Zホールディングスの代表取締役社長 Co-CEOの川邊健太郎氏(写真左)と代表取締役 Co-CEOの出澤剛氏。(写真は2021年3月撮影)
撮影:竹井俊晴
ヤフーやLINEを傘下に持つZホールディングス(以下、ZHD)は8月3日、2022年度 第1四半期決算説明会を開催した。
会見の中では、ソフトバンクと共に7月28日に連結子会社化を発表した「PayPay」、そして傘下の「LINE」「ヤフー」の今後の方向性について、ZHD 代表取締役社長Co-CEOの川邊健太郎氏が説明した。
3ブランドが連携する主要な計画や取り組みは以下の通り。
- PayPayとLINEのポイント統合
- PayPayとLINE、ヤフーのID連携(2023年以降)
- LINEのブロックチェーン子会社・LINE Xenesisと連携し、PayPay内で仮想通貨(暗号資産)の購入、PayPay加盟店で仮想通貨での決済が可能に
- PayPayポイント運用に「暗号資産コース」の追加を検討
- PayPayのミニアプリとして、LINEの「NFT Market」を追加予定
ヤフー、PayPay、LINEのID連携は2023年へ
LINEとPayPayのシナジーを強化。
出典:Zホールディングス
ユーザーにとって大きな変化が起きるのは「IDの連携」および「PayPay上の機能追加」だろう。
ID連携については、PayPayにある「PayPay ID」、ヤフーの「Yahoo! JAPAN ID」、そしてLINEの「LINE ID」と、今は別々にあるものを接続していこうという動きだ。
現時点でもPayPay IDとYahoo! JAPAN IDは連携可能だ。「Yahoo!ショッピング」などでPayPay残高やポイントが使えたり、PayPayのロイヤリティプログラム「PayPay STEP」のメリットがある。
一方LINEでは、LINE Payのユーザー読み取り式のコード決済においてQRコードの仕様を統一したり、ソーシャルギフトの「LINEギフト」においてPayPay決済を可能にするなどの連携はしているが、本格的なID連携は未実装となる。
ZホールディングスとソフトバンクはPayPayへの投資をより効率化させていく。
出典:Zホールディングス
LINEの月間アクティブユーザー数は約9200万人、一方PayPayの累計登録者数は約4865万人(いずれも2022年6月末時点)と依然ユーザー規模はLINEの方が多い。両サービスの連携によって「LINEは使っているけど、PayPayは使っていない」ユーザーを自社の経済圏に取り込んでいきたい考えだ。
また、Zホールディングスと通信事業会社ソフトバンクの両社は、今回の会見に先んじて7月27日に、PayPayの連結子会社化を発表している。
この動きに関して川邊氏は「従来はお互いに(資金を)持ち寄り、各々が投資をしていたが、(今後は)シナジー最大化の構えを構築する。(ソフトバンクと)意見を合わせた上で投資をしていく」とコメントしている。
PayPayが名実ともに金融の中心に
金融事業はPayPayを中心にシステムを構築する。
出典:Zホールディングス
ZHDが直近で注力しているのがクレジットカード事業だ。
ZHDのカード事業「PayPayカード株式会社(旧ワイジェイカード)」は、クレジットカード決済に関する加盟店契約の締結や契約締結後の管理業務(アクワイアリング事業)をヤフーから10月1日に継承する予定だ。さらに、PayPayカード自体が決済事業のPayPay株式会社の100%子会社となる。
これはヤフーが取り組むEC事業に加え、カード、銀行といった分野で最大のライバルと言える楽天を意識した動きだ。
例えば、楽天は楽天カードの累計発行枚数を約2600万枚(2022年4月)、楽天銀行の口座数は1230万(2022年3月末)としているが、ZHD陣営は(前身のYahoo! JAPANカードを含めた)PayPayカードの有効会員数が868万人、PayPay銀行の口座数は622万と、カウント方法に差異はあれどかなり差がある。
打倒・楽天への秘策はLINEブランドの新銀行
「LINE銀行」の名前は2回スライドに表示された。
出典:Zホールディングス
そこで、ZHDが期待を寄せているのがやはりLINEユーザーやそのブランドだ。ID連携などによってLINEが「ZHD経済圏の入り口」となる。
金融事業に関しては、よりユーザーの生活の根幹を狙うために「LINE銀行(仮)」の準備が進められている。
LINEの銀行事業への取り組みはすでに数年に渡っている。ZHD傘下になる前の2018年11月、「LINE Bank構想」が発表された。みずほフィナンシャルグループと共に2020年の開業を目指して準備会社が設立された。
その後時は流れて、ZHDとの経営統合直前の2021年2月、LINE Financialとみずほ銀行から準備会社へ120億円の追加出資を発表。当時のリリースでは「2022年度中の新銀行設立」を発表していた。
8月3日の会見ではその方針について特に更新はなかったが、スライド上ではPayPayを取り巻く金融サービスとして「LINE銀行(開業予定)」と記載している。
すでにZHD傘下のPayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)に加えて、新銀行を設立する意図について川邊氏は、「異なる金融体験」と「異なるユーザー層」をあげる。
「我々は元となるサービスがあってから、その上で決済の花を開かせてきた。PayPay銀行は(遡れば)ヤフーオークションが元となるサービスで、(LINEとは)ユーザー体験が異なる。
違うユーザーがいるものに対しては、異なるユーザー体験を実現する必要がある」(川邊氏)
ZHD傘下にもかつて仮想通貨取引所の「TAOTAO」があったが、2020年10月にSBIホールディングスへ譲渡。今回のPayPayの仮想通貨関連機能は、LINE傘下のLINE Xenesisが提供する。
出典:Zホールディングス
前述のように、暗号資産や仮想通貨の領域ではLINE(およびNAVER)にその開発や運営を任せて、機能としてPayPayに取り込む計画だ。
一方で、投資分野においては「PayPay証券(旧One Tap BUY)」、そして野村ホールディングスとLINEが共同出資する「LINE証券」が同時に展開する戦略をとっている。銀行業に関しても同じような戦略をとると考えられる。
なお、LINE CEOで、現在はZHDの代表取締役Co-CEOを務める出澤剛氏は8月3日の会見で質疑応答に応じ、「(LINE銀行の開業は)当局の許認可を受けるために準備中」として具体的なスケジュールについての言及を避けた。
しかしLINE銀行も「当然PayPayとの連携も視野にある」とZHDの金融戦略の1つに組み込まれていることを明言している。
(文・小林優多郎)