「霊感商法」の被害者救済に関わってきた、川井康雄弁護士(右)、山口広弁護士(中央)、紀藤正樹弁護士(左)。
撮影:西山里緒
安倍元首相の銃撃事件をめぐり、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と国会議員らの関係が取りざたされている。
7月29日、霊感商法の被害者支援に取り組む弁護士らが、東京・丸の内にある日本外国特派員協会で海外メディアに向けた記者会見を開いた。
会見では、被害者支援に長年携わってきた弁護士らが、安倍元首相をはじめとする政治家と統一教会の関係について言及した。
「旧統一教会と政治家のつながりは明らか」
「親が信者の場合、子どもがどんなに苦しむのか、そのことをぜひ理解してほしい。あの事件は、そのために苦しみ続けた山上徹也が、間違っていますけど、起こした事件だということはご理解いただきたい」(全国霊感商法対策弁護士連絡会 代表世話人・山口広氏)
会見資料によると、山上容疑者の母親が入信したのは1998年、自己破産したとされるのは2002年だ。
この期間は教会が特に苛烈な献金を強いていた時期と重なると、全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、全国弁連)の事務局長で弁護士の川井康雄氏は指摘する。
同資料によると2005年、安倍元首相はUPF(天宙平和連合、旧統一教会のダミー団体とされる)の行事に初めて祝電を送った。その後、2006年にも祝電を送付している。これを受けて全国弁連は安倍氏に公開質問状と抗議文を送ったが、いずれも回答はなかったという。
それ以降も全国弁連は、安倍元首相を含む政治家らに対して、旧統一教会からの支援を受けないよう、また教会や関連団体に対して祝辞を述べたりすることのないよう、繰り返し抗議してきた。
最も最近のものでは、安倍元首相が銃撃される約1年前の9月17日付でも抗議文を送っていた。安倍元首相がUPF主催のイベントに対して、基調講演(ビデオメッセージ)を送ったことに対する抗議だった。
安倍元首相の祖父・岸信介元首相と、旧統一教会の教祖である文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が握手する写真が掲載された本を手にする、山口広弁護士。
撮影:西山里緒
さらに会見では、第1次安倍政権が終わった後の2007年を皮切りに、違法な販売行為を行なっている統一教会関係会社への刑事摘発が相次いだと指摘。一方、2012年に第2次安倍政権が発足して以降に、そうした刑事摘発がなくなったことにも疑問を呈した。
「旧統一教会と政治家のつながりは(年表を見ると)明らかです」(川井氏)
川井氏は、旧統一教会の大きな問題の1つとして「正体を隠しての伝道活動」を挙げる。
これに拍車をかけたのが、2015年8月に文化庁によって承認された「統一教会」から「世界平和統一家庭連合」への名称変更だったとする。
全国弁連は2015年3月に、当時の文部科学大臣(下村博文・現衆議院議員)に対して、変更を受け入れないよう申入書を送っているが、結局、変更は承認された。
川井氏はこの経緯について、2012年の4月頃から下村氏が旧統一教会の関連団体で講演をしたり、関連誌にインタビュー記事が載ったりといった関係性があったことを指摘する。
なお下村氏は、Twitterで旧統一教会の名称変更に関する自身の関与について否定している。
しかし、文化庁文化部宗務課長を務めた際に名称変更を断ったという、元文科次官の前川喜平氏が「何らかの政治的圧力がなければ絶対に起きない」と証言するなど、下村氏の発言について疑問視する向きも強い。
すべての核となる活動で違法行為
献金、勧誘行為、「霊感商法」、合同結婚式といった、教会の核となるすべての行為で最高裁で違法判決が出ていると語る、紀藤正樹氏。
撮影:西山里緒
1980年代から霊感商法の被害者救済に関わってきた弁護士の山口広氏は、「統一教会は、単なる宗教団体ではない」と語る。
政治や言論、学術界などにも食い込むことで、「イリーガル(違法)なスピリチュアル・セールスなどの被害について、警察や行政が積極的に動かないように、圧力をかけてもらうことが重要なミッションになっている」と、山口氏は言う。
紀藤正樹弁護士は、過去の裁判事例を引きながら「統一教会の核となる、すべての活動について違法行為が最高裁まで確定している」という。
具体的には(霊感商法などによる)違法な献金運動、そして(入信への)勧誘行為、そして合同結婚に対する勧誘行為において被害者らが訴えた裁判だという。
「(これだけ裁判所の判例がありながら)それでもこの団体は不法な行為をやめません。また過去に被害を与えた人たちに対して謝罪やそれを償うということをしていません。(その事実を)今日はぜひ皆さんにご理解いただきたい」(紀藤氏)
山口氏はこう強調した。
「なぜ(被害者救済を)35年もやってきたかというと、被害者の皆さんがあまりにいい人たちだから。家族が不幸にならないように(中略)説得をされて、それを何とかするために献金をしている。そのあまりの悲惨さと、あまりにダーティーであることに、私自身、怒りを常に持ち続けてきた」
(取材、文・西山里緒)