているわけではない。TikTokの動画プラットフォームは、スナップのメッセージングアプリよりYouTubeのようなソーシャルエンターテインメントアプリとより直接的に競合している。しかし広告費に関しては、誰もが同じパイを奪い合っている。
「Snapchatの利用がTikTokの利用に影響されないという点では、シュピーゲルたちの見解は正しかったと言えます」と、Insiderの取材に応じたライトシェド・パートナーズ(LightShed Partners)の共同創業者リッチ・グリーンフィールド(Rich Greenfield)は切り出し、こう続ける。
「問題は、広告費獲得競争が実に激しく、おそらく想像を絶する激しさだったということ。彼ら(スナップ)はいま、メタやYouTubeなどあらゆるサービスに圧力をかけているTikTokという広告の怪物と戦っているわけです」(グリーンフィールド)
スナップら企業も後れまいと日々イノベーションを行っているものの、経済の減速がそこに水を差すおそれがある。一方、TikTokは他社の機能をコピーするのが実に速い。
デジタル大手の四半期決算は今後数週間のうちに出揃うが、TikTokの影響がすでにどう現れているかを紹介しよう。
スナップ
スナップは第2四半期に期待を下回る収益を計上し、株価は25%下落した。また、需要の減速に伴い新たな採用を凍結すると発表したことで、TikTokに取って代わられるのではないかというアナリストの懸念を高めた。
スナップのCFO(最高財務責任者)であるデレク・アンダーソン(Derek Anderson)は、決算説明会でのアナリストとの質疑応答でTikTokの影響を認め、「TikTokであれ同じ分野の大手プレイヤーであれ、競争は激化する一方だ」と述べている。
特にスナップはZ世代をユーザー基盤としているため、同じ層から急速に人気を得ているTikTokに対しては脆弱だ。フォレスター・リサーチの調査によると、TikTokには中毒性もある。インターネットを利用するアメリカの18~25歳の42%がTikTokに中毒性があると考えているのに対し、Snapchatについては21%にとどまっている。
また、Insider Intelligenceの首席アナリスト、ジャスミン・エンバーグ(Jasmine Enberg)は、スナップは以前は純粋なコミュニケーションアプリだったが、コンテンツ作成機能である「Spotlight」が成長したことで、TikTokの領域での存在感が増してきたと述べている。
メタ
TikTokは、Facebookを運営するメタにとっても懸念材料になっている。メタは今年、主力のプロダクトのいくつかに手を加えることで対応しており、直近ではTikTokと競合する短尺動画作成機能「リール」をFacebookとInstagramの両方のユーザー向けに前面に押し出し、短尺動画フィードへのエンゲージメントを高めようという狙いのようだ。
ユーザーはSnapchatばかりか、FacebookやInstagramも捨ててTikTokに流れている。アプリ分析プラットフォーム「Data.ai」によると、TikTokのユーザーあたりの月間利用時間は前年同月比で40%増え、2020年第1四半期比では140%増となり、第1四半期にはFacebookとInstagramのそれを上回った。
「大成功を収めたTikTokから機能をコピー&ペーストすることはできても、賑わっているTikTokコミュニティやTikTokクリエイターコミュニティをコピー&ペーストすることはできません。こうしたものは投資を続けて強化する必要がありますから」
と、フォレスター・リサーチのバイスプレジデントで、リサーチディレクターのマイク・プルー(Mike Proulx)は話す。
メタの経営幹部はTikTokの成長を認めている。マーク・ザッカーバーグCEOは、今年2月に行われたメタの2021年第4四半期決算説明会で、「時間をどう使うか、選択肢はいくらでもある。TikTokのようなアプリは急成長している」と述べている。
同社のシェリル・サンドバーグCOOは、7月27日の第2四半期決算説明会で、メタがTikTokに広告シェアを奪われているかどうかを尋ねられ、「当社を取り巻く広告市場は実に競争が激しい。広告主はオフラインとオンラインの両方で広告出稿の幅広い機会を持っており、ほとんど無限の選択肢がある」と答えている。
メタの経営幹部はリールの成長を指摘し、いま同社で最も急成長しているコンテンツフォーマットだと述べている。
YouTube
グーグル傘下のYouTubeは、コロナのパンデミック初期には外出制限の恩恵を受けたものの、直近の2四半期は失速している。バーンスタイン(Bernstein)はリサーチノートに、「(YouTubeは)TikTokや(Netflixやディズニーなどの)幅広い広告対応動画サービスとの競争による、大きな直接的脅威に直面している」と書いている。
TikTokは利用時間ですでにYouTubeを追い抜いている。アプリ分析のアップアニー(App Annie)によると、ユーザーの月平均利用時間はYouTubeの23.2時間に対し、TikTokは23.6時間となっている。
YouTubeは短編動画「YouTubeショート」を導入しており、再生回数は1日平均300億回以上と、1年前の4倍になっていることを明らかにしている。
しかし、YouTubeのショートもメタのリールも、大規模な広告支出を正当化できるほどにはユーザーの強い関心を得ていない、というのが一部の広告バイヤー評だ。
(編集・常盤亜由子)