KDDIの髙橋誠社長。
撮影:小山安博
7月2日から4日にかけて発生したKDDIの大規模通信障害に対して、KDDIはお詫びとして約3589万人のユーザーに対して、一律200円の返金をするなどの対応を発表した。
同時に再発防止策を取りまとめ、さらなる信頼性の高いネットワークの構築を目指す考えを示した。
この記事では、「一律200円返金」施策の根拠と、新たに判明した大規模通信障害のメカニズムを説明する。
約3589万人に実施する「一律200円」などの返金
大規模通信障害にまつわる返金施策は、「対象者全員への200円の返金」と「音声サービスのみを契約していた271万人に、基本料金を2日間分返金」という大きく2つの返金がある。
約款に基づく返金(約款返金)と、お詫び返金の2種類を実施する。
撮影:小山安博
返金のスケジュール。対象のユーザーに、順次SMSで案内をする。
撮影:小山安博
まず「対象者全員への200円の返金」の位置づけだが、KDDIの髙橋誠社長は、「本件の重大性や影響の大きさを真摯に受け止め」(髙橋社長)、約款返金対象外の契約者にもお詫びとして支払うと説明した。
さらに「音声サービスのみを契約していた271万人に、基本料金を2日間分返金」については、KDDIの約款と関係がある。
KDDIの約款では、「24時間以上連続して通信サービスを利用できなかった、または利用できない状態と同程度の状態だった場合に返金する」と定めており、その約款に従って、「音声サービスのみを契約していた」回線に対して返金を決めた。
今回は丸3日(62時間)には達しなかったため、契約している料金プランの基本使用料などから2日相当分を返金する形だ。
ただ、厳密には該当月の月額料金から割り引く「減算」の形で返金する。
なお、KDDIによると、今回の返金(減算)費用は、対象者約3589万人への返金となるため、全体で約73億円の費用になると説明している。
多額のコストとなるが、髙橋社長は「経営努力でカバーする」とし、売上増やコスト削減で73億円を捻出し、今後の業績予想は変更しないという。
「一律200円返金」の根拠は何か
お詫びで深く頭を下げるKDDIの経営幹部。左が吉村和幸専務、右は髙橋誠社長。
撮影:小山安博
61時間25分に及ぶ大規模通信障害の「お詫び」がなぜ200円だったのか、と考える人もいるかもしれない。
これにはKDDIなりの根拠がある。
KDDIの約款に基づき返金する必要のある271万人について、KDDIでは日割り返金が平均52円と算出。これを3日分とし(=約156円)、お詫びの意味を込めて幅広い対象者に200円の返金、とした。
なお、povo2.0の契約者に関しては、基本料金が0円のため、3日間1GBのトッピング(通常提供されているトッピングは7日間1GBで390円)を提供する形でのお詫び対応をとる。
過去には「700円」返金したことも……
ちなみに、2013年にKDDIが障害を発生させたときは、データ通信が不通となり、約款に基づく返金の対象となる基本料金が高額だったため、返金額は700円に及んだ。
今回は音声が対象のために基準となる料金が低いことから、返金額が少なくなっているという。それでも、対象人数が多いため、総額は73億円と当時よりも大きな額となった。
髙橋誠社長は、改めて障害に対して謝罪するとともに、「全社を挙げて再発防止を徹底する。安心して利用してもらえる通信ネットワークを提供し、グループ全社一丸となって豊かなコミニュケーション社会の発展に貢献していく」と話す。
報告にまとめられた「意外な原因」
発端となったVoLTE交換機の輻輳が発生したのは、作業手順書を取り違えるというミスによるものだった。
撮影:小山安博
さらに、会見では通信障害より詳細な情報も判明している。これも、KDDIの大規模通信障害を考える上で興味深い。
通信障害は、そもそも東京・多摩にある全国中継網ルーターのメンテナンス作業を実施したことが始まりだった。
ルーター交換で1台を切り離す際に、もう1台にルーティングを設定したところ、実は使われた作業手順書が、「古いルーターの作業用の手順書」だったことが新たにわかった。
その結果、ルーターの経路が誤って設定され、上りの信号は通るものの、下りの信号は50%の確率で通らない(2回に1回は成功)という事象が発生、7月2日1時35分から15分間の通信断が発生した。
これが通信障害の発端にあたる。
障害は61時間以上に及び、全国3000万人以上が影響を受けた。
撮影:小山安博
この問題を解消するために、元通りに戻すための「作業の切り戻し」を実施したが、これによって大量の「再送」が発生し、多摩のVoLTE交換機に「輻輳(ふくそう)」が発生した。
さらに新たに公表されたのは、KDDIでは分散処理のために全国の拠点に同様の設備を備えており、結果としてこの輻輳が全国の拠点に波及することになった。
輻輳を解消するためにVoLTE交換機の再起動を図ったが、実はこの時、VoLTE交換機のバックアップファイルが一部破損していた。再起動後に破損したバックアップファイルが読み込まれ、結果として大量の不規則な信号を送出することになった。
この事象の判明に時間がかかったことで障害が長期化した。
原因を発見してVoLTE交換機18台のうち、問題の発生していた6台を切り離すことで過剰信号の送出が収まり、次第に輻輳が終息していった。
こうした複数のトラブルが絡み合った結果、7月2日1時35分から7月4日15時まで、61時間25分に及ぶ障害が発生した。音声通話ができないなどの影響を受けたのは約2278万人と推計され、データ通信の影響は765万人以上、合計で3000万人を超える大規模障害となった。
KDDIがとる「再発防止策」
ネットワークの安定性強化などを目指して対策会議を新たに設置する
撮影:小山安博
再発防止策として同社は、品質・サービス向上に向けた推進体制として、髙橋社長を責任者とする「通信基盤強化並びにお客様対応強化対策会議」を設置。作業品質強化、運用強化、設備強化、お客様対応強化の4つのワーキンググループを置く。
ネットワークの安定性強化などを目指して対策会議を新たに設置する
また、具体的な対応策として、
- 作業手順書の管理ルール
- 作業承認手法の見直し
- VoLTE交換機のより詳細な輻輳検知ツールの開発
- 輻輳発生時の復旧手順の見直し
などはすでに実施済みだという。9月末までにはユーザー目線の情報開示・適時適切な情報提供手法の拡充も実施する。
すでに実施済み、または今後実施する再発防止策。さらに総務省とも検証会議を行うため、その中で出た対策も順次実施していく。
撮影:小山安博
髙橋社長は「本来は防げた、防がなければいけなかったものだった」と指摘し、会社としての対策不足として、今後さらなる対策強化を実施することで、より強靱なネットワークの 確立と信頼の回復を図っていきたい考えだ。
(文・小山安博)