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- 社会階層を登っていくことに関して、さまざまなソーシャル・キャピタル(社会関係資本)が及ぼす影響を調べる研究が行われた。
- その結果、唯一の要因は、「富裕層と親しくなること」であることが明らかになった。
- これは、社会階層の異なる人同士が親しくなるための場所や仕組みづくりが重要であることを意味している。
より多く稼ぎたいなら、自分より裕福な友人を持つことが得策だ。ハーバード大学の経済学者、ラジ・チェティ(Raj Chetty)が手がけた2つの研究によると、富裕層と親しくなることは、経済的な地位を上昇させる上で重要な決め手になるという。
チェティのチームは、25歳から44歳のFacebookユーザー7220万人の社会的ネットワークを調査した。このとき、「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」を3つのカテゴリーに分類した。
1つ目は、低所得者が高所得者と、どの程度つながりをもっているかを評価するものだ。研究者たちはこれを「経済的なつながり(economic connectedness)」と呼んでいる。
2つ目は、「社会的結合(social cohesion)」と呼ばれるものだ。その人の友人グループが、小集団に分かれているか、またネットワーク内の友人が、互いに友人どうしであるかどうかを評価する。
3つ目の指標は「市民参加(civic engagement)」で、その人がボランティア団体などの市民組織に参加しているか、あるいはそれらを信頼しているかを評価する。
研究の結果、ソーシャル・キャピタルを評価するこれら3つの要素のうち、経済的地位の上昇と実際に関連付けられるのは、「社会経済的地位が高い人との交友関係」だけであることが明らかになった。実際、低所得層の子どもが、高所得層の子どもの住む地域と同じような経済的つながりのある地域で育った場合、将来の収入は平均20%増加するという。
この研究の背景には、長らくアメリカンドリームとみなされてきた経済的地位の上昇が、多くの人にとって、ますます手の届かないものとなっている現状がある。低所得者層が得た財産は、インフレによって帳消しにされつつある。特にアメリカでは、高額所得者ほど多くの株式を保有していることから、富裕層とそれ以外の人々の格差は広がるばかりだ。
社会経済的に恵まれた背景をもつ人は、低所得家庭の出身者と比べて、友達が多い傾向がある
研究によると、社会経済的地位の低い人と高い人の交友が盛んな地域で育った子どもは、そうでない子どもに比べて「上昇移動する確率がはるかに高い」という。
研究では、その一例としてミネソタ州ミネアポリスとインディアナ州インディアナポリスを比較している。ミネアポリスでは、社会経済的背景の低い人が高い人と交友をもつ割合が、インディアナポリスに比べてはるかに高い。そのためミネアポリスのほうが、低所得層の子どもが成人後に得る所得が高い。
35歳までで見ると、ミネアポリスの子どものほうが、より高い所得に達する。具体的には、ミネアポリスの子どもは2015年の価値で約3万4300ドル(現在の日本円で約460万円)稼いだのに対して、インディアナポリスの子どもは2万4700ドル(約330万円)だ。
これは、低所得者層の多い地域に住む人々にとって、単に低所得者層の地域に住むことだけが上昇移動を阻んでいるのではなく、高所得者層と交流し、親しくなる機会が少ないことも原因となっていることも意味している。
チェティは記者会見で「持ち家促進政策の変更や、子どもを同じ学校に通わせるためのバス政策、学区境界線の変更といった取り組みはいずれも、経済的つながりを高める上で大きな価値をもたらす可能性がある」と述べた。
「我々はそう考えているが、それだけでは十分ではない。たとえ、すべての学校、すべての地域などを完全に統合したとしても、低所得者と高所得者のあいだの社会的断絶は、なお半分が残されたままだ」
自分の経済的地位を高める、あるいは、自分の子どもたちにさらなる上昇移動をもたらすひとつの方法が、高い社会経済的背景をもつ人と交友することだとしたら、なぜそういう交友がもっと頻繁に起こらないのだろうか。研究によると、社会経済的地位が低い人は、自分の近辺、すなわち住んでいる界隈で友人を作る場合が多いという。
社会経済的背景の高い人は、大学で友人を作ることが多いが、大学は、多くの人にとって、特に最貧層のアメリカ人にとっては、アクセスしやすい環境ではない。所得レベルが下位25%以下の人々は、平均3万575ドル(約410万円)の学生ローンを抱えている。一部の高所得者よりは少ない額だが、収入に占める割合は、より大きい。
しかし、社会経済的背景の低いアメリカ人は、たとえ大学に入ったとしても、裕福な同級生と親しくなる確率が低い。研究チームはこのような傾向を、「友人作りバイアス(friending bias)」と呼んでいる。
このような友人関係の偏りは「単なる個人の好みというよりは、場所の構造によって決まるようだ。人々が交流する場が、最終的にどのような相手と交友関係をもつかを左右する部分が大きい」とチェティ氏は話す。例えば、教会などの宗教施設では、社会階層の垣根を越えて友情が育まれやすいという。
また学校では、生徒をレベル別にクラス分けする方法を見直すことも考えられる。レベル別に分けると、社会階層に沿ったものになりやすいからだ。また、空間そのものを見直すこともできるかもしれない。
「学校の構造を変えれば、子どもたちが文字通り、異なる背景をもつ子どもたちともっと接触したり、一緒に昼食を食べたりするように工夫することもできる」
その一方で、職業訓練など、上昇移動を目的とした、より伝統的なプログラムを念頭に置くことも重要だ、とチェティ氏は指摘する。
「成功しやすい伝統的なプログラムは、人々が、自分を助けてくれる相手とつながれるようなソーシャル・キャピタルの要素をもつ傾向がある。つまり、より良い仕事につながるアドバイスやネットワークを得られる環境だ。アメリカや他国において、どのような政策をつくるかについて、幅広い教訓が得られると思う」
[原文:If you want to get rich, make rich friends, a Harvard economist found in 2 new studies]
(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)