shutterstock/Erika Cristina Manno
最近「FIRE」という言葉をよく耳にするようになった、と感じている人は多いのではないだろうか。
「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」は直訳すると「経済的自由、早期退職」を意味する。「Fire」は通常「クビにする」という意味を持つ英単語だが、「FIRE」は、早くから貯蓄と投資を通じて経済的な余裕を持つことにより、自分自身で退職のタイミングをコントロールすることを目指す。
「FIRE」は2010年代から、主にアメリカのミレニアル世代を中心に大きな注目を集めていたが、近年日本でもこうしたライフスタイルを標榜する若者が増えている。Business Insider Japanの読者の中にも「FIRE」を目指している者もいるかもしれない。
そこで、「FIRE」の基本的な考え方から日本の状況まで、自分自身の将来や退職、投資について考える上でヒントになる記事を紹介する。
株式を通じたFIRE
グラント・サバティエ氏は、125万ドル(約1.6億円)を手に30歳でリタイアした。
Grant Sabatier
まずは、ある意味オーソドックスとも言える「FIRE」の事例を紹介する。
アメリカ在住のグラント・サバティエ氏は、2010年の時点で貯金2ドル26セント、解雇されて無職の状態だった。しかし、「100万ドル(約1億3200万円、1ドル=132円換算)を貯めて早期退職する」と決意してから5年後の2015年にはその目標を達成し、30歳という若さで経済的自由を手にした。
再就職先のデジタルマーケティング会社でフルタイム・ワーカーとして働く一方、サバティエ氏が注力したのが株式投資だ。月収の大部分をインデックスファンドや個別銘柄への投資に回した。
個別銘柄としては、例えば2010年にアマゾンやアップルを、2012年にはフェイスブック(現メタ)の株式を購入している。言うまでもなく、3社はその後GAFAと呼ばれるテック界の巨人として君臨することになる。
しかし、これは誰にでも達成できる方法とは言い難い。伸びる企業を見定めるスキルと運の両方が求められるだろう。サバティエ氏も、株式投資を始める上では2010年という年が絶好のタイミングであったことを認めている。
とはいえ、サバティエ氏のマインドセットから学べることは多い。収入を徹底的に貯蓄や投資に回す点などは最たる例だ。
「早く始めることは、完璧な投資ができるまで待つことよりも重要です」
サバティエ氏による投資初心者へのアドバイスも併せ、踏まえておくべき事例と言えるだろう。
FIREではなくFIROという考え方
次に紹介するのは、不動産投資によって資産を得たエイブリー・ハイルブロン氏の事例だ。ハイルブロン氏は現在も保険会社でフルタイムのデータアナリストとして働く傍ら、いくつかの副業によって収入を得ており、その大部分は、3軒所有している不動産の家賃収入によるものだ。
2019年、当時24歳だったハイルブロン氏は不動産を初めて購入した。学生時代のアルバイトや本業の収入からの貯蓄を元に、不動産ネットワークイベントで知り合ったエージェントを通して物件を買い付けた。この物件にはさまざまな問題があったが、自身も住み込みながらリフォームをすることで克服していったという。
ハイルブロン氏は3つの不動産を所有し、2021年には10万ドル(約1320万円)以上の家賃収入を得た。
Courtesy of Avery Heilbron
その後2軒目を購入し、現在は所有している5戸を満室で経営し、3軒目を改装中だという。ハイルブロン氏は2021年時点で合計21万ドル(約2751万円)の収入を得ている。内訳は以下の通りだ。
- 本業:9万5000ドル(約1254万円)
- 不動産:10万6000ドル(約1399万円)
- その他副業:9000ドル(約118万円)
不動産とその他副業だけで11万5000ドル(約1518万円)もの収入を得ており、現時点でも本業を辞めることは可能な状態だ。だがハイルブロン氏は、当面退職をする予定はない、と語る。ハイルブロン氏が理想とするのは、「FIRE」ではなく「FIRO」という考え方だからだ。
「FIRO(Financial Independence, Retire Optional)」とは、「経済的自由、選択的退職」のことを指す。つまり、「本業はあるが、いつでも退職できる」という選択肢を常に持つことを目指すライフスタイルだ。
ハイルブロン氏がFIREではなくFIROを目指す理由や、自身がそれを達成する上で最も重要だと学んだことについては、ぜひ記事を読んでほしい。
日本の若者世代に存在するFIRO的マインド
FIREやFIROへの注目の高まりは、欧米に限ったことではない。日本においてもFIREはブームとなり、ミレニアル世代・Z世代を中心に熱い視線を集めている。
これから紹介する記事では、若い世代のFIREへの憧れに対して、上の世代からよくぶつけられる、「若いうちに仕事辞めてもつまんないよ」という指摘(「横槍」とも言える)を出発点にしている。
実際にFIREを成功させることは難しく、多くの人々にとっては「手が届きそうで届かない夢物語」かもしれない。そしてそれは、FIREに憧れるミレニアル世代・Z世代もおそらく分かっているのだ。
だが、若い世代も「早く仕事を辞めて遊び呆けたい」と思ってFIREを目指している訳ではない。むしろ、そういった認識は「あまりにも解像度が低い」と、以下に紹介する記事の筆者、りょかち氏は看破する。
では、なぜミレニアル世代・Z世代はそれでもFIREを目指すのだろうか。一つの理由として、「経済的事情を乗り越えられるならばすぐにでも挑戦したい」ライフワークの存在を著者は指摘している。
経済的事情で、本当に時間をかけて取り組みたいことを後回しにせざるを得ない人の存在を著者は指摘する。
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裏を返せば彼ら・彼女らは、生活費のために、利益を短期間で得られる仕事に追われている、とも言えるという。その背景には、不安定なキャリアを追求せざるを得ず、「降りることができない」現代日本の労働市場の問題点があると分析する。
現代の日本の若者の横顔を覗くなら、チェックしてほしい一本だ。
経済的自由を目指す上での必読書2冊
ルドミア・ワノット氏は、不動産投資を行いながら、起業家として不動産仲介事業も行っている。
Ludomir Wanot
ここまで「FIRE」や「FIRO」の事例、日本で「憧れられる」背景などを見てきた。ではこのようなライフスタイルを目指す上で、どのような背景知識が必要なのだろうか。
最後に紹介する記事に登場するルドミア・ワノット氏は、30歳で経済的な自由を手に入れた人物だ。経済的に苦しいシングルマザーのもとで育った彼は、15歳の時に初めて自力でビジネスを行って以来、「富の築き方」について探求し、現在では毎年5万ドル(約660万円)ほどの不動産収入を得ている。
「学ぶことと稼ぐことは間違いなく直接的な相関関係があります」と語るワノット氏は、不動産投資を始める際も、手に入る限りの関連書を1年かけて読み漁ったという。その中でも特に役立ったと語るのが、以下の2冊だ。
- ロバート・キヨサキ『金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学(Rich Dad Poor Dad)』(1997年刊)
- ジョージ・S・クレイソン『バビロンの大金持ち(The Richest Man In Babylon)』(1926年刊)
これらの2冊からワノット氏は、「ある教訓」を得たと語る。それが、収入の一部を貯蓄に回し、貯め込むのでなく、投資に回すということだ。
一つ前の記事では「手が届きそうで届かない夢物語」とも言われていたFIRE。だが、それを目指して株式や不動産のポートフォリオを作っていけば、ライフスタイルを変えることも夢ではないのかもしれない。