米資産運用会社ブラウン・アドバイザリー(Brown Advisory)は「真の意味で」グローバル・リーダー企業と言える銘柄から構成されるファンドを運営する。画像はインドネシアの首都ジャカルタの市場の一風景。
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運用残高57億ドル(約7700億円)の米資産運用会社ブラウン・アドバイザリー(Brown Advisory)の運営する「グローバル・リーダーズ・ファンド」に組み込まれる銘柄は、巨大な時価総額や圧倒的な市場シェアではなく、企業の問題解決能力に応じて決められる。
同ファンドの運営を担う2人のポートフォリオマネージャー、ミック・ディロンとバーティ・トムソンは組み込み銘柄を選別する際、どの企業をグローバルリーダーとするかを自分たちの視点ではなく、資金を拠出する顧客の視点に立って検討するという。
「もしあなたが(数多くのスタッフの中で)顧客の抱える問題を一番良い形で解決できる人だとしたら、顧客はあなたをリーダーだと見なすようになるでしょう。そうなれば、あなたを頼って顧客はくり返し訪れるようになり、それがやがて大きなビジネスへとつながっていくのです。
月並みな表現で軽薄に聞こえるかもしれませんが、顧客がいなかったらビジネスは成り立たないのです」
グローバル・リーダーズ・ファンドには、最も配分額が大きい「マイクロソフト(Microsoft)」をはじめ、ディロンとトムソンが設定したいくつかの基準、すなわち競争優位性、強力な経営陣、価格決定力(プライシングパワー)、業界水準を上回るグロスマージン(売上総利益率)、高い投下資本利益率(ROIC)を体現する有名企業が組み込まれている。
上記のような基準を満たす銘柄を選ぼうとしたとき、「アルファベット(Alphabet)」「ロシュ(Roche)」「テンセント(Tencent)」「ユニリーバ(Unilever)」がトップ10入りすることにはおそらく何の驚きもないだろう。
30〜40もの銘柄を組み込んだポートフォリオ(現在は32銘柄を保有)を運営していると、取引が集中して混乱したり、いつの間にか割高な取引に入り込んだりしないのか、疑問に思う人もいるかもしれない。
ディロンはその点について、ファンドマネージャーにとってだけでなく、顧客の視点からも、バリュエーション(企業価値評価)は決定的に重要であることを強調した上で、価格と価値は区別して考える必要があると指摘する。
「誰もにとって、最初に比較のポイントになるのは確かに価格(株価)です。しかし、顧客のために本当に良い仕事をしていれば、顧客は(企業)価値に対してお金を支払うようになります」
ディロンは流通販売を引き合いに出す。
店舗の商品棚が空っぽになったパンデミック初期、供給不足によってトイレットペーパーや小麦粉が値上がりし、その本当の価値が可視化されたとき、多くの人が普段から在庫をストックしておく必要があると感じただろう。人々は価格より価値にお金を払うことで、価値が優先であることを認めたわけだ。
ブラウン・アドバイザリーはパンデミックを経て、以前は目標株価になかなか届かなかった分野への投資アイデアをいくつかつかんだ。
そのひとつが、最近注目のヘルスケア分野だ。
「ヘルスケア関連企業は本当の意味で人々の生活への貢献が大きく、当社としても非常に大きな関心を寄せてきましたが、バリュエーション(の低さ)の問題が常につきまとってきました。
それが理由で、ヘルスケア分野の投資判断はしばらくアンダーウェイト(組み入れ比率をベンチマークより少なくする)としてきたのですが、ここに来てようやく5年目の内部収益率(IRR、将来の収益性を示す)が2ケタになる企業が出てきており、とても興味深く思っているところです」
また、価格決定力と利益率の高さは、高インフレの現在こそなお求められるファンダメンタルズ(基礎的条件)だ。化粧品大手「エスティローダー(Estée Lauder)」はまさにそうした指標を体現する代表格と言える。
労働力不足に加え、原材料や賃金、物流コスト、ガソリン価格の上昇が、製造業や流通販売、消費のあらゆる面に打撃を与えるなか、ディロンとトムソンは、企業がそうしたコスト上昇を転嫁できるかどうかだけでなく、顧客がそうした負担に耐える余裕があるかどうかが問題だと考えている。
医療施設向けの抗菌塗料を製造する米塗料メーカーを例にとってみよう。
「誰かの問題を解決するという視点で考えてみましょう。さて、病院における最大のリスクは何でしょうか。(現在で言えば)再感染率です。だからこのメーカーの塗料は必要だと。
けれども、もしさらに製造コストが上がって、メーカーがそれを何とか顧客に転嫁しようとしたら、病院は本当にその分を負担できるでしょうか」
この塗料メーカーの存在は非常に興味深いものの、コスト上昇分を実際に顧客に転嫁できるかと言えば、その能力には限界があると言わざるを得ない。結果として、ブラウン・アドバイザリーのポートフォリオに相変わらずこの銘柄は組み込まれていない。
さらに、ディロンは需要の価格弾力性(の低さ)と売上総利益率(の高さ)の重要性を強調する。
エスティローダーについて言えば、売上総利益率は75%。言い換えれば、製造コストが10%(25%×0.1)上昇しても、2.5%を販売価格に転嫁できれば、売上原価をカバーできる。安いものに買い換える人はそれでも出てくるにせよ、少なくとも値上げ幅はそう極端に感じられないだろう。
「世間でガソリン価格が倍増しているときに、保湿クリームが例えば4%値上がりしたとして、どれだけの人がそれに気づくでしょうか」(ディロン)
グローバル・リーダーズ・ファンドには他に、「ビザ(Visa)」「マスターカード(Mastercard)」「ドイツ証券取引所(Deutsche Boerse)」など金融関連の銘柄(このセクター分類は無意味なことも多いとの議論もある)が組み込まれているが、特に「お気に入り」の銘柄を聞いてみると、ディロンからある名前が挙がった。
「グローバル・リーダーズ・ファンド」の運営を担当するポートフォリオマネージャー、ミック・ディロン。
Brown Advisory
低収入層および零細・中小企業向け融資を手がける「インドネシア庶民銀行(Bank Rakyat Indonesia)」がそれだ。
ディロンは同行への畏敬の念を包み隠さず明らかにしたものの、株価が適切と考えられる範囲を超えて動く可能性を踏まえて、夢中になりすぎないよう自制している模様だ。
そのため、インドネシア庶民銀行はファンドの設定当初からポートフォリオに含まれているが、2015年以降、価格変動のみを理由に売買が何度か繰り返されている。
「途轍(とてつ)もないビジネスなのです。インドネシアの地方村落でスモールビジネスを立ち上げるための運転資金融資を提供したり、首都ジャカルタの生鮮食品市場にキオスクを設置し、屋台の出店者たちから資金を集めて、バイク修理店を立ち上げる人たちに融資したり。
そうすることで、融資を受けた人は他の人たちの問題を解決するためにまとめて商品在庫を購入できるわけです。ESG(環境・社会・ガバナンス)、すなわち持続可能な世界を実現する企業の長期的成長を考えたとき、この取り組みはまさに将来の希望。
投資家の立場からすれば、同行が成長して利益を生み出しているのは本当に喜ばしいことです」
(翻訳・編集:川村力)