Luupの電動キックボード。
撮影:山口ひかり
短距離の移動で小回りが効く利便性を求め、都市部を中心に「電動キックボード」の利用が進んでいる。
新しい交通インフラとしての期待される一方で、 安全面への懸念や、利用者の交通ルールに対する理解不足からの交通トラブルもたびたび報じられている。
2022年4月には、最高速度が時速20キロ以下の電動キックボードについて、 16歳以上は運転免許がなくても乗れるとする改正道路交通法が成立。 2年以内に施行される予定だ。
ユーザーが拡大する中で、適切なルールの周知や安全面の取り組みが課題とされている。
7月28日、弁護士ドットコムは、 弁護士ドットコムの一般会員1380名を対象に実施した、 電動キックボードに関する実態・意識調査の結果を発表した(調査期間:2022年6月15日〜6月21日、1都3県の在住者が49.3%)。
調査結果からは、普及が加速し始めた電動キックボードの課題が、改めて浮き彫りになった。
電動キックボード、利用経験者は1割程度
電動キックボードの利用経験があるのは1割程度。
出典:弁護士ドットコム株式会社
シェアリングサービスの普及や、道路交通法の改正など、電動キックボードの認知度は確実に高まっている。弁護士ドットコムのアンケートでも、認知度は9割を超えていた。
一方で、電動キックボードを実際に利用したことがある人は1割程度にとどまっている。
認知度と利用実態に大きな乖離があるのが現状だ。
6割が電動キックボード運転中に危険を感じていた。
出典:弁護士ドットコム株式会社
また、利用経験がある人のうち約6割が電動キックボードでの走行中に「危険を感じた瞬間ある」と回答している。
アンケートの中では、「歩行者や自転車、 車などと接触しそうになった」「思った以上にスピードが出るものの、 段差や隙間の影響を強く受けるため転倒しそうになる」、 「急ブレーキでバランスが保てなくなる」と、既存の交通環境の中に新しいモビリティを導入する難しさのほか、運転しなれない車両に乗ることに対する安全面への懸念がみられた。
また、利用経験がない人からも、「車を運転する側からみると怖い」などの公道走行に関する懸念の声も上がっていた。
「飲酒運転NG」約4割が知らない
飲酒運転が禁止と知っている人は6割程。
出典:弁護士ドットコム株式会社
シェアリングサービスの普及に伴い、都心の繁華街などを含めて、さまざまな場所で手軽に利用できるようになってきた一方で、昨今では電動キックボードの飲酒運転によるトラブルも散見されている。
飲み会などで終電を逃してしまったあとに、タクシーに代わる移動手段として、電動キックボードが利用されているのだ。
弁護士ドットコムのアンケートで、電動キックボードでの飲酒運転が禁止されていることを知っているかどうかを尋ねたところ、 回答者の4割弱が「知らない」と回答した。 電動キックボードの利用経験者に限って同じ質問をしても、 23.5%が「知らない」と回答しており、 交通ルールの周知徹底が課題といえる。
電動キックボードの利用経験者でも、2割以上が飲酒運転が禁止だということを知らないと回答していた。
出典:弁護士ドットコム株式会社
交通事故事件に詳しい平岡将人弁護士は「『飲酒運転が禁止』を知らない人が多いことに驚きました。 飲酒をしたら、 自動車はもとより、 自転車も電動キックボードもダメです」 と驚いた上で、今後取り組むべき課題を示した。
「利便性や技術革新のために、国家が新しい移動手段を許可するということは、新しい『危険』を許可するのと同じだということです。事故をゼロにするのは難しいですが、必ず起きる事故に着目した制度設計をきちんとするのが国家の義務だと考えています」(平岡弁護士・弁護士ドットコム プレスリリース参照)
業界最大手Luupは「対策強化」進める
Luupでは、たびたび安全講習なども実施している。
撮影:三ツ村 崇志
Business Insider Japanでは、都内を中心に電動キックボードのシェアリングサービスを展開するLuupに、安全面への課題感や飲酒運転などのルール遵守に向けた取り組みについて質問状を送付。Luupの広報は、電動キックボードの安全性について「他の二輪モビリティと同様に、乗りこなすためには一定のバランス感覚は必要です」と、操作性についての難しさはあるとしながら、安全対策も進めていると話す。
「対策としてLuupは安定性と堅牢性を向上させるための(機体の)アップデートをこれまでに11回重ねてきました。
電動キックボードは車輪が小径であることについての懸念がよく挙げられますが、LUUPは車両アップデート時にタイヤサイズを少しずつ上げております。サービス開始前の実証実験時は8インチのタイヤの車両を用いておりましたが、シェアリングサービスで提供している車両は、10インチのタイヤを採用しております」(Luup広報)
そのほかにも、機体の安定性を高めるためにサイズ感の調整やスタンドの強度向上、サスペンションの改良なども進めている。
また、飲酒運転についても、「警察による取り締まりの結果、一部の悪質な利用者による飲酒運転等の違反があるのは把握しており、大変重く受け止めています」と、Luup利用者の中でも違反事例があったと話す。
Luupのアプリを開くと、飲酒運転に関する注意喚起が表示されている。
撮影:三ツ村崇志
Luupでは、警察と連携の上で、飲酒運転などの重大な違反行為が確認された利用者については、これまでもアカウント停止措置をとっていた。
これに加えて、今年6月末からは「交通ルールテストの更新」や「 利用時の注意喚起画面のアップデート」「 警察による啓発活動や取締りへの協力」といったルールの周知や取締への協力といった対策を強化している。
とりわけ、飲酒運転に対しては「 繁華街における一部ポートの利用制限」(8月末まで)も実施しているという。
未利用者の半数近くが「今後利用してみたい」に「ノー」
また、弁護士ドットコムの調査では、これからさらにサービスを拡大する上での大きな課題も見て取れた。電動キックボードの利用経験がない人に対して、今後の利用希望を調査したところ、約半数が今後も利用を希望しないと回答していた。
その最も大きな理由は「危ないから」。それに次いで多くの人から回答があったのは、「そのほかの乗り物で事足りるから」という回答だった。
出典:弁護士ドットコム株式会社
マイクロモビリティが「交通インフラ」になるには、安全面での対策や、交通ルールを遵守してもらえるような対策を進めることはもちろんのこと、既存の交通インフラで十分だという人に、どれだけその魅力を伝えられるかが、引き続き重要になる。
(文・山口ひかり、編集・三ツ村崇志)