メキシコのトルカにある「Puro Gusto」のシェフでオーナーのラザロ・ゴンサレスさん。
Andrew Reiner for Insider
- 世界最大のアボカド生産国メキシコ。そのアボカド産業は30億ドル(約3900億円)規模だ。
- 2022年、さまざまな要素がインフレとアボカドの価格上昇につながった。
- Insiderでは、飲食店のオーナーらにその影響と対応を聞いた。
世界最大のアボカド生産国メキシコ。その産業は年間30億ドルを生み出すことから、アボカドは「オロ・ヴェルデ(緑の黄金)」とも呼ばれている。
ところがこのニックネームは、メキシコ人の日々の生活において"新たな皮肉"となっている。戦争やパンデミック、異常気象の影響で、その価格が高騰しているのだ。
「アボカドの価格があまりに高いので、客にとって日々の食事にアボカドを求めるのは贅沢になっています」とシェフのラザロ・ゴンサレスさんはInsiderに語った。
価格高騰
ゴンサレスさんはメキシコの首都メキシコシティの南西約40マイル(約64キロ)ほどにあるトルカの伝統的なメキシコ料理店「Puro Gusto」のオーナーだ。
アボカドは依然として「人気が高い」ものの、ここ半年は仕入れる量が減ったとゴンサレスさんは言う。
ゴンサレスさんによると、地元の市場で売られているアボカドの1キロ(約3個)あたりの価格は、2020年3月には50ペソ(約320円)だったが、今では125ペソと、2年あまりで250%値上がりしている。
メキシコのアボカドの輸出先。
農業コンサルティング会社Grupo Consultor de Mercados Agrícolasのデータは、アボカドの国内消費者価格はこの1年で165%上がったことを示している。アメリカ農務省のデータによると、メキシコが輸出するアボカドの80%を受け取っているアメリカでは、慣行栽培されたアボカドの6月の価格が前の年の同じ月に比べて31%上がった。
トルカにある「Puro Gusto」。メキシコシティからは約1時間ほどだ。
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価格高騰を受け、ゴンサレスさんの店ではアボカドを別料金で提供することにした。ただ、メキシコのインフレ率は21年ぶりの高水準となっていて、ゴンサレスさんの店の客も別料金を払う余裕がなかなかない。
環境的な要因
その一方で、アボカド生産者は燃料や肥料の高騰または不足にあえいでいる。メキシコは肥料の27%をウクライナに侵攻したロシアから買っていて、供給サイドが厳しくなっている。
6月にはこの季節としては珍しく「ひょう」を伴う嵐がメキシコ最大のアボカド生産地ミチョアカン州を襲い、メキシコ農務省によると、業界全体で9500万ドルの損失を出した。
アボカドの収穫は2年に1度なので、生産者らが損失を取り戻すには2024年まで待たなければならない。
メキシコの麻薬カルテルによる恐喝も、経費を押し上げていると生産者らはInsiderに語っている(カルテルの報復を恐れて、生産者らは匿名を望んだ)。
『ボストン・グローブ』によると、2月にはメキシコで勤務していたアメリカ農務省の職員が脅迫され、アメリカはミチョアカン州からのアボカドの輸入を8日間禁止した。
提供の難しさ
メキシコのレストラン協会は、会員が品不足と値上げの両方に苦しんでいると話している。
現状では、小規模レストランならアボカドの仕入れに毎月平均で1万8000ペソ払っている可能性があり、それが営業経費を押し上げていると同協会は語った。
「アボカドは他の食材では代わりが効かない、ユニークな食材なんです」とゴンサレスさんは言う。
そして、アボカドの賞味期限は短い。
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「アボカドは一度切ったら、その日のうちに食べてしまわなければなりません。すぐに酸化し、変色して、美味しくなくなってしまうんです」とゴンサレスさんは語った。
飲食店のオーナーの中には、こうした問題はアボカドに限らないと話す人たちもいる。
「この1カ月半で、アボカドだけでなく全てが値上がりしています」とメキシコシティにあるレストラン「Chilaquilito」のオーナー、セシ・モンドラゴンさんはInsiderに語った。
メキシコでは、消費者1人あたり平均して年間8キロ(約24個)のアボカドを食べている。ところが、価格が高騰したことで、消費者の行動にも変化が起きている。
「わたしはアボカドのスライスをサラダやサンドイッチ、トルタに入れて食べていました。でも、今はわたしも家族も食べる量を減らさなければなりません」とメキシコシティにあるハンバーガーレストランのオーナー、マリア・シルヴィアさんはInsiderに語った。
「(アボカドを)毎日食べていたのが懐かしいです」
[原文:Mexico is facing an avocado shortage due to war, the pandemic, inflation, and the climate crisis]
(翻訳、編集:山口佳美)